「政府が寄せる期待に歯科医師会は応えられるか」

「健康寿命延伸」に歯科界も加勢、その裏事情
政府が寄せる期待に歯科医師会は応えられるか

歯科医は儲かる──。かつてそんなふうに言われていたことがあった。子供の虫歯が蔓延して「虫歯の洪水状態」と呼ばれた1960~70年代の頃だ。だが、それも遠い昔の話。歯科界の虫歯予防に向けた取り組みや歯磨き習慣の定着などで、子供の虫歯は激減。平成の時代だけ見ても、12歳児の虫歯の数は、1989年の平均4.3本から2018年は同0.74本となった。
さらに、年を取っても自分の歯が多く残る人が増えている。厚生省(当時)と日本歯科医師会(日歯)が提唱した、80歳で自分の歯が20本以上ある状態を目指す「8020(はちまるにいまる)運動」が始まったのは1989年。それから30年が経過し、当初7%程度だった達成者率は、2016年調査では51.2%と半数を超えた。
片や、歯科医の数は増え続け、2012年には10万人の大台を突破。今も毎年約2000人の歯科医が誕生している。歯科医院の施設数も増えており、厚生労働省の調べでは2018年1月末で全国に約6万9000カ所と、コンビニの数(約5万6000軒)よりも多い。
患者は減っても医院が増えるので、生き残りをかけた競争は激しさを増すばかり。さらにここへ来て、人手不足に伴う歯科衛生士や事務スタッフなどの人件費の上昇、歯材コストの値上がり、機器類の高額化の波が押し寄せ、大半の歯科医院の経営は苦境に追い込まれている。
歯科医療経営にとって頼みの綱の保険診療点数もなかなか上がらず、低迷したまま。実際、全体の国民医療費の総額がこの10年で約34兆円から42兆円に増大しながらも、そのうち歯科医療費は2兆円台半ば~後半で伸び悩みが続いている。

そんな事態を何とか打開しようと歯科界は新たなビジョンの策定に乗り出した。
日歯は6月19日、「令和における歯科医療の姿~2040年を見据えた歯科ビジョン」の策定に向けた検討会を設置し、初会合を開いた。堀憲郎会長は冒頭、「年号も変わった本年は歯科界にとっても極めて重要かつ歴史的な局面になる年」とした上で、「少子高齢化がピークを迎える2040年に向けて、歯科医療の新しい役割と責任を明らかにしていきたい」と抱負を述べた。ビジョンには、2040年に向けた歯科保健医療のあるべき姿とその実現に向けたアクションプランを盛り込む予定。10月をめどに取りまとめる。

口腔ケアが全身の健康につながる
では日歯はどこに活路を見いだしているのか。結論から言えば、口腔健康管理だ。今や元気に長生きするには、口の健康維持が欠かせないことはよく知られる。虫歯や歯周病などで歯を失い、よく噛めないままでは十分に栄養を摂取できず、体力が衰えてしまうからだ。噛むことは脳を活性化する効果もある。
さらに最近の研究では、口の中のケアを怠ると、動脈硬化や糖尿病、アルツハイマー型認知症、さらには膵がんの発症リスクまでも上がりかねないことが明らかになっている。歯周病が様々な臓器に影響を与えることは、疫学的には随分前から知られていた。だが、新たな動きとして、歯周病菌があらゆる臓器に影響を与えることを示すしっかりしたエビデンスが出てきたのだ。
口の健康が全身の健康に密接に関わる以上、当然ながら医療の財政側面に与える影響も大きい。日歯ではここ数年来、多くの調査結果などのデータを収集・分析することで、口腔機能管理の徹底によって、病気をしないで長生きできる期間が長くなるほか、誤嚥性肺炎の抑制や入院日数の短縮、抗菌薬の投与期間の減少などがもたらされる旨を実証してきた。いずれも医療費の抑制につながる。
これらを踏まえ今の日歯のアピールポイントは、口内の衛生管理は、全身の健康や寿命をも左右し、医療の財政側面に大きく貢献する点。実はその主張には追い風も吹いている。

安倍晋三首相の肝いりの政策である「健康寿命の延伸」。その旗印のもと、2017年6月に政府がまとめた「経済財政運営と改革の基本方針2017(骨太の方針)」では、「口腔の健康は全身の健康にもつながることから、生涯を通じた歯科健診の充実、入院患者や要介護者に対する口腔機能管理の推進など歯科保健医療の充実に取り組む」と、口の中の健康について初めて明記された。翌年の骨太の方針2018は、さらにその記述が拡充され、今年度の骨太方針2019に至っては、原案ベースだが、エビデンスを蓄積しつつ、国民への適切な情報提供も進めるといった一層踏み込んだ記述が見られる。
つまり、口腔内の健康を保つことで全身の健康の保持・増進に努めようという考え方は既に国の方針として盛り込まれている。

