2018年 10月 01日 ( 1 )

生涯現役社会のの中で歯科はどう関わるか

安倍首相が力込める「生涯現役社会」の現実味
課題は高齢者雇用と健康寿命延伸の2つ

安倍晋三首相は9月20日に自民党総裁に3選された。自民党総裁選中から、安倍首相は次なる社会保障改革の焦点として、「生涯現役社会」の実現を挙げていた。生涯現役社会の実現とは、いくつになっても意欲さえあれば働ける環境を整えることを意図している。

2015年9月の総裁再選時に安倍首相は「アベノミクス第2ステージ」と題して、「希望を生み出す強い経済」、「夢を紡ぐ子育て支援」、「安心につながる社会保障」という、「新たな3本の矢」の政策を示し、その実行によって「1億総活躍社会」を目指すことを掲げた。その背景は本連載の拙稿「『アベノミクス第2ステージ』成功の条件とは」で記したところである。
それを踏まえ、2015年10月に一億総活躍国民会議を立ち上げて、2016年6月に「ニッポン一億総活躍プラン」を取りまとめた。これを受けて、働き方改革は一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジと位置づけ、同年9月に働き方改革実現会議を立ち上げ、2017年3月に「働き方改革実行計画」を取りまとめた。それを踏まえて、働き方改革関連法案が国会で審議され、一部修正のうえ成立した。

働き方改革第2弾は「生涯現役社会」
さらに一億総活躍社会実現のために、人生100年時代を見据えた経済社会のあり方を構想すべく、2017年9月に人生100年時代構想会議を立ち上げ、2018年6月に「人づくり革命 基本構想」を取りまとめた。こうして安倍首相は2期目の自民党総裁任期を終えた。
安倍首相の自民党総裁の新任期では、いわば働き方改革の第2弾として、「生涯現役社会」の実現を掲げた。「アベノミクス第3ステージ」とは称していないが、その意味では改革論議の継続性を持たせている。人生100年時代の到来に備えて、長生きしても充実した生活が送れる社会にする取組みが求められている。
生涯現役という言葉は、巷間でもよく使われている。が、多くの人が生涯現役でいられるわけではないのが、現状だ。ましてや、生涯現役でいたいとは思わず、静かに余生を楽しみたいと思う人もいるだろう。
ただ、これから政府が議論の俎上に乗せたいことは、働きたくない高齢者に無理やり働かせるわけではないし、高齢者になっても働かなければ老後の生活が維持できないような改革を進めるわけでもない。
目下、わが国で支障をきたしているところとして、働きたい高齢者が働く機会に恵まれないことや、健康な状態を長く維持できないことで高齢でも活躍できる期間が限られていることがあり、それをどう打開するかが焦点となっている。

高齢者の8割が70歳以降も働くことを希望
現に高齢者の8割が70歳以降も働くことを希望している。他方、働く高齢者ほど健康な状態である人が多く、医療・介護費が低い。こうした現状を踏まえて、高齢者雇用のさらなる促進や健康寿命の延伸などに向けた、具体策が検討されることになる。
今のところ、この検討は「未来投資会議」が中心的な役割を果たすことになるが、その知恵出しは、経済産業大臣の諮問機関である産業構造審議会に設けられた「2050経済社会構造部会」が担うことになる。
高齢者雇用のさらなる促進による恩恵は、1つに、働く高齢者ほど医療・介護費が低いことが挙げられる。医療・介護費が低いことは、財政面の恩恵にとどまらない。医療・介護費が多いと、比例的に医療や介護の自己負担も多く必要となるから、高齢者の家計を圧迫する。
長寿化する中で、医療や介護の自己負担が多くかさむとなると、若い現役時代から多めに貯蓄をしておかなければならなくなる。健康であることで、医療・介護費が低くなることは、まずは本人のためだ。
働く高齢者が増えれば、社会保障の支え手側に回る高齢者も増える。少子高齢化が進み、支え手となる就業者が減ることで、わが国の社会保障が維持できなくなると懸念されている。
支えられる高齢者を65歳以上と定義すると、2012年には1人の高齢者を3人弱で支える”騎馬戦”型の社会だったのが、支え手の減少によって、2017年には1人の高齢者を2.1人で支える状態になり、2050年には1人がほぼ1人を支える”肩車”型の社会になるといわれている。
しかし、支えられる高齢者を75歳以上とし、支え手を74歳以下と定義すると、2017年には1人の高齢者を5.1人で支える状態で、支え手の減少でその比率は低下するものの、2050年には1人を2.7人が支える程度にとどまる。
この比率は、65歳以上を高齢者と定義した場合の今の状況より、支え手が多い人口構成であるといえる。これが産業構造審議会の2050経済社会構造部会の第1回会合資料で示された。74歳以下を支え手とできれば、1人当たりの社会保障負担も軽くできる。その意味でも高齢者雇用の促進は重要といえる。
高齢者雇用をさらに促進するには、高齢者継続雇用制度の見直しや中途採用の拡大が必要となる。だが、言うは易く行うは難しで、克服すべき課題も多い。65歳以上へ継続雇用年齢を引き上げるには、人事評価や報酬体系の整備を進める必要がある。
適材適所でない形で高齢者を雇用することを企業に無理強いするわけにはいかない。政府主導の政策誘導だけでなく、民間主導のコンセンサス形成も求められる。

