『名医は名経営者にあらず』

名医は名経営者にあらず 病院破綻の深淵
帝国データバンク・篠塚悟

高齢者が増える中、「病院が破綻する」と聞いて奇異な印象を持つ人も多いのではないだろうか。経営状態まで気にして診てもらう患者もいないだろう。しかし、ここ数年の推移を見ると年間30~40におよぶ医療機関(歯科医院含む)が倒産に至っているのが実情だ。総合病院からクリニック、歯科、さらには介護老人保健施設の運営も手がける医療法人緑生会(千葉県我孫子市)は2014年8月に東京地裁へ民事再生法の適用を申請、負債総額約63億7900万円の大型倒産となった。業容拡大を狙い総合病院を新設して、わずか1年半後の破綻。一体何が起きたのか。

■お産呼吸法の権威
我孫子市に隣接する印西市。北総線印西牧の原駅から歩いて20分のところに、緑生会の破綻の引き金となった「印西総合病院」がぽつんと建っている。繁華街から離れているため人影はまばら。周辺の道を行き交うのはほとんど車だけだ。
破綻後、同病院は消化器外科や脳神経の内科・外科、泌尿器科などを休止し、主に産婦人科と小児科、内科に絞って診療を継続している。「不便な場所で利用したことはなかったが、それでも緊急の時に駆け込める病院があるのは心強かった」。駅で会った60代の男性は、大幅な規模縮小について残念そうに話した。

緑生会は理事長の橋本明が1995年10月に茨城県藤代町(現在は取手市)で開業した「橋本産婦人科クリニック」を前身としている(同クリニックは2006年5月に閉鎖)。橋本は昭和大学医学部を卒業後、東京警察病院に勤務し産婦人科医長を務めた医師で、「気功式出産」のリーブ法を開発したことで知られる。お産の際の呼吸法といえば、緊張をほぐすラマーズ法が代表的だが、リーブ法は、リラックスだけにとどまらず、「医学的根拠に基づいた呼吸法」「エクササイズで痛みを和らげスムーズな出産へと促す呼吸法」と説明され、信奉者も多い。産婦人科医としての実績は高く評価され、当時、遠くからの来院も多かったようだ。
98年8月に緑生会に改組。01年にはJR「我孫子駅」から徒歩5分の場所に「あびこクリニック」を開設する。産婦人科、内科、小児科、歯科を設置した同クリニックが順調に推移したこともあり、2002年7月期(後に決算期変更)の年収入高(一般企業の年間売上高に相当)は約9億円弱と前の期に比べ倍増した。
勢いはさらに加速していく。04年10月には、茨城県茨城町に入所定員100名の介護老人保健施設「桜の郷祐寿苑」を開設。その後も、07年~11年にかけて歯科クリニック4施設のほかクリニック2施設、助産師専門学校、助産院を開設するなど短期間のうちに業容を急拡大させた。助産師の評判も良く、クリニックで受けたお産の数は年間1000件前後にもおよんだという。結果として、12年4月期の年収入高は約20億円に達した。
次々とクリニックを開設していたことからもうかがい知れるが、橋本は医師としての腕前や技術に傾注した職人肌だけの人物ではなかった。事業家としてのクリエイティブな側面も持ち合わせていたようで、当時を知る関係者は「いつしか総合病院の経営をしてみたいとの思いをもつようになっていった」と語る。12年11月に競合の総合病院が我孫子市に開設されたことも、橋本の事業家としての野心を刺激したのかもしれない。
地方の人口減少が叫ばれる中、印西市は千葉ニュータウンといわれる数少ない人口増加地区だ。市はインフラ整備の一環として、入院や手術を要する症例に対応できる、いわゆる「二次救急医療施設」となる250床規模の病院誘致に力を入れており、緑生会の思いと見事に合致した。市の後押しを背景に複数の金融機関によるシンジケートローンで約40億円の資金を調達。13年1月に印西総合病院の開設にこぎ着けた。


■医者が足りない
ただ、スタート時から過剰設備の懸念が一部で指摘されていた。同病院は第1期として81床、第2期として141床に増床(合計222床)する計画だったが、1期目の段階で既に増床の際のキャパシティーを見越した設備投資を行っていたからだ。
そして、設備以上に懸念されていたのが総合病院に見合う医師・看護師の陣容の確保だった。緑生会は関係者などに対し「(人繰りの)めどはついている」と説明していたようだが、実は千葉県の「東葛・北総」と呼ばれる当該・周辺エリアは病院の新設や建て替えが多く、医師や看護師からみて圧倒的な売り手市場。人材確保は難航したもようだ。
さらに印西市は人口が増加しているものの、思いの外、子育て世代が増えていなかったことも見込み違いだったようだ。開設当初、産婦人科、小児科、乳腺科、消化器科のみで、既存利用者が利用するケースが多く、新たな患者の利用が想定を下回ることになる。
その後、内科や整形外科、皮膚科などを増設したものの、曜日毎の担当医の掲示板はスキマだらけだったという。地域の二次救急を担う拠点としてスタートしたにもかかわらず、これでは継続性を伴う高度な医療を提供できるはずも無く、外来から入院への移行も寸断された。
経営破綻の直前の期となる2014年4月期の年収入高約24億円に対し約9億円の経常赤字を計上。債務超過に陥り、ついには支払いに支障をきたした。民事再生法申請時の負債は年収入高の2.6倍にまで膨れ上がっていた。

