高齢者受難の時代到来、70歳以上の高額療養費がアップ

12月15日、自民・公明両党の厚生労働部会が医療・介護制度改革案を承諾。これを受けて、2017年度の政府予算案が22日に閣議決定された。
社会保障にかかる費用は、新薬や医療機器の開発などによる医療の高度化、人口の高齢化などによって自動的に増える宿命を背負っている。厚生労働省の予測では、この社会保障費の自然増が、2017年度分は6400億円になると予測していた。
だが、安倍政権は「経済財政運営と改革の基本方針2015(骨太方針2015)」で、2020年まで社会保障の自然増を年間5000億円以内に収めるという具体的な数値目標を提示し、社会保障費を厳しく抑制することを政策に据えている。そのため、2017年度の予算も自然増を5000億円以内に抑制することが至上命令となっていたのだ。
そこで、今回、ターゲットとなったのが高齢者の医療・介護だ。なかでも大きな割合を占めるのが、これまで本コラムで何度も取り上げてきた70歳以上の人の高額療養費で、来年8月から低所得層を除いて限度額が引き上げられる。
ただし、70歳以上の人の医療費の引き上げは、高齢者の票離れを進め、政局にも影響を及ぼす。そのため、自己負担限度額の決定までには、最後までせめぎあいがあった。いったい、いくらで決着したのだろうか。

高齢者の高額療養費は通院のみの限度額がある
通常、病院や診療所を受診すると、年齢や所得に応じてかかった医療費の1~3割の一部負担金を支払う。だが、治療が長引いたり、手術を受けたりして、医療費が高額になると、その一部負担金を支払うだけでも大変になる。
そこで、健康保険では、患者が1ヵ月に支払う医療費の自己負担額に上限を設けており、医療費が家計の過度な負担にならないように配慮している。これが高額療養費で、年齢や所得に応じた限度額が決まっている。
70歳未満の人の限度額は、2015年1月から所得に応じて5段階に分類され、年収約770万円以上の高所得層は限度額が引き上げられた。
70歳以上の人の限度額も、過去に何度も見直しの議論は行われてきたものの、高齢者の反発を恐れた歴代政権は、特例措置によって据え置きを続けてきたのだ。
だが、今回は、社会保障費の自然増を5000億円に抑制するという安倍政権が掲げたミッションを遂行するために、最後の砦にも手をつけざるを得なくなった。
70歳以上の人の高額療養費の限度額は、所得に応じて4段階となっており、これまで通院(外来)のみの上限も別枠で設けられてきた。この外来特例は、2002年10月に、70歳以上の人の一部負担金が1割になり、それまでの老人医療制度の月額上限を廃止したことによる経過措置で、いずれは70歳未満の人と同じように入院もした場合の金額に一本化するはずだった。
高齢者の外来特例は導入から14年が経過し、1割負担が定着したこともあり、厚生労働省の審議会では、経済界側の委員から外来特例の撤廃を求める意見が相次いでいた。
だが、今回また政治的な理由によって、当面は外来特例が維持されることになった。また、自己負担額の引き上げ幅も、当初、提案されていた金額よりも低く抑えられた。

