2016年 12月 27日 ( 3 )

『「最大の目的は国民皆保険の維持」のはず』

「薬価制度の抜本改革、メーカーの成長戦略か」と疑念
中川日医副会長、「中医協の自主性低下」も危惧

中央社会保険医療協議会薬価専門部会(部会長:西村万里子・明治学院大学法学部教授)は12月21日、「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」を議論した。同基本方針は、薬価調査を毎年実施し、価格乖離が大きい品目について、薬価改定を行うことが骨子で、前日20日に開かれた塩崎恭久厚労相ら4大臣会合で合意していた。

日本医師会副会長の中川俊男氏は、基本方針に対し、「改めて読むと、非常に大きな問題がある。薬価改定財源を国民皆保険制度の維持ではなく、製薬企業の成長戦略のために充てる方針のように見える」と疑念を呈した。毎年の薬価改定を打ち出す一方、「費用対効果の高い薬には薬価を引き上げることを含め、費用対効果評価を本格的に導入」「より高い創薬力を持つ産業構造への転換」などと記載しているからだ。
さらに中川氏は、薬価専門部会でも薬価制度改革について議論しており、本来は中医協マタ―であるにもかかわらず、「4大臣合意」として基本方針が取りまとめられたことを踏まえ、「中医協の自主性が少しずつ失われつつあるのではないか」とも懸念、中医協での主体的な議論を訴えた。

一方、支払側の全国健康保険協会理事の吉森俊和氏は、薬価の毎年改定に向けた薬価調査の在り方をはじめ、基本方針には「来年中に結論を得る」とされている点について、その主体を質した上で、「一方的に経済財政諮問会議からボールが投げられることがないように留意してもらいたい。検討項目は多岐にわたり、相当ハードな議論になるだろう。優先順位を付けて、納得性のある議論をするためにも早く議論を開始してもらいたい」と中医協で主体的に議論していくよう、釘を刺した。
厚労省保険局医療課薬剤管理官の中山智紀氏は、吉森氏の質問に対し、2017年の年初から、薬価専門部会で議論を開始し、基本的な内容については同部会で議論を深めていくと説明。ただし、その結論は、関係省庁や経済財政諮問会議と最終的に調整をして、2017年末までに得るとした。
健康保険組合連合会理事の幸野庄司氏は、各論について質問。薬価の毎年改定のための薬価調査が、「大手事業者等を対象に行い」とされている点について、大手4社で取り扱う医薬品の数量シェアは約75%だが、中小卸を外すことで、実勢価格を正しく評価できるか」と質問。さらに、DPCなど薬剤費が包括されている点数の扱いのほか、薬価制度と同様に特定保険医療材料の価格算定方式についても検討が必要だとした。

抜本改革の基本方針には、薬価の毎年改定のほか、
(1)オプジーボに代表されるように効能追加等に伴い、市場が一定規模以上拡大した薬については、新薬収載の機会を最大限活用して、年4回薬価を見直す、
(2)新薬創出・適応外薬解消等加算制度をゼロベースで見直し――が盛り込まれており、12月21日の経済財政諮問会議に報告される。
今後の焦点は、毎年改定の薬価調査の方法、「価格乖離の大きい品目」の定義、毎年薬価改定の財源の取り扱いだ。通常の薬価調査の在り方なども含め、2017年中に結論を得ることになっており、2017年の年明けから議論がスタートする。

「最大の目的は国民皆保険の維持」のはず
中川氏はまず、「このような基本方針を、中医協が主体的かつ自律的にまとめることなく、4大臣合意という形でまとまったのは、非常に遺憾」と述べ、「来年末までに結論を得る」などと指示されていることなども踏まえ、「中医協の自主性が少しずつ失われつつあるのではないか」と指摘し、診療側と支払側ともに自戒すべきと語った。
吉森氏が、今後の議論はハードであり、時間がかかると見通した点については、中川氏はこれまでも議論を重ねてきたことから、それほど時間はかからないとし、厚労省に対し、スピード感を持って議論を進めるよう求めた。「のんびり議論していたのでは、経済財政諮問会議が何らかの意見が出てきかねない。そうした危機感を持ってやってもらいたい」(中川氏)。

