すべて院内処方すれば1兆7千億円の差額
2018年 11月 24日
薬局6万店 再編の風圧 手厚い報酬、問われる機能
今や社会のインフラともされるコンビニエンスストアを上回る業態が日本にある。医師の処方をもとに医薬品を出す「調剤薬局」だ。コンビニより多い6万店弱の薬局は地域医療を支えてきたものの、扱う医薬品は公定価格で競争は乏しい。厚生労働省は在宅医療などの新しい施策に対応できる薬局を育て、再編を促す方向にカジを切る。医療費の抑制に向け、薬のインフラも変革を迫られている。
病院で医師の診察を受け、受付で処方箋をもらう。スリッパから靴にはきかえて自動ドアが開くと、小さな「お薬屋さん」が何軒か目に飛び込んでくる。誰もが経験するこんな風景が今、批判にさらされている。
指導役機能せず
「期待されている役割を果たしていないのではないか」。8日に厚労省が開いた審議会で、薬剤師の代表に有識者からの厳しい指摘が続いた。この日のテーマは今後の薬局や薬剤師の役割をどう考えるか。関係者の脳裏には、病院のそばにある「門前薬局」が浮かぶ。
厚労省は1970年代から、もうけの誘惑にかられる医師の過剰な投薬を薬剤師にチェックさせる「医薬分業」を推進するため、院外処方を進めてきた。
日本薬剤師会の乾英夫副会長は「患者に適した処方が可能になり、いわゆる薬漬けは死語になった」と語る。国は調剤報酬を手厚くして院外処方を進め、できあがったのが門前薬局だ。
国内の薬局は2017年度末で約5万9千店ある。厚労省のサンプル調査では常勤換算の薬剤師が2人以下の薬局が半数弱にのぼる。17年度の薬局への技術料と薬剤料を合わせた「調剤医療費」は、処方箋1枚あたり9187円。半数以上の薬局は特定の病院の処方箋に頼り、少数の薬剤師が調剤して患者に渡すだけのビジネスが成り立った。
「薬局大国」の足元は危うい。
薬剤師に求められる役割は、患者のアレルギーや過去の副作用を把握したうえでの服薬指導だ。だが厚労省が調べたところ、電話などでの継続的な指導をしたことのある薬局は4割ほど。8割は必要性を感じていると答えたにもかかわらず、半数以上はできていない。
薬の値段は公定価格で院内でも院外でも変わらないが、院外は薬剤師の技術に対する報酬が手厚い。同じ薬を受け取るのに病院から薬局へ移動すると、健康保険に高い請求がまわる。負担するのは患者だ。日本医師会の中川俊男副会長によると「院内ですべて処方すれば、現状との差額は年1兆7千億円になる」。身内のはずの医師からも批判が出る。
厚労省は薬局にある矛盾の解消に動く。過去の診療報酬改定では、門前薬局への調剤報酬を下げてきた。次の一手が薬局の機能を高め、事実上の再編を促す施策だ。
厚労省は社会保障費の抑制に向け、お金がかかる入院を抑えて自宅で診療する「在宅医療」への移行を進めている。在宅を担う「かかりつけ医」にあたる仕組みとして、「地域密着型」の薬局をつくる。休日や夜間でも対応できるだけの薬剤師を持ち、患者を訪問して服薬を指導する。
質の良さで差
薬局に差も付ける。特殊な抗がん剤の副作用などについて適切な指導をできる薬局を「高度薬学管理型」とする。19年の通常国会に医薬品医療機器法の改正案を提出し、2つの薬局を法的に位置づける。
そのうえで、要件を満たす薬局は20年度にも調剤報酬を増やす方向で議論する。厚労省幹部は「しっかりコストをかけた質の良い薬局を作りたい」と話す。
調剤医療費は17年度に7兆6664億円と、5年前の12年度に比べて16%増えた。高齢化に伴って薬にかかるお金は増え続け、税や保険料を通じて国民の負担になっている。
コンビニは顧客のニーズを満たすことで市場を作り出してきた。街角の薬局は患者のニーズを満たしているかどうか。医薬分業がもたらした非効率を見直すには、ニーズを満たさない薬局には市場からの退出を迫るといった政策も必要になる。
(日経新聞)
調剤にとっては凄い流れが出来るかもしれません。
