『介護大手になった損保ジャパンの第一歩』

介護大手になった損保ジャパンの第一歩

先日、東京・芝浦にある、SOMPOケアネクスト(以下ネクスト社、東京都品川区)の研修所を見学する機会があった。
ネクスト社は、昨年、ワタミから損保ジャパン日本興亜ホールディングスが買収した事業会社(旧ワタミの介護)だ。現在、「SOMPOケア ラヴィーレ」、「SOMPOケア ハッピーデイズ」といったブランド名の介護付き有料老人ホーム、デイサービスなど100施設以上を展開する。

研修所が入っているのは、ごく普通のおオフィスビル。だが、一歩入って記者は驚いた。実際の施設と同じ廊下と手すり、居室の入り口があり、まるでホームに訪問しているような気になったからだ。廊下に面した居室に入ると、室内も間取り通りで窓のカーテンまで設置されており、トイレのスペースもあった。廊下の奥に進むと、実際には入浴できないが浴室があった。浴室は通常のホームと同じく、勝手に開けられないようにカギがかかる仕組みとなっている。
広いスペースでは、様々な施設から来たスタッフがお互いにおむつ交換の流れを確認したり、研修担当の責任者から作業のコツを学んだりしていた。
研修所で学ぶのは実技だけではない。それぞれの居室には、架空の入居者がいることを想定して、介護の計画書に基づいたサービスの運用方法や、介護に対する倫理観なども学べるようにしている。
研修所は、今年春にできたばかり。ワタミの介護にはかつてこうした研修所はなかった。他の介護事業会社でも、ここまできめ細かい研修施設を用意しているケースはめずらしい。

損保ジャパン日本興亜HDは、これまで介護大手に出資したり、社員を出向させたりして、介護現場の現状を把握していた。その中で、スタッフ教育の重要性を認識し、この研修所を設置した。
今年、損保ジャパン日本興亜HDは、ワタミの介護の買収に続き、介護大手のメッセージを子会社とし、同社名をSOMPOケアメッセージ(メッセージ社)に改めた。ネクスト社とメッセージ社による研修所の共同利用はまだ行われていないが、スタッフのスキルアップやサービスの向上につながるとみて、視野に入れている模様だ。

施設の建設よりも在宅に注力
ネクスト社とメッセージ社の売上高は、2016年3月時点で1143億円と、上場する介護事業者では国内2位に躍り出た。シニアリビングの居室数は、2016年3月末に約2万5700室と国内1位だ。だが、研修所の設置に象徴されるように当面は内部の充実に力を入れて、施設の開所などハード面の成長については慎重な姿勢を見せている。
介護事業の経営管理のため、7月に設立したSOMPOケアの奥村幹夫社長は、次のように語っている。
「介護施設を造っていくことは、一種の不動産投資でもある。東京五輪を控えて地価や建設費が高騰している今のタイミングでは、極めて慎重だ。むしろ在宅でのサービスに注力して、新しいサービスを開発していきたい」

在宅のサービスには、メッセージ社が東京都新宿区と杉並区、世田谷区で展開している、「在宅老人ホーム」がある。利用者は自宅に住みながら、訪問してくるスタッフのサービスを受ける仕組み。月額の料金は、要介護5でも食事代を含めて10万円以内を目安とした画期的なサービスだ。
ただし、事業所から利用者宅までの距離や利用者数など、一定の条件が揃わなければ収益が上げるのが難しい仕組みとなっている。サービスの提供範囲を広げていくためにも、医療機関との連携を強化したり、利用者とスタッフとの通信手段などに工夫を凝らしたりしていく方針だ。
さらに、同社はIT(情報技術)や介護ロボットの活用に挑もうとしている。冒頭で紹介した研修所ではこうした技術を開発する際の実験場所としても、活用していく予定だ。

介護は労働集約型産業であり、あらゆるサービスには人の手がかかる。この究極の問題を解決するため、例えば高齢者を見守るセンサーなど、技術開発は進んでいる。しかし、業界を劇的に変えるような画期的で汎用的なものは、生まれていないのが現状だ。
技術の進歩で生産性を上げられれば、その分スタッフの負担は減り、人件費を増やして処遇改善につながる可能性がある。「今後、労働人口が減る一方で、介護サービスを受ける人は増えていく。広がっていく需給ギャップを埋めるため、取り組んでいきたい」と奥村社長は強調する。メーカーと共同で技術を開発することで、自社とメーカー双方が有益となることを目指している。

こうした話を聞きながら、記者は気になったことがある。ネクスト社の前身であるワタミの介護は、利用者とのコミュニケーションを重視して、利用者にできるだけおむつを使わせないようにトイレに行くのをフォローするなど、人の手によるケアを重視してきたからだ。そのため、新しい会社の考え方にとまどいを感じているスタッフも中にはいるかもしれない。
技術の開発が効率的な働き方につながり、スタッフの負担軽減につながればなによりだが、過度なロボット化が進むことによって、現場が無機質な雰囲気になってしまったら、利用者や家族にとっても物足りなさが出てくるのではないだろうか。
たしかにコミュニケーションに関しては通信技術が進んでおり、必ずしも全て対面での会話を前提にしなくてもよいケースもあるかもしれない。介護業界の慣習となっている部分を、新たな視点で見直していく必要性はある。
人の手によるケアと、最新技術。両者がちょうどよい按配で取り入れられた、従来にない介護サービスの開発が、進んでいくことを期待したい。

【日経ビジネス】
by kura0412 | 2016-08-18 09:18 | 介護 | Comments(0)

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