クローズアップ2018:延命治療中止 医師葛藤 過酷な判断

意識不明や認知症で、意思疎通ができない患者を受け入れる救命救急の現場。患者の意思確認を短時間で行うことは困難を極め、救急医は日々、過酷な判断を迫られている。国は今年3月に終末期医療の指針を初改定した。救命以外の現場でも延命治療取りやめの動きが広がるが、尊厳ある最期の迎え方を模索する医師らの葛藤は続いている。

◇患者家族の心も救う
全国最多の年間1万3000人超の救急搬送者を受け入れる湘南鎌倉総合病院(神奈川県鎌倉市)の救命救急センター。1日40台近い救急車が滑り込み、待ち受ける医師は死と隣り合わせの患者の治療に追われる。6割以上が高齢者だ。
「すごいスピードで高齢化の波が押し寄せている」。センター長で医師の大淵尚さん(54)の表情は険しい。回復が見込めない終末期患者の搬送も多く、延命治療を取りやめる機会が増えた。昨年中に取りやめた患者は約150人に上り、全員が高齢者だった。
「じいちゃんは『延命を望まない』と言っていた。治療はやめてください」。近年は患者の回復が見込める場合でも、こんな申し出をする家族も少なくないという。大淵さんは「全てが医者に任されていた時代と違う。今はどんな治療でも家族の同意が必要になるが、わずかな時間で動転する家族と信頼関係を築くのは難しい」と漏らす。
関東地方の別の救急医は数年前、耳を疑う相談を持ちかけられた。自殺を図り、心肺停止の状態で運ばれてきた男性の家族が、「死因は肺炎などの合併症ということにして、もう殺してくれ」と言うのだ。家族は家を新築したばかりで、多額のローンを抱えていた。自殺になれば、男性に掛けられた保険金が支払われないと懇願されたが、断った。

家族が経済的な思惑を優先しすぎていないかも見極める必要がある。
この救急医は「終末期の意思確認に関する教育なんて受けていないのに、『現場で判断しろ』と言われる。葛藤の連続だ」と悩む。
国や各医学会が公表する指針には、延命治療の中止が認められる基準が詳細に示されているわけではない。「指針に頼らず、医師が患者や家族と向き合って判断していくしかない」。大淵さんはそう考える。

大淵さんは4年前、重症肺炎で意識不明に陥った高齢女性の人工呼吸器を、家族と話し合って取り外した経験がある。女性はこのセンターに何度も搬送されていた。
呼吸器の取り外し行為は、過去に北海道や富山の病院で医師が刑事責任を問われかけ、その懸念から今でも慎重な医療機関が多い。呼吸器を外せば患者は短時間で亡くなるため、医師の精神的な負担が大きいとされる。それでも、大淵さんは呼吸器を外すことも選択肢から外さない。毎日新聞のアンケートに対しても、「みとりを積極的に行うべきだ」「法的に責任を問われる可能性がある」など、各病院の意見は割れた。
高齢化が進む中、無理に機械で延命される患者は苦しみ、介護を迫られる家族も経済的な重荷を背負わないか。「患者家族の心を救うのも医療のはずだ」。大淵さんは自らの信念や倫理観を信じるが、正解はどこにもない。
治療の取りやめも決断し、「みとり」も担うようになった救急医。誰にも最期が訪れるからこそ訴える。「自分は、家族は、どう生きたいのか。全ての人に考えてほしい」

◇改定指針、現場任せ
厚生労働省が2007年に策定した終末期医療の指針は、医療側を「規制」する意味合いが強かった。延命治療の取りやめは患者本人の決定が基本だとし、医師や看護師など多職種によるチームで判断することを柱としていた。
その後の10年あまりで社会状況は変化し、患者にとって「尊厳ある最期」をいかに迎えるかという観点で終末期医療のあり方が議論されるようになった。厚労省の17年度の調査では、心臓や呼吸が止まった場合に、心臓マッサージや人工呼吸器などを望まない国民は7割に上っており、各医学会は既に独自の指針を策定している。終末期には延命治療が必ずしも患者のためにならないとの考え方があるからだ。年間の死者数は40年には168万人にまで増える見通しで、医療機関が延命治療に関する判断を迫られるケースは今後も増えると予想される。

