「虎の尾踏んだ厚労省」

「オレは聞いてない」 病院再編、虎の尾踏んだ厚労省

宮仕えの身なら一度や二度は覚えがあろう。そんな話は聞いていないという上役のひと言で、実現間近だと思っていたプロジェクトが仕切り直しになる――。
9月下旬、厚生労働省は地方自治体が経営する公立病院と日赤などの公的病院について、再編や統廃合を議論する必要があるとみている424の病院を名指しして公表した。心疾患、脳卒中、救急など9分野の高度医療について、2017年6月のレセプト(診療報酬明細書)データを分析し「診療実績が乏しい」「代替する民間病院が近くにある」などの基準をもとに選び出した。
これが文字どおり「聞いていない」問題を引き起こした。名指しされた側の大半が424の名前を唐突に出してきたと受けとめたのだ。再編や統廃合について、各病院をかかえる自治体や医療圏での議論の材料にしてほしいという厚労省の意図は、たちどころに吹き飛んでしまった。

「ウチは閉鎖対象なのか」(リストに載った病院の院長)、「なぜ民間病院の名前は出さないのか」(該当する自治体の首長)、「地域住民や患者に説明できないじゃないか」(地方議会の議員)といった抗議の声が同省に相次いだ。名指しされた側の被害者意識は、今なお増幅している。
たしかに唐突感はあった。筆者も日経電子版が424病院のリストを載せたのをみて初めて知り、取るものも取りあえず担当課に取材に行った。だが説明を聞くと、準備を重ねて公表にいたった経緯がみえてきた。
安倍政権は6月に閣議決定した骨太の方針2019に次のような趣旨を盛り込んでいた。「すべての公立・公的病院に関する具体的な対応方針について、診療実績のデータを分析し、その内容が民間病院に担えない機能に重点化され、(中略)医療機能の再編や病床数の適正化に沿うよう国が助言や集中支援する」
高度急性期・急性期という病院機能に着目した客観的なデータは、関係者を交えた同省主宰の「地域医療構想に関するワーキンググループ」の議論に基づくものだった。ワーキンググループに出された資料は厚労省のウェブサイトに掲載されているし、公表までに時間がかかる難点はあるが議事録も公開している。問題意識をもって一連の議論をフォローしてきた関係者にしてみれば、出るべくして出てきたリストだった。
戦後ベビーブーム期に生を受けた団塊世代のすべてが75歳以上の後期高齢者になる2025年をにらみ、病院の機能を高度急性期・急性期主体から、リハビリテーション向けの回復期や長期入院の慢性期主体に移行させる必要性は、多くの医療関係者が意識している。リストの公表はその導火線になるはずだったが「聞いていない」問題に発展した以上、厚労省の意図は二の次にされ、一気に政治的な色彩を帯びてしまった。

慌てた同省は、10月中に全国5ブロックで説明会を開くべくセットした。「意見交換会と言わなければおしかりを受ける」という気の使いようだ。11月には特に強い要望が出た県の担当部局に、手分けして個別に説明に赴くことにしている。17日に福岡市内で開いた九州ブロックの説明会では、橋本岳副大臣が冒頭にあいさつし「住民のみなさまの不安を招いてしまったことを、われわれとしても反省しています」と低姿勢で臨んだ。
それでも「聞いていない」側は収まる風がない。18日付の本紙九州経済面は、名指しされた国立病院機構大牟田病院(大牟田市)の関係者が「職員や患者は病院がなくなるのではないかと不安に思っている。風評被害を払拭するメッセージを出してほしい」と求めたと伝えている。また公立種子島病院(鹿児島県南種子町)の担当者は「医師不足で困っているのに、若い医師が来てくれるか」などと訴えた。
公立病院再編の必要性を唱えてきたある識者は「たしかに名指しされた病院は若くて腕がいい医師を集めにくくなるかもしれないが、それによって自治体の首長は再編・統廃合にいや応なく向き合わざるを得なくなるのではないか」と語る。リストの公表にはショック療法の意味合いがあるとみているわけだ。