2017年8月から段階的に限度額の引き上げが開始
このなかで、いちばん対象者が多いのが、住民税課税世帯で年収約370万円以までの「一般」の所得区分の人で、約1250万人が影響を受ける。
一般の人の高額療養費は、当初予定では通院のみの限度額を現行の1万2000円から2万4600円に引き上げる案が濃厚だった。しかし、最終的には引き上げ幅は抑えられ、2017年8月から1万4000円、2019年8月に1万8000円にすることで決着。
また、通院の高額療養費については、1年間の上限額を14万4000円にする新たな制度が導入されることになったため、1年を通じた限度額はこれまでと同じになる。がんの通院治療などで継続的に医療費がかかっている人は、医療費が大幅に増える心配はない。
入院もした場合の世帯の1ヵ月の限度額は、これまで4万4400円だったが、来年8月から5万8000円に引き上げられる。ただし、こちらも多数回該当(過去12ヵ月間に、高額療養費に該当する月が3回以上あると、4回目から限度額が引き下げられる制度)が導入され、4回目以降は4万4400円になる。
厚生労働省の審議会で、「低所得層への配慮」はほとんどの委員の一致した意見だったこともあり、住民税が非課税の低所得層の限度額は据え置かれることになった。
一方、負担が大幅に増えるのが、150万人程度いる年収約370万円以上の「現役並み所得者」の人たちだ。
まず、通院のみの限度額は、現行の4万4400円から2017年8月から5万8000円に引き上げられ、2018年8月からは外来特例そのものが廃止される。同時に、上図のように所得区分は細分化され、通院も入院も関係なく限度額は一本化される。お金のある高所得層には70歳以下の人たちと同じ医療費の負担をしてもらおうというわけだ。
たとえば、年収1160万円以上の人で、1ヵ月の通院の医療費が100万円だった場合の自己負担額は、これまでの万4400円から、2018年8月以降は25万4180円と大幅にアップする。
これは、「年齢ではなく負担能力に応じた公平な負担」をという観点によるものだという。もちろん、社会保険は応能負担が原則だが、それを病気やケガをした患者という立場の人に背負わせるのは正しいことなのか。
とくに、高齢者は医療機関の受診率が高く、実際に自己負担している金額は現状でも現役世代の2倍になっている。今後、高所得高齢者世帯では、家計に占める医療費の割合はますます増えていくことが予想されるが、その先に待っているのはどのような社会なのか。

小泉改革による医療崩壊を彷彿とさせる安倍政治
前出の「骨太方針2015」では、社会保障費の自然増を年間5000億円に抑えるという具体的な数値を示す一方、2013年8月に出された社会保障制度改革国民会議の報告書で何度も用いられた「社会保障の機能強化」という言葉が消えた。
こうした医療費や介護費の厳しい抑制政策は、小泉改革を彷彿とさせる。小泉内閣時代に出された「骨太の方針2006」では、社会保障関連費の自然増を年間2200億円削減する政策が強行されたが、その結果、「医療崩壊」という言葉を生み出すまでに医療の現場を疲弊させることになった。
今回の社会保障費の自然増の抑制は、小泉改革よりも厳しい数字だ。その数字合わせのために、高齢者の高額療養費の負担増だけではなく、今回は後期高齢者医療制度の保険料軽減特例の見直し、入院時のホテルコストの見直しなども同時に行われ、病気やケガをした人の負担はどんどん増すことになるだろう。
「高齢者の高額療養費の限度額引き上げ」は、たんに制度改革のひとつかもしれないが、それを導火線として、小泉改革で経験したような貧困の増大、医療・介護の現場の疲弊につながる可能性は否定できない。
だが、少し前の過去は、そうした数字合わせの政策は都合よく運ばないことを教えてくれている。小泉改革は結局のところ実現せず、反対に社会保障を機能強化しようという大きな社会運動に発展したからだ。
今回の安倍政権による社会保障費の大幅削減は、2017年の日本の社会をどのように導くのか。目を凝らして見ていきたいと思う。

【DAIAMOND ONLINE・早川幸子】



こうゆう考えもあります。
by kura0412 | 2016-12-29 10:11 | 医療政策全般 | Comments(0)

社会保障費「5000億円増に抑制」では甘すぎる
不足財源を賄うため、いずれは大幅増税に

国の一般会計歳出の3割超を占め、最大の費目となっている社会保障費。12月22日に閣議決定された2017年度予算でも、2016年度の当初予算から4997億円増加し、32兆4735億円まで膨らんだ。今や社会保障費は、日本の財政を左右する大問題となっている。
当初、厚生労働省からは高齢化に伴う自然増として対当初予算比6400億円増の要求があったが、「経済・財政再生計画」の目安である5000億円増の範囲に抑制された。70歳以上の高額療養費制度の見直し(224億円削減)、後期高齢者の保険料軽減特例の見直し(187億円削減)、高額薬剤(がん治療薬「オプジーボ」)の薬価引き下げ(196億円削減)、介護納付金の総報酬割(所得に応じて介護保険料の負担を算出する方法)の導入(443億円削減)などが盛り込まれた。