厚労省は終末期医療の実態は把握していないが、17年6月に日本透析医学会で発表された調査結果では、回答した人工透析施設の47%が終末期患者らへの透析をしなかった経験がある。毎日新聞が政令市などの全国74消防機関から回答を得た調査では、うち16機関で心肺蘇生を中止した実例があった。延命治療取りやめは、救命救急センター以外の医療現場でも広がっているとみられる。
厚労省が3月末に指針を改定し、患者と家族、医師らに繰り返し話し合うよう求めたのは、延命治療の取りやめの判断はそれぞれにとって重いためだ。新指針では、話し合いの結果を文書に残す必要性も強調した。4月に改定された診療報酬は、みとりなどの報酬算定要件に「指針を踏まえた対応」を追加し、医療機関に取り組みを促してもいる。
ただ、延命を取りやめて患者が死亡した場合、刑事責任を問われる可能性については、指針の「解説編」で「法的側面は引き続き検討する必要がある」としているのみ。尊厳死を認める議員立法の動きも中断しており、医療側が懸念をぬぐえない要因になっている。

◇延命治療
重い疾患で死が差し迫り、回復の見込みがない患者に対する延命を目的とした治療。気管に入れたチューブで酸素を送り込み、心肺機能の維持を図る人工呼吸器の取り付けがよく知られている。腎機能の低下で血液中にたまった老廃物などを取り除く人工透析や昇圧剤の投与も含まれるとされるが、明確な定義はない。

(毎日新聞)



このような瞬時の判断を迫られることは少ないですが、摂食嚥下の分野でも終末期での治療の選択に苦慮するケースは増えてきています。
by kura0412 | 2018-06-01 09:31 | 医療全般 | Comments(0)

「社会保障費が2040年に1.6倍」は本当なのか?
日本の医療・介護費はそんなに怖くならない

「2040年度の社会保障費190兆円、今年度の1.6倍に」――。新聞各紙に大きな見出しが躍った。5月21日に政府が発表した「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」。社会保障費の長期試算としては2012年に発表して以来のものだ。前回試算では、2025年度までを見通したが、今回は2040年までが対象だ。
2040年というと、団塊ジュニア世代がすべて65歳以上に到達し、高齢化率(65歳以上人口比率)が2015年の26.6%から35.3%に急上昇、同年齢以上の人口は3900万人超とピークを迎える。具体的には、65歳以上人口は2015年の3386万人から2040年に3920万人と1.16倍に。さらに、医療・介護支出が急増する75歳以上人口は2015年の1632万人から2040年に2239万人と1.37倍の大幅増加となる。
医療費が増える要因としては、技術革新による医療の高度化もある。2040年の社会保障費が1.6倍になると報道されれば、「無理もなかろう」と多くの人は思うだろう。だが、今回の試算を見て、社会保障費が1.6倍に増えると考えるのは、実は「誤読」だ。落とし穴は、社会保障費の金額だけで考えてしまうところにある。どういうことか、見ていこう。

個々の費用はGDPと比較して見る必要がある
2040年度に社会保障費が190兆円で、2018年度の1.6倍になるという今回の試算はどんな経済状況が前提となっているのだろうか。それは、名目GDP(国内総生産)成長率が2018~2027年度までは年率1%台後半~2%台半ば、2028年度以降は年率1.3%というものだ(今回試算のベースラインケース)。その結果、わが国の名目GDPは2018年度見込みの564.3兆円から2040年度には790.6兆円と1.4倍になる前提となっている。
つまり、私たちの所得が今の水準のまま社会保障費負担が1.6倍になるのではない。私たちの所得が1.4倍になった将来の世界で、社会保障費負担が1.6倍になっているわけだ。これはどう考えたらよいだろうか。