その上で、中川氏は、基本方針が、安倍政権がかかげる成長戦略を狙った方針に映ると指摘した。
基本方針は、序文に「国民皆保険の持続性」と「イノベーションの推進」の両立を基本理念として掲げている。中川氏は、オプジーボ(一般名ニボルマブ)の薬価引き下げを求めていたのは、公的国民皆保険の維持が最大の目的であり、現実にはこれらの両立は容易ではないと指摘。
基本方針には、「革新的新薬創出を促進するため、新薬創出・適応外薬解消等促進加算をゼロベースで抜本的に見直すこととし、併せて費用対効果の高い薬には薬価を引き上げることを含め、費用対効果評価を本格的に導入」「我が国の製薬産業について、長期収載品に依存するモデルから、より高い創薬力を持つ産業構造に転換するため、革新的バイオ医薬品およびバイオシミラーの研究開発支援方策等の拡充を検討、ベンチャー企業への支援」など、イノベーション評価や研究開発投資の促進を狙った記載が多い。

中川氏は、創薬支援の対象となる「我が国の製薬産業」とは、内資系企業に限るのか、外資系企業も含まれるかを質問。「新薬創出・適応外薬解消等促進加算で恩恵を受けたのは、内資系ではなく、外資系企業であるという歴史的な経緯がある」(中川氏)。厚労省保険局医療課長の迫井正深氏は、「我が国に必要な医薬品を提供するという制度設計を行っている」と述べ、内資系か外資系かを問わず、日本の医療において薬を提供する企業全体を指すと説明。
そのほか、現在は試行的に導入されている「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」について、ゼロベースで見直すとされている点も質問。中川氏は従来から、革新的新薬創出の支援は、診療報酬ではなく、補助金等で対応すべきと主張してきた。中山薬剤管理官は、「現行の加算について、どのような課題があるかを洗い出して、研究開発投資の促進という観点で見た場合、どんな制度であるべきかをしっかり考え直すことだと理解している」と述べるにとどまった。
中川氏はそのほか、オプジーボの類薬に当たるキイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ)の薬価の問題にも言及。
キイトルーダは12月19日、悪性黒色腫に続いて、PD-L1陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんに対する効能・効果について薬事承認された。オプジーボはセカンドラインに使用するが、キイトルーダはファーストラインにも使用可能だ。早ければ2017年2月にも薬価収載される見通し。この点も踏まえ、中川氏はオプジーボの患者からの変更だけでなく、対象患者の拡大が見込まれる上、今後も他の癌種でも効能・効果の拡大が検討されていることから、厚労省に対し、迅速な対応を求めた。

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by kura0412 | 2016-12-27 10:13 | 医療政策全般 | Comments(0)

『「全員加盟の医師の団体」の是非を議論、日医 』

「全員加盟の医師の団体」の是非を議論、日医
委員長には京都大名誉教授の本庶佑氏

日本医師会の今村聡副会長は12月21日の定例記者会見で、日医内に設置した「医師の団体の在り方検討委員会」の検討状況の中間報告を説明、「医師偏在を含む医療のさまざまな問題をどのように解決するのか、そのためにどのような団体の在り方が必要なのかを検討している」と語った。
委員長は京都大名誉教授の本庶佑氏、副委員長は今村副会長で、委員には地域医療機能推進機構(JCHO)や日本病院会のトップなどが参加している。10月31日に第1回、12月8日に第2回の検討会を開いており、2017年春に最終報告を行う。議論の結果は厚生労働省の医師需給分科会などにも報告する方針。

今後の議論の方向性として、
(1)医師の団体が自主的・自律的に何らかの仕組みを作ることについて、その必要性の有無、(2)全員加盟の団体を形成することの是非や可能性・実効性の検討、
(3)全国的な視野に立ちつつ、都道府県を単位として、医師の団体等が大学等と協働し、また行政   とも連携して問題解決にあたる仕組みの検討、
(4)これらについて、例えば保険医や保健医療機関の在り方等も含め、議論の深化を図っていく――の4点を掲げている。

今村副会長は「医師が一つの団体に所属をして自主的・自律的に活動していくことが望ましいというのは、日医だけでなくさまざまな医療団体、学術会議で提言されていること。今回は本庶先生から、そうした団体の必要性が指摘され、とりあえず日医という場の中で議論をしていくことになった」と説明。
「全員加盟の医師の団体」が日医を指すのかという質問に対しては、「現実問題として、医師会以外に医師が加盟する団体を作るのは困難だと思うが、組織が必要かどうかということをゼロベースで議論していく」と今村副会長は回答。政治とのかかわりを含めて日医の在り方も検討の対象になるかについては「公益社団法人である日医と、政治活動を行う日本医師連盟とは別組織になっており、本来的には一緒にする話ではないと思うが、いろいろな意見が出てくるとは思うので、そのような話しも出てくるかもしれない」と述べた。