医療機関の倒産は、この10年間で368件発生しており、このうち収入不足などの、いわゆる本業不振が原因の倒産は約4割を占める。
他業界を含めた倒産全体で見た場合、本業不振が原因の倒産は8割以上に達するので、医療機関は顧客(患者)に見放されて倒産するケースが比較的少ない業態だとも言える。病気やけがは景気の影響で増減するわけではないので、当然のことかもしれない。

■管理者も不足していた
一方で、医療機関の倒産では「放漫経営」や「経営計画の失敗」といった内的な背景に起因する倒産が3割以上を占めており、他業界と比べて突出して高いのが特徴だ。今回の緑生会のケースには当てはまらないが、経営の甘さから乗っ取り屋グループに病院を食い物にされ、倒産に至ることも、実は珍しいことではない。外部環境より組織内部に落とし穴が潜んでいるところに、病院経営の深淵がある。
 「総合病院というよりはクリニックの個人経営者ということだったのかもしれませんね」。倒産後、橋本についてのこんな声が周辺から聞こえてくる。産婦人科医としての腕前と、組織を率いる経営者としての能力は別物なのだ。
これは病院に限らず一般企業においても同様なことが言えるのではないか。優秀な技術者や研究者、営業のプロなど現場で輝かしい結果を出してきた者が、管理・経営の立場に回った途端にぱっとしなくなるのはよくあることだ。「医師だけではなく、管理者も足らなかったのではないか」との指摘は、医療関係者だけではなくビジネスマン皆が受け止めるべき教訓を含んでる。=敬称略

【日経新聞】



名医と名経営者の両立を目指しているのですが、私は両方ともダメです。
by kura0412 | 2015-02-04 15:15 | 医療全般 | Comments(0)


コラムニスト・鞍立常行が日本の歯科界に直言


by kura0412

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ミラーを片手に歯科医師の本音

回想

本紙閉刊に伴いこのコラムも今回で最後となります。平成10年9月から19年間、筆が進まない時もありましたが、締め切りを遅らせることもなく、また大きなトラブルもなく終えることにある意味安堵しております。ただその中で一度だけで校正まで終えながら書き直したことがありました。それはあの「日歯連事件」と称された事件が勃発した時でした。
あの時は一人の開業医でしかない私が、社会事件になるほどの大事件に対して実名で書くことに躊躇しましたが、事件に対していろいろな観点から憤りを感じ、もし問題となれば歯科医師を辞める覚悟をもって書きました。この事件によって日本の歯科界に大きな変化があったことは多くの先生方が感じられたことです。今思えばその内容は別として、あの時書き綴っておいたことが、その後連載を続けられた源になっていたかもしれません。
然るに風化しつつあるあの事件の本質は何だったのか。その手法に対しては司法判断が下った結果が示されていますが、事件の根本には、現在も続く歯科医療に対する公的評価の低さを何とか打開しようと考え方がありました。この点を誰もが分かっているのに言葉に出ていません。但し結果的には中医協委員が1名減員、事件後の懲罰的な18年度改定となり、歯科界の思いとは反対の流れを作ってしまいました。特に改定では、それまでの改定時で、技術料を引き下げながら作った僅かな財源を「かかりつけ歯科医」初再診料に振り分けながらも、「かかりつけ歯科医」を一気に消し去られたことによって、保険点数全体が縮小したと共に、時代の流れである「かかりつけ歯科医」という名称、概念をも否定されることになってしまいました。そして事件によって植え付けられた歯科界の負のイメージは現在も引きずっています。
日本の歯科界は今、大きな分岐点に差し掛かかり、新しい息吹が入る機運も高まっています。但し、この負のイメージを引きずったままでは大きな壁が存在します。あの事件は終わったのでなく、まだ背負っており、それを回顧することで歯科界の課題を改めて見出すことが必要です。
残念ながら現在、日歯、日歯連盟共に入会者、特に若い先生の入会が減少しています。事件の影響、また、入会することへの利点を見出せず、医療環境向上寄与への期待が薄らいでいるからです。個人で個々の臨床現場での対応出来ても、政策を変えるには一つの塊にでなければパワーが発揮できないだけに、この問題は歯科界発展の最大の課題です。その為には、過去の問題となった出来事を背景も含めて改めて見直し、そして新しい目標を示す。それも抽象的でなく、具体的な分かりやすい政策を提示することで歯科界の展望が分かることで推進力の働きとなります。
最後に、本コラムを続けなければ会うことの出来なかった全国の先生方と交流できたことは、私の歯科医師人生としての財産となりました。そして、好き気ままに綴ることを甘受して頂き、連載を許して頂いた歯科時報新社・吉田泰行社長に感謝を述べ終わります。ありがとうございました。

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