経済誌にも口腔ケアの記事が

口腔ケアで肺炎激減、医療費削減効果も
歯科医と特養ホームの施設長、起業家が実証

医療費の増加が止まらない。2017年度の概算医療費は42兆2000億円と前年度に比べて2.3%増え、過去最高を更新した。中でも高齢者の医療費の伸びが大きく、75歳以上の後期高齢者の医療費だけで全体の38%に当たる16兆円(前年度比4.4%増)が使われた。その負担は、現役世代の健康保険料や国の財政支出に回るだけに、医療費の削減は喫緊の課題になっている。
そんな中、ユニークな取り組みが九州でスタートした。特別養護老人ホームなど施設に入所する高齢者に、歯磨きや歯茎のマッサージといった「口腔ケア」を定期的に行うことで、誤嚥性肺炎を大幅に減少させることに成功したのだ。施設から病院に入院する日数が減ることで、医療費の削減効果も出ているとみられる。

入院日数が減少し、介護施設の収入増加
20年ほど前から口腔ケアが誤嚥性肺炎を減少させるという論文はあったものの、口腔ケアの実施は施設任せで、データの蓄積もなく、因果関係は実証されてこなかった。この取り組みが全国に広がれば、高齢者医療費の削減につながる一助になりそうだ。
この取り組みを始めたのは若手歯科医師の瀧内博也氏(歯学博士)と起業家の浜俊壱氏(中小企業診断士)、特養施設長の小金丸誠氏らのグループ。小金丸氏は社会福祉法人さわら福祉会の特養ホーム「マナハウス」(福岡市西区)の施設長を務める。
瀧内氏は小金丸氏らの協力を得て、マナハウスなど福岡市内の6つの特養を2015年4月から1年間にわたって調査。入居定員100人当たり合計1706日の入院があり、そのうち569.5日を、誤嚥性肺炎を含む「肺炎」が占めていることが分かった。入院理由の3分の1が肺炎だったわけだ。しかも肺炎にかかって入院した施設入居者の多くが施設を退去して医療施設に移ったり、死亡したりしていた。
そこで瀧内氏らは、施設の協力を得て2017年9月から口腔ケアを実施した。介護職員にケアの方法を瀧内氏が指導し、週に2回、1回10分をメドに行った。その結果は驚くべきものだった。
口腔ケアをスタートする2年前の1年間の肺炎による入院は18回337日、1年前の1年間は25回545日だったものが、実施後1年間は10回144日に激減したのだ。「まさか、こんなに減るとは思わんかった」と施設長の小金丸氏も驚く。因果関係は解明できていないが、肺炎だけではなく、その他の疾病などによる入院も大きく減少した。2年前は年間1339日、1年前は年間1310日だった全体の入院日数は、口腔ケアの実施後の1年間は459日に減少したのだ。「明らかにインフルエンザにかかる率も下がった」と瀧内氏はいう。
実は、入院日数の減少は介護施設にとって大きなメリットがある。
入所者が病院に入院して施設を出た場合、介護保険から支払われる介護報酬の日額1万4000円が削減されるのだ。入院が減れば、その分収入が増えることになる。調査では入院が1年間で850日減少したので、施設の収入は1200万円アップしたことになる。マナハウスでは早速、職員のボーナスに上乗せした。施設の収入が増えれば、社会的に問題になっている介護職員の待遇改善に回すことができるわけだ。

介護施設職員のやりがい向上、離職も激減
従来、介護施設は収入を確保するために、入院して不在になった部屋をデイケアなどの受け入れで補っていたが、日々、利用者が入れ替わる場合、介護職員の負担が大きく増すという問題があった。入院が減ったことで、施設の稼働率は93.9%から97.5%へと大きく上昇した。「通常の施設では稼働率が95%なら上出来なのですが、97.5%というのは驚きの高さです」と小金丸氏は言う。
高齢者の入院が減ることで、当然、医療費も大きく減る。1日あたりの高齢者の入院医療費を仮に5万円とすると、1年間で850日の入院減少は、4250万円の削減に相当する。
さわら福祉会グループの4施設の合計では、口腔ケアがスタートした1年目で2750日の入院が減少。施設収入は3850万円アップし、医療費は1億3700万円削減された計算になる。「口腔ケアが全国の施設に広がるだけで、巨額の医療費が削減できる可能性がある」と瀧内氏は話す。
瀧内氏は九州大学歯学部を卒業後、2014年からは福岡歯科大学の高齢者歯科に勤務、2015年からは助教を務めていたが、大学勤務では口腔ケアを全国に広げることは難しいと、退職を決断した。半年ほど前に浜氏と出会ったのがきっかけになった。
2018年7月にクロスケアデンタルという株式会社を設立、CEO(最高経営責任者)に就いた。浜氏は1年半ほど前に西部ガスを辞めて、コンサルティング業務などを行っていたが、瀧内氏と出会って意気投合、クロスケアデンタルのCOO(最高執行責任者)に就いた。
同社の目標は、施設などに口腔ケアを広げること。入所者一人ひとりの口腔ケアの実施状況を把握するためのアプリの開発・販売や、介護職員の口腔ケア技術の教育や評価を行う支援素材の提供を行う。歯磨き(ブラッシング)や舌の清浄などに使う器具の開発・仕入販売なども行う。当初は自社で歯ブラシなどを一から開発することも考えたが、技術力の高い大手メーカーなどとのコラボに乗り出したい考えだ。