「喪が明けた」歯科医師会
果たして政府による歯科医療への追い風を生かせるかが今、日歯には問われている。口腔健康管理の重要性への国民的理解は深まりつつあり、歯科界の目指す新しい歯科医療の姿は国の方針として共有されつつある。そんな中で策定する2040年を見据えた新たな歯科ビジョン。そこで示す歯科医療のあるべき姿によって今後の日歯の行方もおのずと占えるだろう。
日歯を巡っては、これまで「政治とカネ」にまつわる事件を繰り返してきた歴史がある。日歯の政治団体である日本歯科医師連盟は2015年に迂回政治献金問題で当時の会長らが逮捕・起訴され世間を騒がせた。2004年にも自民党旧橋本派に対する1億円のヤミ献金事件が摘発され、やはり当時の会長らが有罪となった。同じく2004年には診療報酬改定を議論する中央社会保険医療協議会の委員を相手に贈収賄事件を起こすという前代未聞の不祥事も発覚した。
背景には政治にすがらざるをえない、歯科を取り巻く苦しい業界事情があったとはいえ、度重なる事件に世間は日歯に対し冷たい目を浴びせた。結果、世間へのアピールも限られてきた現実がある。だが、そろそろ「喪が明けたのだろう」と話すのはさる厚労省高官の弁。政府が歯科界に寄せる期待は大きいだけに、今後の日歯の行方を興味深くウオッチしたい。

(Beyond Health:庄子 育子)
by kura0412 | 2019-09-04 10:53 | 歯科医療政策 | Comments(0)


コラムニスト・鞍立常行が日本の歯科界に直言


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ミラーを片手に歯科医師の本音

回想

本紙閉刊に伴いこのコラムも今回で最後となります。平成10年9月から19年間、筆が進まない時もありましたが、締め切りを遅らせることもなく、また大きなトラブルもなく終えることにある意味安堵しております。ただその中で一度だけで校正まで終えながら書き直したことがありました。それはあの「日歯連事件」と称された事件が勃発した時でした。
あの時は一人の開業医でしかない私が、社会事件になるほどの大事件に対して実名で書くことに躊躇しましたが、事件に対していろいろな観点から憤りを感じ、もし問題となれば歯科医師を辞める覚悟をもって書きました。この事件によって日本の歯科界に大きな変化があったことは多くの先生方が感じられたことです。今思えばその内容は別として、あの時書き綴っておいたことが、その後連載を続けられた源になっていたかもしれません。
然るに風化しつつあるあの事件の本質は何だったのか。その手法に対しては司法判断が下った結果が示されていますが、事件の根本には、現在も続く歯科医療に対する公的評価の低さを何とか打開しようと考え方がありました。この点を誰もが分かっているのに言葉に出ていません。但し結果的には中医協委員が1名減員、事件後の懲罰的な18年度改定となり、歯科界の思いとは反対の流れを作ってしまいました。特に改定では、それまでの改定時で、技術料を引き下げながら作った僅かな財源を「かかりつけ歯科医」初再診料に振り分けながらも、「かかりつけ歯科医」を一気に消し去られたことによって、保険点数全体が縮小したと共に、時代の流れである「かかりつけ歯科医」という名称、概念をも否定されることになってしまいました。そして事件によって植え付けられた歯科界の負のイメージは現在も引きずっています。
日本の歯科界は今、大きな分岐点に差し掛かかり、新しい息吹が入る機運も高まっています。但し、この負のイメージを引きずったままでは大きな壁が存在します。あの事件は終わったのでなく、まだ背負っており、それを回顧することで歯科界の課題を改めて見出すことが必要です。
残念ながら現在、日歯、日歯連盟共に入会者、特に若い先生の入会が減少しています。事件の影響、また、入会することへの利点を見出せず、医療環境向上寄与への期待が薄らいでいるからです。個人で個々の臨床現場での対応出来ても、政策を変えるには一つの塊にでなければパワーが発揮できないだけに、この問題は歯科界発展の最大の課題です。その為には、過去の問題となった出来事を背景も含めて改めて見直し、そして新しい目標を示す。それも抽象的でなく、具体的な分かりやすい政策を提示することで歯科界の展望が分かることで推進力の働きとなります。
最後に、本コラムを続けなければ会うことの出来なかった全国の先生方と交流できたことは、私の歯科医師人生としての財産となりました。そして、好き気ままに綴ることを甘受して頂き、連載を許して頂いた歯科時報新社・吉田泰行社長に感謝を述べ終わります。ありがとうございました。

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