今や社会のインフラともされるコンビニエンスストアを上回る業態が日本にある。医師の処方をもとに医薬品を出す「調剤薬局」だ。コンビニより多い6万店弱の薬局は地域医療を支えてきたものの、扱う医薬品は公定価格で競争は乏しい。厚生労働省は在宅医療などの新しい施策に対応できる薬局を育て、再編を促す方向にカジを切る。医療費の抑制に向け、薬のインフラも変革を迫られている。
病院で医師の診察を受け、受付で処方箋をもらう。スリッパから靴にはきかえて自動ドアが開くと、小さな「お薬屋さん」が何軒か目に飛び込んでくる。誰もが経験するこんな風景が今、批判にさらされている。
指導役機能せず
「期待されている役割を果たしていないのではないか」。8日に厚労省が開いた審議会で、薬剤師の代表に有識者からの厳しい指摘が続いた。この日のテーマは今後の薬局や薬剤師の役割をどう考えるか。関係者の脳裏には、病院のそばにある「門前薬局」が浮かぶ。
厚労省は1970年代から、もうけの誘惑にかられる医師の過剰な投薬を薬剤師にチェックさせる「医薬分業」を推進するため、院外処方を進めてきた。
日本薬剤師会の乾英夫副会長は「患者に適した処方が可能になり、いわゆる薬漬けは死語になった」と語る。国は調剤報酬を手厚くして院外処方を進め、できあがったのが門前薬局だ。
国内の薬局は2017年度末で約5万9千店ある。厚労省のサンプル調査では常勤換算の薬剤師が2人以下の薬局が半数弱にのぼる。17年度の薬局への技術料と薬剤料を合わせた「調剤医療費」は、処方箋1枚あたり9187円。半数以上の薬局は特定の病院の処方箋に頼り、少数の薬剤師が調剤して患者に渡すだけのビジネスが成り立った。
「薬局大国」の足元は危うい。
薬剤師に求められる役割は、患者のアレルギーや過去の副作用を把握したうえでの服薬指導だ。だが厚労省が調べたところ、電話などでの継続的な指導をしたことのある薬局は4割ほど。8割は必要性を感じていると答えたにもかかわらず、半数以上はできていない。
薬の値段は公定価格で院内でも院外でも変わらないが、院外は薬剤師の技術に対する報酬が手厚い。同じ薬を受け取るのに病院から薬局へ移動すると、健康保険に高い請求がまわる。負担するのは患者だ。日本医師会の中川俊男副会長によると「院内ですべて処方すれば、現状との差額は年1兆7千億円になる」。身内のはずの医師からも批判が出る。
厚労省は薬局にある矛盾の解消に動く。過去の診療報酬改定では、門前薬局への調剤報酬を下げてきた。次の一手が薬局の機能を高め、事実上の再編を促す施策だ。
厚労省は社会保障費の抑制に向け、お金がかかる入院を抑えて自宅で診療する「在宅医療」への移行を進めている。在宅を担う「かかりつけ医」にあたる仕組みとして、「地域密着型」の薬局をつくる。休日や夜間でも対応できるだけの薬剤師を持ち、患者を訪問して服薬を指導する。
質の良さで差
薬局に差も付ける。特殊な抗がん剤の副作用などについて適切な指導をできる薬局を「高度薬学管理型」とする。19年の通常国会に医薬品医療機器法の改正案を提出し、2つの薬局を法的に位置づける。
そのうえで、要件を満たす薬局は20年度にも調剤報酬を増やす方向で議論する。厚労省幹部は「しっかりコストをかけた質の良い薬局を作りたい」と話す。
調剤医療費は17年度に7兆6664億円と、5年前の12年度に比べて16%増えた。高齢化に伴って薬にかかるお金は増え続け、税や保険料を通じて国民の負担になっている。
コンビニは顧客のニーズを満たすことで市場を作り出してきた。街角の薬局は患者のニーズを満たしているかどうか。医薬分業がもたらした非効率を見直すには、ニーズを満たさない薬局には市場からの退出を迫るといった政策も必要になる。
(日経新聞)
調剤にとっては凄い流れが出来るかもしれません。
by kura0412
| 2018-11-24 14:27
| 医療政策全般