「口腔ケアはまだ全国で体系的に行われておらず、それを広げることに大きな社会的な意義がある」と浜氏は言う。「高齢者が肺炎で苦しむことが減り、施設も収益性が改善、介護職員の待遇も改善できる。さらに医療費も減る。皆が喜ぶ、誰も困る人のいない取り組みなので、一気に全国に広がるのではないか」と期待を膨らませる。
施設では予期しない副次効果が出た。
マナハウスで口腔ケアを始めると、介護職員の離職がほぼなくなったというのだ。「お金の問題もあるかもしれませんが、それよりも目に見えて効果が出ることに、職員がやりがいを感じるようになったのではないか」と小金丸氏。加齢に伴って徐々に衰えていく高齢者介護の現場では、職員が自ら行ったことの効果を実感できる場面がほとんどない、のだという。そんな中で、口腔ケアはやっただけの劇的な効果が目に見える。それがやりがいにつながったというわけだ。
クロスケアデンタルの取り組みは、早速、反響を呼んでいる。10月に行われた全国老人福祉施設研究会議で、「誤嚥性肺炎ゼロに向けての口腔ケアの取り組み 誤嚥性肺炎ゼロプロジェクト」というタイトルで発表を行い、最優秀賞を獲得したのだ。メディアにも取り上げられたことから、全国各地からの講演依頼などがあり、取り組みが広がる気配が見え始めている。
こうした取り組みが全国に広がることで、一歩一歩、高齢者医療費を削減していくことにつながるに違いない。

(磯山友幸・日経ビジネスオンライン)



経済誌に掲載されました。
介護施設だけでなく、病院でも口腔ケアへの取り組みが加速的に進んでいます。
by kura0412 | 2018-12-07 09:22 | 医療政策全般 | Comments(0)


コラムニスト・鞍立常行が日本の歯科界に直言


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ミラーを片手に歯科医師の本音

回想

本紙閉刊に伴いこのコラムも今回で最後となります。平成10年9月から19年間、筆が進まない時もありましたが、締め切りを遅らせることもなく、また大きなトラブルもなく終えることにある意味安堵しております。ただその中で一度だけで校正まで終えながら書き直したことがありました。それはあの「日歯連事件」と称された事件が勃発した時でした。
あの時は一人の開業医でしかない私が、社会事件になるほどの大事件に対して実名で書くことに躊躇しましたが、事件に対していろいろな観点から憤りを感じ、もし問題となれば歯科医師を辞める覚悟をもって書きました。この事件によって日本の歯科界に大きな変化があったことは多くの先生方が感じられたことです。今思えばその内容は別として、あの時書き綴っておいたことが、その後連載を続けられた源になっていたかもしれません。
然るに風化しつつあるあの事件の本質は何だったのか。その手法に対しては司法判断が下った結果が示されていますが、事件の根本には、現在も続く歯科医療に対する公的評価の低さを何とか打開しようと考え方がありました。この点を誰もが分かっているのに言葉に出ていません。但し結果的には中医協委員が1名減員、事件後の懲罰的な18年度改定となり、歯科界の思いとは反対の流れを作ってしまいました。特に改定では、それまでの改定時で、技術料を引き下げながら作った僅かな財源を「かかりつけ歯科医」初再診料に振り分けながらも、「かかりつけ歯科医」を一気に消し去られたことによって、保険点数全体が縮小したと共に、時代の流れである「かかりつけ歯科医」という名称、概念をも否定されることになってしまいました。そして事件によって植え付けられた歯科界の負のイメージは現在も引きずっています。
日本の歯科界は今、大きな分岐点に差し掛かかり、新しい息吹が入る機運も高まっています。但し、この負のイメージを引きずったままでは大きな壁が存在します。あの事件は終わったのでなく、まだ背負っており、それを回顧することで歯科界の課題を改めて見出すことが必要です。
残念ながら現在、日歯、日歯連盟共に入会者、特に若い先生の入会が減少しています。事件の影響、また、入会することへの利点を見出せず、医療環境向上寄与への期待が薄らいでいるからです。個人で個々の臨床現場での対応出来ても、政策を変えるには一つの塊にでなければパワーが発揮できないだけに、この問題は歯科界発展の最大の課題です。その為には、過去の問題となった出来事を背景も含めて改めて見直し、そして新しい目標を示す。それも抽象的でなく、具体的な分かりやすい政策を提示することで歯科界の展望が分かることで推進力の働きとなります。
最後に、本コラムを続けなければ会うことの出来なかった全国の先生方と交流できたことは、私の歯科医師人生としての財産となりました。そして、好き気ままに綴ることを甘受して頂き、連載を許して頂いた歯科時報新社・吉田泰行社長に感謝を述べ終わります。ありがとうございました。

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