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by kura0412 | 2016-12-27 09:05 | 医療政策全般 | Comments(0)

『保険医療制度、“焼野原”にするな 』

保険医療制度、“焼野原”にするな
第57回日本肺癌学会学術集会、國頭・日赤医療センター

第57回日本肺癌学会学術集会(福岡市)で企画された12月20日のシンポジウム「医療経済から観た適正な肺癌診療」で、日本赤十字社医療センター化学療法科部長の國頭英夫氏が登壇、「私の第一の目的は、次の世代に今の医療システムを、焼野原にせずに、いかに引き継いでいくかにある」と述べ、高額薬剤の登場が相次ぐ時代にあって、「効果と副作用が同等なら、安い方の薬を使う」など、費用対効果を念頭に置いた処方行動の重要性を訴えた。

オプジーボ(一般名ニボルマブ)に代表される昨今の高額薬剤が社会問題化したのは、國頭氏が2015年の同学術集会で問題提起し、メディアで大々的に取り上げられたのが、一つのきっかけだ。國頭氏は、「オプジーボを非小細胞肺癌の適応用量で使用した場合、1人当たりの薬剤費は、年3500万円、5万人に使用すると年間約1兆7500億円」という試算を提示。國頭氏は、2016年4月の財務省の財政制度等審議会財政制度分科会でもプレゼンテーションした。
オプジーボの薬価は、2017年2月から50%引き下げられることになった(『オプジーボ、来年2月から50%引き下げへ』を参照)。國頭氏は20日の講演では、この薬価引き下げ問題には言及せず、批判の矛先は現場の臨床医だった。「新しいものはいいと、無条件で考えられている」(國頭氏)現状があり、結果的に効果や副作用が同等でも、新規、かつ多くの場合は高額な治療法に向かう傾向を問題視。オプジーボなどの高額薬剤については、最適な使用法を見いだすための臨床研究に取り組む重要性を強調した。
国際医療福祉大学大学院薬学研究科教授で、医療経済が専門で医師の池田俊也氏も、カナダのpCODR(pan Canadian Oncology Drug Review)でのオプジーボの評価などを紹介し、費用対効果評価が世界的な潮流になっていると説明。費用対効果評価に当たっては、将来の予後予測等も含めて行うため、推計が入るなど、手法の限界もあるものの、今後は医療経済の専門家と臨床医が協力体制を構築し、エビデンスを構築していく必要性を指摘した。
もっとも、せっかく費用対効果評価を実施しても、その結果を基にした医療が実践されなければ意味がないため、池田氏は「その辺りについて、医療者の合意形成に至っていないのではないのか」と問題提起した。「目の前の患者に最善を尽くすことは必要だが、我々は無償で医療を提供しているわけではない。その費用は、誰かが負担している。同じ効き目だったら、安い方の薬を使うという合意形成すらなされていない。医療者の間での意思統一がないと、国民を巻き込んだ議論に至らない」と述べ、医療者の取り組みに期待した。

オプジーボ、「無駄打ち」のコスト高く
國頭氏は、自身のCOIとして、日本イーライリリーからの講演収入を挙げて、講演をスタート。
まず問題視したのは、「Low benefit,High cost」の化学療法が採用されている現状だ。「効果も副作用も同じなのに、価格だけ数倍。なぜこうした治療法が取り入れられるのかが不思議だ。新しいものはいいと、無条件で信じられている」(國頭氏)。
幾つかの例を挙げたが、その一つが、サイラムザ(一般名: ラムシルマブ)。製造販売元は、日本イーライリリー。日赤医療センター化学療法委員会では、本剤の大腸癌に対する使用を全員一致で見送った。既存薬と効果・副作用が同じで価格が2.8倍であるためだ。
一方で問題になるのが、「High benefit,High cost」、つまりコストも効果も高い抗癌剤だ。その代表例がオプジーボ。同薬の有効率は20~30%と必ずしも高くはないが、効果持続期間が長いのでベネフィットは大きい。しかし、事前に有効な患者を見極めるバイオマーカーは現時点では確立されていない。また一過性に画像診断で陰影が大きくなり、その後に縮小して効果が明らかになるという「偽増悪」もあり、臨床的に無効であるとの判断、つまり「諦め時」が見極めにくい。さらに、有効の場合でも、いつまで投与を続けるべきかについては現時点では確立されておらず、無期限の投与になっているなどの問題もある。結果的に、オプジーボの場合、「無駄打ち」のコストがかかる可能性が高い、と國頭氏は指摘する。