数字合わせのための一時しのぎの抑制策だけ
全般的に70歳以上の高齢者や高所得者の負担を求めるものだが、「なんとか5000億円増という目標値に合わせた印象だ。一時的な効果しかなく、歳出への切り込みが不十分」と、日本総合研究所の湯元健治副理事長は指摘する。過去には補正予算で当初予算の抑制額を上回ったこともあり、補正予算での追加を含めた決算ベースの数字にも注目する必要がある。
年金については、12月14日に年金制度改革関連法が成立。賃金スライド(賃金上昇率によって年金額を改定する仕組み)を強化するなど、将来世代への影響の軽減に向けて一定の前進があった。一方で医療・介護費は急膨張が見込まれる。2025年までには団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となるからだ。後期高齢者は前期高齢者(65~74歳)と比べ、1人あたり医療費の国庫負担分が約5倍、介護費が約10倍になるとされる(2014年、財務省)。後期高齢者の人口が増えればその分医療費が膨らみ、財政に与える影響も大きくなる。

日本総研の湯元氏は、根本的な給付抑制につながる、以下のような制度設計を議論すべきだと指摘する。
(1)医療機関への「フリーアクセス」の制限、かかりつけ医の強化
日本では一般的に、患者が自由に病院を選び診療を受けることができる。そのため軽症であっても高度な医療設備を持った大病院を受診して過剰な医療サービスを受けたり、受診回数が多くなったりするケースが指摘される。病院側も診療報酬を得られるため、医療行為を抑制するインセンティブが働きにくい。
欧州では原則としてまずはかかりつけ医の診断を受け、症状が重篤な場合はかかりつけ医の紹介状を持って大病院に行くという病院の機能分化が進んでいる。日本でもかかりつけ医の受診へと誘導するため、かかりつけ医以外の病院では定額負担を課す案が厚生労働省で審議されたが、かかりつけ医の定義や負担額をめぐり議論は難航している。

(2)終末期医療の制限
高齢者などで回復の見込みがないと判断された場合でも、家族の希望に応じて胃ろうや点滴などによる延命治療が行われるケースもある。諸外国では延命治療が制限されることも多いが、日本ではかつて患者の人工呼吸器を外した医師が警察の捜査を受けた事件もあり、延命治療の差し控えはタブー視される傾向にある。そもそも、どこからが「終末期」なのかといった定義も難しく、終末期にかかる医療費の試算や削減の検討はほとんどなされていない。

(3)要介護認定基準の厳格化
介護費用は介護保険制度の始まった2000年度(3.6兆円)から急激に増え、2016年度には10.4兆円に達している。うち、4割弱は生活支援を中心とする要介護1〜2とその前段階の要支援1〜2に相当する軽度者が中心であり、本当に介護サービスが必要か、どのような介護サービスが必要かといった内容を精査する必要がある。また、限度額の範囲内であれば原則1割(高所得者は2割)の自己負担額の引き上げについても議論されている。

不足財源を消費税でカバーなら税率は17%に
以上のような医療・介護費の抑制策は不利益を被る人も少なくないため、これまでは不人気政策として先送りされてきた。今後も給付削減が困難であるとすれば、財源確保のために10%を超える消費税率の引き上げも検討しなければならない。
湯元氏の試算によれば「今後の社会保障の不足財源をすべて消費税でカバーする場合、17%への消費税引き上げ率が必要となる」という。さらに、子育て支援など現役世代への給付も充実させるとすれば、それ以上の引き上げも視野に入る。政治家も国民も、現実を直視しなければならない時期に来ている。

【東洋経済ONLINE】




後段の抜本的改正と称する3つの考え方は、考えることは理解できても、実際、医療・介護現場ではそう簡単に対応できるものではありません。
by kura0412 | 2016-12-29 09:56 | 医療政策全般 | Comments(0)