『1本の矢というよりは1000本の針』

ついに始まる日本の改革:第3の矢

安倍晋三首相に、ここ数十年で最高の日本再生のチャンスがめぐってきた。首相にはこれをものにする用意はあるようだ。
1868年に始まった日本の明治維新では、改革派の官吏や民間人が一丸となり、封建制度を廃止し、国境をこじ開け、日本を急速な産業化の道へと押し出した。10年あまりで、改革派は日本を徹底的に作り替えた。
この有名な話は長きにわたり、日本人の間で楽観主義の根拠となってきた。日本人は、真に必要に迫られれば、方向転換できるという考え方だ。
しかし、外国人をはじめ、そこまでの確信を持つことができない人々もいる。日本の経済は20年にわたって停滞を続け、その間、リーダーたちはこの国の運気を上向かせることに失敗し続けてきた。
2012年に就任した安倍晋三首相は、楽観主義者と懐疑派の両方に材料を提供してきた。
首相は当初、驚くほど素晴らしい滑り出しを見せた。2013年には、明治維新に匹敵するスピードで、「アベノミクス」の2本の矢を放った。具体的には、大規模な財政刺激策と劇的な金融緩和策だ。株価は高騰し、政権の支持率は急上昇し、安倍首相率いる自民党は参議院選挙で勝利を収めた。
しかし、3本目の矢、すなわち成長を促すための構造改革については、同年6月に発表された最初の試みは完全な失敗に終わった。首相は日本の様々な利益団体に丸め込まれてしまったようだった。さらに12月、安倍首相は日本の軍国主義賛美の象徴とされる靖国神社を参拝した。これが他国を激怒させ、首相が経済改革の本筋から逸れているのではないかという疑念を強めた。
そして、安倍首相は6月24日、今度こそ適切な3本目の矢を放った。今回は的に当てることができると考えられる2つの理由がある。
1つ目の理由として、今や国民の大多数が何らかの改革が必要だと自覚している点が挙げられる。
2つ目の理由は、安倍首相がようやく、変化を必要とするほぼすべての経済分野に及ぶ、幅広い構想を打ち出した点にある。

急速に高齢化が進む日本社会
経済が停滞していたこの20年で、日本は変化した。主な理由は人口動態だ。
まるで隠し切れない白髪のように、高齢化の兆候はあらゆるところに見受けられる。あるシンクタンクは最近、出産が可能な年齢の女性たちが大都市に移り住むため、全体の半分にあたる900近くの自治体が2040年までに消滅するという予測を出した。
日本の人口で最も急速に増加している年代は100歳以上で、既に10%以上の住宅が、主に高齢化のために空き家と化している。労働力の縮小があまりに急激なため、女性と外国人排除の気風が顕著な日本のエリート層でさえ、移民の受け入れや女性の社会進出を検討している。
もう1つのきっかけは経済成長の停滞だ。
20年にわたり平均以下の成長が続いたことは、現実的な影響を及ぼしている。日本企業の間で外国資本の割合が増えているのも、これが理由の1つだ。外国人は現在、株式市場全体の30%を保有しており、1989年の4%から激増している。株主資本主義の考え方が広がり、多くの大企業が野心的な利益目標を掲げている。
安倍首相は、日本株式会社が抱える巨額の貯蓄をこのままため込むのではなく、投資に回して資本の配分を促進するとの目標を掲げており、こうした動きは首相の目標にとっても大いに追い風になる。
外国人株主はさらに、戦後の日本に根付いた終身雇用制度を抜本的に見直すよう求める可能性が高い。この制度は徐々にぐらつきを見せているものの、現時点で500万人近くの手厚い保護を受けた正規労働者が余剰人員となり、退職金を割り増ししても人員整理ができないでいる。一方、若者や女性を中心とする全体の約5分の2の労働者は、低賃金の非正規雇用に甘んじている。
3つ目の理由は中国の台頭だ。
有権者は日本の自立の必要性を今や認識している。これが醜悪なナショナリスト的示威行動を生んでいる面もあるが、中国の台頭は、経済改革がさらに緊急性を要する課題だとの認識を高めている。醜悪なナショナリストにとっても、これは同じだ。

1本の矢というよりは1000本の針
安倍首相の改革案はこれまでの日本のリーダーたちが提示したものよりはるかに重みがある。
改革案では、過剰な規制に縛られた医療分野の自由化、国内外の起業家の活動促進、コーポレートガバナンス(企業統治)の見直しなどを目指している。根深い文化的なタブーに踏み込んだ改革案もある。外国人のメイドを雇い、子供や高齢者の世話を頼むという、経済特区の設置がその一例だ。
加えて、今後もさらなる改革案が発表される予定だ。これらの改革項目をすべて足すと、より革新的でグローバル志向の社会に向けた一貫したビジョンになる。その幅広さは、強みの1つだ。これは1本の矢というよりは、むしろ鍼灸治療用の1000本の針なのだ。
このように注意を要する問題にも切り込む意思を明らかにした後も、安倍首相の支持率は高い水準を維持している。これは国民に新しい考え方を受け入れる準備があることの表れだ。
前回の抜本的な改革への動きは、2001年から2006年まで首相を務めた小泉純一郎氏に率いられたものだった。しかし、小泉氏の改革は後任の指導者たちによってうやむやにされた(元凶の1人が小泉氏に後継者とされた安倍首相だ。悲惨だった第1次安倍政権は1年しか続かなかった)。

現在、安倍首相は他党からの激しい反対に遭うことはほとんどない。民主党は2012年12月の総選挙で惨敗を喫してから、立ち直りの兆しすら見えない状態だ。
ただし、世論が改革の支持に回っても、国全体が一致団結して改革を支えているわけではない。農家から医師、大企業、そして最も強力な公務員まで、多くの利益団体が抵抗するはずだ。それでも、閣議承認された成長戦略が見せた純粋な大志は、抵抗に遭っても「ドリル」のように風穴を開けてみせるという安倍首相の決意の表れだ。

抜本的改革のまたとないチャンス
安倍首相は明治維新の改革者たちに影響を与えた知識人、吉田松陰の「志定まれば、気盛んなり」という言葉をよく引用する。しかし、重要なのはやはり、密かに効果を弱めるような追加条項をつけずに、十分な数の改革を完全な形で実行できるかどうかだ。また、実行の時期も重要だ。
さらに、正規労働者が過剰な保護を受けている労働市場など、安倍首相がもっと踏み込むべき分野もある。さらに、幅広い改革分野で、いまだに抵抗の意思が固い人々に改革を受け入れさせなければならない。
安倍首相は今後、利益団体の妨害に屈したり、ナショナリズムの横道にそれたりしないよう、常に目標に集中する必要がある。しかし、安倍首相が提示した構想は息をのむほどスケールが大きい。このスケールにより、日本を再び活性化させる、久々のチャンスがめぐってきた。この好機こそ、すべての人が歓迎すべきものだ。

【英エコノミスト】
by kura0412 | 2014-07-01 15:51 | 経済 | Comments(0)

コラムニスト・鞍立常行が日本の歯科界に直言


by kura0412