オプジーボを効率的に使用するため、幾つかの臨床試験が現在進行もしくは検討中だ。
國頭氏が挙げたのは、無効であることを早めに判断するための観察研究。検討中なのは、有効な場合に、いつまで投与を継続するかという判断のための臨床試験だ。「開発者である本庶先生(京都大学名誉教授の本庶佑氏)は、オプジーボは半年程度の投与で十分、とおっしゃっている。それでその後も効果が続くなら、以降の投与は無駄であり、中止できればコストと副作用の削減につながる」(國頭氏)。
もっとも、これらの臨床試験は、「No excitement,No breakthrough」。國頭氏は、「こうした研究は今までの薬の効果をより高めはせず、ブレークスル―にはならない。だから面白くない。なのに、なぜわざわざこんな研究をしなければいけないのか」と問いかけた。
今後、日本では人口の高齢化が進み、高齢者人口が急増する。「安易に『全ての人を助けたい』と言えればいいが、保険財政が破たんしてしまったのでは、『この人たち』を捨てることと同じだ。それは最悪の選択だろう」(國頭氏)。「この人たち」とは、次世代を担う若者たちであり、「私の第一の目的は、次の世代に今の医療システムを、焼野原にせずに、いかに引き継いでいくかにある」と述べ、國頭氏は講演を締めくくった。

カナダ、オプジーボは「費用対効果の改善が条件」
池田氏は、英国のNICEのほか、カナダのpCODRなどの実例を基に、臨床効果だけでなく、費用対効果という社会的な価値を含めて、欧米諸国では医療技術の評価に取り組んでいる現状を紹介。評価の指標としては、ドイツを除いて、「QALY」(質調整生存年)を用いる国が多く、同指標には限界があるものの、「QALY」より優れた指標が現時点では見当たらないと説明。
費用対効果評価に取り組んでいる代表例が、イギリス。NICE(National Institute for Health and Care Excellence)という組織が取り組んでいる。全ての医薬品について評価しているわけではなく、国民保健サービス(NHS)を所掌する英保健省と相談して、対象品目を決めている。
NICE の2008年から2014年11月までのデータを見ると、評価対象となった267品目のうち、医薬品が246品目、うち抗癌剤の占める割合は多く、88品目に上る。ただし、評価結果は厳しく、医薬品全体では「推奨」となったのは49%だが、抗癌剤に限ると「推奨」は40%と下がり、「非推奨」43%、「一部推奨」7%、「その他」11%――という結果だ。
池田氏は、「日本でも、次々と出てくる新しい技術に対して、どう対応していくか」が課題になるとした。費用対効果評価の試行が、2016年4月から始まっており、2018年度診療報酬改定で、その評価結果も踏まえて価格の見直しを行う予定になっている。医薬品は7品目で、オプジーボも含まれる。

池田氏が紹介した、もう一つの海外の例が、カナダのpCODR。
抗癌剤を専門に分析している組織であり、オプジーボの評価結果を紹介した。非小細胞肺癌の場合、「ICER」(増分費用効果比)は、企業提出データは15万1560カナダドルと、通常受け入れられる水準である10万カナダドルを超えていた。企業が想定した予後予測モデルをpCODRが見直した場合の再分析結果は19万3918~21万9660カナダドルと、費用対効果はさらに悪化した。「最終的にpCODRは、『オプジーボには臨床的な効果があり、ぜひ保険償還すべきだが、費用対効果が一定の水準まで改善することが条件』と判断。つまりカナダの各州政府が企業と交渉して一定の価格まで下がった場合に限り、保険で使いましょう、という判断だ」(池田氏)。
費用対効果評価に当たっては、無増悪の状態から増悪の状態にどのくらいのスピードで悪化するか、悪化した場合の死亡率などのデータが必要になるが、短期的な臨床試験の結果を基に、長期的な予後を推計することになる。前提条件や推計モデルをによって推計結果が変わるため、その精度の改善は今後の課題でもあるとしたものの、池田氏は「エビデンスが十分そろわないからと言って、評価を先伸ばしにするのはおかしい。今、償還するか否か、現場で使用するかどうかを判断しなければならないので、エビデンスがそろった頃に費用対効果を評価しても、手遅れになる。現在利用し得る情報を最大限に活用して費用対効果評価を実施し、不確実性を考慮した上で、総合的に判断することが求められている」と述べ、費用対効果評価の重要性を強調した。