もちろん厚労省は再編を押しつける立場にない。民間病院では代替機能を果たしにくい災害医療やへき地医療を担っている公立・公的病院もあり、一律に再編対象にするのが難しいケースも出てくるだろう。議論の素材として出したリストだったが、地方政界や医療界を巻きこむ事態に発展し、戸惑いが隠せないといったところだ。
心配なのは、厚労省がめっぽう政治に弱い官庁である点だ。行政官として理にかなった政策だと信じて出したものも、与党幹部や首相官邸がダメを出すと、たちどころに萎縮してしまう傾向が否めない。消費税収を積み立てたファンドを使ってリストラされる関係職員の退職金を割り増しするのも、政治的な妥協ではないか。
公立・公的病院の再編・統廃合はほとんどの自治体の首長が遅かれ早かれ直面する難題だ。高齢化は待ってくれない。「聞いていない」と言われてひるむのではなく「いま聞いたのだから、いいじゃないですか」と言い返すくらいの気概を厚労省に持ってほしい。

(日経新聞・大林 尚)
by kura0412 | 2019-10-23 11:55 | 医療政策全般 | Comments(0)


コラムニスト・鞍立常行が日本の歯科界に直言


by kura0412

プロフィールを見る
画像一覧
更新通知を受け取る

S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

ミラーを片手に歯科医師の本音

回想

本紙閉刊に伴いこのコラムも今回で最後となります。平成10年9月から19年間、筆が進まない時もありましたが、締め切りを遅らせることもなく、また大きなトラブルもなく終えることにある意味安堵しております。ただその中で一度だけで校正まで終えながら書き直したことがありました。それはあの「日歯連事件」と称された事件が勃発した時でした。
あの時は一人の開業医でしかない私が、社会事件になるほどの大事件に対して実名で書くことに躊躇しましたが、事件に対していろいろな観点から憤りを感じ、もし問題となれば歯科医師を辞める覚悟をもって書きました。この事件によって日本の歯科界に大きな変化があったことは多くの先生方が感じられたことです。今思えばその内容は別として、あの時書き綴っておいたことが、その後連載を続けられた源になっていたかもしれません。
然るに風化しつつあるあの事件の本質は何だったのか。その手法に対しては司法判断が下った結果が示されていますが、事件の根本には、現在も続く歯科医療に対する公的評価の低さを何とか打開しようと考え方がありました。この点を誰もが分かっているのに言葉に出ていません。但し結果的には中医協委員が1名減員、事件後の懲罰的な18年度改定となり、歯科界の思いとは反対の流れを作ってしまいました。特に改定では、それまでの改定時で、技術料を引き下げながら作った僅かな財源を「かかりつけ歯科医」初再診料に振り分けながらも、「かかりつけ歯科医」を一気に消し去られたことによって、保険点数全体が縮小したと共に、時代の流れである「かかりつけ歯科医」という名称、概念をも否定されることになってしまいました。そして事件によって植え付けられた歯科界の負のイメージは現在も引きずっています。
日本の歯科界は今、大きな分岐点に差し掛かかり、新しい息吹が入る機運も高まっています。但し、この負のイメージを引きずったままでは大きな壁が存在します。あの事件は終わったのでなく、まだ背負っており、それを回顧することで歯科界の課題を改めて見出すことが必要です。
残念ながら現在、日歯、日歯連盟共に入会者、特に若い先生の入会が減少しています。事件の影響、また、入会することへの利点を見出せず、医療環境向上寄与への期待が薄らいでいるからです。個人で個々の臨床現場での対応出来ても、政策を変えるには一つの塊にでなければパワーが発揮できないだけに、この問題は歯科界発展の最大の課題です。その為には、過去の問題となった出来事を背景も含めて改めて見直し、そして新しい目標を示す。それも抽象的でなく、具体的な分かりやすい政策を提示することで歯科界の展望が分かることで推進力の働きとなります。
最後に、本コラムを続けなければ会うことの出来なかった全国の先生方と交流できたことは、私の歯科医師人生としての財産となりました。そして、好き気ままに綴ることを甘受して頂き、連載を許して頂いた歯科時報新社・吉田泰行社長に感謝を述べ終わります。ありがとうございました。

以前の記事

2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 12月
2005年 11月
2005年 10月
2005年 09月
2005年 08月
2005年 07月
2005年 06月
2005年 05月
2005年 04月
2005年 03月
2005年 02月
2005年 01月
2004年 12月
2004年 11月
2004年 10月
2004年 09月
2004年 08月
2004年 07月

その他のジャンル

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

健康・医療
政治・経済

画像一覧