インセンティブ措置を強化する必要がある
もう1つ、健康年齢を延ばせるようにするには、現役世代も含め、予防・健康へのインセンティブ措置を強化する必要があろう。そこで、2050経済社会構造部会の第1回会合で出たアイデアに、「ナッジ」がある。
ナッジとは行動経済学で使われる用語で、ちょっとした工夫で個人に気づきを与え、よりよい選択ができるように支援する手法を指す。第1回会合で紹介された事例では、食塩中の塩分を徐々に減らしても、人は味の変化に気づかないことを利用し、イギリスで食品メーカーの協力の下、5年間で加工食品中の塩分を40%低減させ、塩分摂取量が15%減少した結果、生活習慣病(虚血性心疾患・脳卒中)の患者数が約4割減ったという。
今後、日本で予防・健康への動機づけのために、ナッジが使える可能性が大いにあろう。検診案内を自分の健康に関心を持ってもらうようなデザインにして受診を促すことや、拙稿「『健康スコアリング』が問う、社員の心と身体」で紹介した「健康スコアリングレポート」で経営者に従業員の健康について気づきを与えたりすることが考えられる。
こうした検討を深め、2019年夏までに成果を反映させる方針だ。負担増の議論は来年の参議院選挙後になりそうなだけに、選挙前は「生涯現役社会」の実現に向けた活発な議論に期待したい。

(東洋経済ONLINE 土居丈朗)



この論文の中には、これからの日本の社会に歯科が大きく関与する、しなければならないヒントがあるようです。
by kura0412 | 2018-10-01 11:14 | 歯科医療政策 | Comments(0)


コラムニスト・鞍立常行が日本の歯科界に直言


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ミラーを片手に歯科医師の本音

回想

本紙閉刊に伴いこのコラムも今回で最後となります。平成10年9月から19年間、筆が進まない時もありましたが、締め切りを遅らせることもなく、また大きなトラブルもなく終えることにある意味安堵しております。ただその中で一度だけで校正まで終えながら書き直したことがありました。それはあの「日歯連事件」と称された事件が勃発した時でした。
あの時は一人の開業医でしかない私が、社会事件になるほどの大事件に対して実名で書くことに躊躇しましたが、事件に対していろいろな観点から憤りを感じ、もし問題となれば歯科医師を辞める覚悟をもって書きました。この事件によって日本の歯科界に大きな変化があったことは多くの先生方が感じられたことです。今思えばその内容は別として、あの時書き綴っておいたことが、その後連載を続けられた源になっていたかもしれません。
然るに風化しつつあるあの事件の本質は何だったのか。その手法に対しては司法判断が下った結果が示されていますが、事件の根本には、現在も続く歯科医療に対する公的評価の低さを何とか打開しようと考え方がありました。この点を誰もが分かっているのに言葉に出ていません。但し結果的には中医協委員が1名減員、事件後の懲罰的な18年度改定となり、歯科界の思いとは反対の流れを作ってしまいました。特に改定では、それまでの改定時で、技術料を引き下げながら作った僅かな財源を「かかりつけ歯科医」初再診料に振り分けながらも、「かかりつけ歯科医」を一気に消し去られたことによって、保険点数全体が縮小したと共に、時代の流れである「かかりつけ歯科医」という名称、概念をも否定されることになってしまいました。そして事件によって植え付けられた歯科界の負のイメージは現在も引きずっています。
日本の歯科界は今、大きな分岐点に差し掛かかり、新しい息吹が入る機運も高まっています。但し、この負のイメージを引きずったままでは大きな壁が存在します。あの事件は終わったのでなく、まだ背負っており、それを回顧することで歯科界の課題を改めて見出すことが必要です。
残念ながら現在、日歯、日歯連盟共に入会者、特に若い先生の入会が減少しています。事件の影響、また、入会することへの利点を見出せず、医療環境向上寄与への期待が薄らいでいるからです。個人で個々の臨床現場での対応出来ても、政策を変えるには一つの塊にでなければパワーが発揮できないだけに、この問題は歯科界発展の最大の課題です。その為には、過去の問題となった出来事を背景も含めて改めて見直し、そして新しい目標を示す。それも抽象的でなく、具体的な分かりやすい政策を提示することで歯科界の展望が分かることで推進力の働きとなります。
最後に、本コラムを続けなければ会うことの出来なかった全国の先生方と交流できたことは、私の歯科医師人生としての財産となりました。そして、好き気ままに綴ることを甘受して頂き、連載を許して頂いた歯科時報新社・吉田泰行社長に感謝を述べ終わります。ありがとうございました。

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