医師でもある池田氏は、「目の前の患者に最善を尽くす、という医学教育を受け、これまでやってきた。ところが、社会から見た価値や財源の問題を無視していいのか、という問題が生じている。患者だけでなく、財源のことも踏まえながら、総合的に判断していくことがこれからの医師に求められる役割」と指摘した上で、「薬の価格を細かく調整しても、結局、臨床現場で薬がコスト意識を持たずに使われていては意味がない。われわれ医療者が費用対効果をどう考えていくのか、ガイドラインに経済性の観点をどう取り入れていくかなどは、学会を中心に議論していくべき課題」と訴えた。

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by kura0412 | 2016-12-27 09:00 | 医療政策全般 | Comments(0)


コラムニスト・鞍立常行が日本の歯科界に直言


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ミラーを片手に歯科医師の本音

回想

本紙閉刊に伴いこのコラムも今回で最後となります。平成10年9月から19年間、筆が進まない時もありましたが、締め切りを遅らせることもなく、また大きなトラブルもなく終えることにある意味安堵しております。ただその中で一度だけで校正まで終えながら書き直したことがありました。それはあの「日歯連事件」と称された事件が勃発した時でした。
あの時は一人の開業医でしかない私が、社会事件になるほどの大事件に対して実名で書くことに躊躇しましたが、事件に対していろいろな観点から憤りを感じ、もし問題となれば歯科医師を辞める覚悟をもって書きました。この事件によって日本の歯科界に大きな変化があったことは多くの先生方が感じられたことです。今思えばその内容は別として、あの時書き綴っておいたことが、その後連載を続けられた源になっていたかもしれません。
然るに風化しつつあるあの事件の本質は何だったのか。その手法に対しては司法判断が下った結果が示されていますが、事件の根本には、現在も続く歯科医療に対する公的評価の低さを何とか打開しようと考え方がありました。この点を誰もが分かっているのに言葉に出ていません。但し結果的には中医協委員が1名減員、事件後の懲罰的な18年度改定となり、歯科界の思いとは反対の流れを作ってしまいました。特に改定では、それまでの改定時で、技術料を引き下げながら作った僅かな財源を「かかりつけ歯科医」初再診料に振り分けながらも、「かかりつけ歯科医」を一気に消し去られたことによって、保険点数全体が縮小したと共に、時代の流れである「かかりつけ歯科医」という名称、概念をも否定されることになってしまいました。そして事件によって植え付けられた歯科界の負のイメージは現在も引きずっています。
日本の歯科界は今、大きな分岐点に差し掛かかり、新しい息吹が入る機運も高まっています。但し、この負のイメージを引きずったままでは大きな壁が存在します。あの事件は終わったのでなく、まだ背負っており、それを回顧することで歯科界の課題を改めて見出すことが必要です。
残念ながら現在、日歯、日歯連盟共に入会者、特に若い先生の入会が減少しています。事件の影響、また、入会することへの利点を見出せず、医療環境向上寄与への期待が薄らいでいるからです。個人で個々の臨床現場での対応出来ても、政策を変えるには一つの塊にでなければパワーが発揮できないだけに、この問題は歯科界発展の最大の課題です。その為には、過去の問題となった出来事を背景も含めて改めて見直し、そして新しい目標を示す。それも抽象的でなく、具体的な分かりやすい政策を提示することで歯科界の展望が分かることで推進力の働きとなります。
最後に、本コラムを続けなければ会うことの出来なかった全国の先生方と交流できたことは、私の歯科医師人生としての財産となりました。そして、好き気ままに綴ることを甘受して頂き、連載を許して頂いた歯科時報新社・吉田泰行社長に感謝を述べ終わります。ありがとうございました。

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