試算では、GDP成長率や、それと比例的に動く賃金上昇率、物価上昇率に応じて、医療費や介護費の単価の伸び率が設定されている。つまり、「1.6倍」の金額の中にはこうした価格上昇分が入っているわけであり、社会保障費の実質的な支出が1.6倍になっているわけではない。
極端な例として、私たちの経済活動はまったく同じだが、翌年にすべての価格だけが2倍になった世界を考えてみよう。そのとき、社会保障費は当初100兆円だったが、価格が2倍になったため、翌年は200兆円になる。これで社会保障費が2倍になったと私たちは叫ぶだろうか。私たちの所得も2倍になっているため、社会保障費の負担感はまったく変わらない。
経済統計の世界では、特に5~50年など長期の試算を行う際は、金額ベースで物を考えてはいけないという暗黙のおきてがある。それは先述のように物価が変わってしまうため、実質的な大きさがわからなくなってしまうからだ。だがなぜか、日本のマスコミは、社会保障費の見通しについてこのルールを逸脱する癖があるようだ。
では、こうした長期の試算について、金額ではなく、どんな数値を基に考えればよいだろうか。それが対GDP比という指標だ。GDPというのは一国の経済規模(=所得)のことであり、個々の費用を経済規模に占める割合で見るわけだ。たとえば、先の価格だけが2倍になった世界でいうと、分母のGDPも2倍になるため、対GDP比は変わらない。

対GDP比で見ると「今年度の1.11倍」が正しい
今回の試算では、社会保障費の対GDP比はどうなっているだろうか。2018年度は21.5%で、これはわが国の経済活動の21.5%が医療・介護や年金、子育てなどの社会保障に使われていることを意味する。これが2040年度には23.8~24%になる見通しだ。2018年度との比較では、2.3~2.5%ポイントの違いであり、倍率にして1.11倍程度の増加にすぎない。つまり、今回の報道では、「2040年の社会保障費は今年度の1.11倍に」が正しい見出しといえるだろう。
この1.11倍という数字は、医療・介護の将来像を映し出している。社会保障費の中には、年金や子育て費用も含まれるが、これらの対GDP比の増加は小さいため、ここでは社会保障費の増加は医療・介護によるものとして考えてみよう。先述のように、2015年から2040年にかけてわが国は、最も医療・介護費を使う75歳以上人口が1.37倍に増える。だが、実際の医療・介護費は、75歳未満人口の減少や、現在進められている医療提供体制改革(急性期医療の効率化など)の効果などから、1.11倍に抑えられるということだ。
これは次のように言い換えることもできる。単価の伸びの影響は、対GDP比では無視してよい。そのため、対GDP比の意味するところは、数量的な経済活動の規模でもある。つまり、わが国経済の数量的規模の中で社会保障の占める割合は2018年度に21.5%だったが、それが2040年度には24%程度になるということだ。
こうした対GDP比での社会保障費の推移を見ると、2000~2015年度では、14.8%から21.6%と6.8%ポイントの上昇を示していた。これは倍率にして1.46倍だ。2018~2040年度の社会保障費の増加は、実は2000~2015年度よりもマイルドな見通しだということがわかる。

欧州主要国より実質の社会保障費は小さい
為替の違いなどを排除できるため、対GDP比で考えると、国際比較も楽になる。欧州主要国の社会保障費の対GDP比は、日本より高い。
高齢化率は日本が断トツで高いにもかかわらずだ。つまり、なるほど日本は世界が経験したことのない超高齢社会に世界に先駆けて突入しているが、高齢化に伴う社会保障費の負担増という意味では、すでに欧州が先を行っているということだ。日本は社会保障費の膨張で未踏の領域に達しているわけではない。
もちろん、日本は税や社会保険料の対GDP比が欧州より低く、そのため、財政赤字が山積している。社会保障の効率化だけでなく、税や社会保険料の負担増も検討していく必要がある。社会保障費の増加に対し、むやみに恐怖感を持てば、正しい判断ができなくなる。

(東洋経済ONLINE)
by kura0412 | 2018-06-01 09:26 | 経済 | Comments(0)