『アベノミクスが失望に終わる理由』

アベノミクスが失望に終わる理由

日本の安倍晋三首相がとても懸念しているのは、自国の経済が中国の経済に比べて衰えることだ。安倍氏が経済の再生を目指して「アベノミクス」をぶち上げたのはそのためだ。
では、この施策は成功を収められるだろうか? 答えはイエスだが、その成功は部分的なものにとどまるだろう。デフレを終わらせる可能性は十分にあるが、経済成長率を大幅に引き上げることはできそうにない。
アベノミクスは「3本の矢」で構成される。第1の矢は、デフレの終結を目指した金融政策。第2の矢は、短期的には日本経済の下支えを、長期的には財政の安定性を目指した柔軟な財政政策。そして第3の矢は、投資の増額と経済のトレンド成長率の引き上げを目指した構造改革である。

命中する可能性が最も高いのは第1位の矢の金融政策
この3本のうち、命中する可能性が最も高いのは第1の矢だ。日銀は今年1月、消費者物価の2%上昇という目標を明示した。だが新しいアプローチが生まれたのは、日銀出身でない黒田東彦氏が新総裁に任命された後のことだった。
黒田氏のリーダーシップの下、日銀は「量的・質的金融緩和(QQE)」という野心的なプログラムを発表した。上記のインフレ目標を「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」のがその狙いだ。
具体的には、日本国債の保有額を2年間で2倍に拡大し、その平均残存期間を2倍以上に延長することを公約している。かつて米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長の職にあったクリスティーナ・ローマー米カリフォルニア大学バークレー校教授はこの方針を、米国による1933年の金本位制離脱に匹敵する「レジーム転換」だと称賛した。
黒田氏が本紙(フィナンシャル・タイムズ)とのインタビューで語っているように、日銀の新しい政策は金利の引き下げ、比較的リスクの高い資産の保有増加、そしてインフレ期待の引き上げという3点を通じて経済に影響を及ぼすことにある。「まだ道半ばだ」と黒田氏は話している。「最新の統計によれば、インフレ率は0.9%に達している。だが、先はまだ長い」

楽観論を弁護することは可能だ。
第1に、消費者を対象とした調査の結果や債券市場の動きからは、インフレ期待が上昇しつつある様子がうかがえる。
第2に、経済全体の供給力の余剰(GDPギャップ)は恐らく非常に小さい。日銀はこれを潜在GDPの1.5%にすぎないと見ており、現在の失業率が4%前後であることはその裏付けとなっている。
第3に、日本経済は向こう2年間、潜在成長率の2倍のペースで成長すると予想されている。その通りになれば、供給力の余剰は解消されるだろう。第4に、日銀は日本経済をインフレにするのに必要なことは何でもやるとの決意を明らかにしている。

そもそも中央銀行というものは、その気になれば、自らが創造している貨幣の価値をいつでも引き下げることができる。ただその場合には、インフレ期待が2%で安定するどころか大幅に高まってしまい、日銀が金融引き締めを余儀なくされるというリスクがある。
黒田氏はまた、期待インフレ率がプラスになれば経済活動が促進されるとも述べている。なるほど、期待インフレ率がプラスになれば実質金利はマイナスになり、家計や企業の支出が促されるだろう。もし投資が増えれば、持続可能な経済成長率も上昇するだろう。
さらに、もし民間部門の資金余剰(昨年はGDP比11%)が急減するようなことがあれば、財政赤字が次第に、経済活動にダメージを及ぼすことなく縮小していく可能性もあるだろう。
このように日銀の新しい戦略は、期待インフレ率を2%にとどめることができずにデフレの期待を不安定化させてしまうリスクはあるものの、経済の再生をある程度促進するかもしれない。しかし、金融政策では経済内部の構造的な不均衡を解消することはできないし、基調となる経済成長率の底上げに大きく寄与することもできない。

2%のトレンド成長率の実現が難しい理由
日本政府は、実質ベースのトレンド成長率を年2%に引き上げたいとしている。これは不可能ではないが、かなり野心的な目標だ。
日本の生産年齢人口(15~64歳)は年率0.7%ほどのペースで減少している。また2012年のデータによれば、15~64歳の男性の就業率は80%で、ほかの主要な高所得国より高い。女性の就業率は61%で、米国(62%)や英国(66%)、ドイツ(68%)に大きく離されているわけではない。つまり、女性の労働参加率をさらに引き上げることは可能なのだろうが、それで経済成長の見通しが大きく変わるということにはならないだろう。
上述の経済成長率の目標を達成するには、就業者1人当たりのGDPを年2.5%に近いペースで伸ばさなければならない。だが、1990年から2012年までの期間に、高所得国の生産性のトレンド上昇率がそのような高水準に達した例はない。
確かに2012年には、日本の就業者1人当たりのGDP(購買力平価ベース)は米国のそれの71%相当額にすぎなかった。しかしこれも、ほかの主要な高所得国に大きく離されているわけではない。労働生産性の遅れを挽回する余地は、主にサービス業でまだ残っているものの、追いつこうとすれば社会的・経済的な大変動が生じることになるだろう。今日議論されている穏当な改革ではとても無理だ。

また、今日議論されていることは日本の構造的な不均衡への対処にもつながらない。
ここで言う不均衡とは、民間の過剰な貯蓄が巨大な財政赤字によって吸収され、公的債務残高の急増という形で顕在化していることを指す。
実際、日本で行われている議論は、企業部門で莫大な資金余剰が発生していることを、そして家計の可処分所得や個人消費のGDP比が低いことを全く無視している。つまり現在の財政政策は、少なすぎる消費にかかる税を引き上げる一方で多すぎる企業収益にかかる税を引き下げることを目指しているのだ。
アベノミクスには、いつもながらの「構造改革」の方策が盛り込まれている。だがこれらは、真の構造問題とは無関係だ。

日本の真の構造問題
スミザーズ・アンド・カンパニーのアンドリュー・スミザーズ氏は、企業が損金に算入できる減価償却費を減らすことを推奨している。
企業収益から家計へと所得を移転させなければ、経常収支の黒字が大きく拡大しない限り、構造的な財政赤字を解消することはできない。経常収支のさらなる拡大という戦略を取るのはユーロ圏だけでたくさんだ。日本は同じことをしようと考えるべきではない。
新しい金融政策にも支えられて、今日の日本は景気の循環的な上昇を謳歌している。デフレは解消されるかもしれない。だが、経済のトレンド成長率も加速するのではとの見方は楽観的すぎるし、構造的な障害に関する議論も限定的すぎる。人口動態を考えれば、日本は年1~1.5%の経済成長を遂げれば上出来であろう。
また、GDPに占める消費の割合を高めなければ、経済の活力を財政再建に結びつけることもできないだろう。家計の貯蓄率は低位であるため、企業からの所得移転がなければ消費の割合は高まらない。だが、この課題を認識するつもりは誰にもないように見受けられる。それどころか日本では、既に過大な水準にある投資をさらに増やすべきだと思われているようだ。これは間違っている。

では、アベノミクスの1年目はどう評価できるのだろうか。
筆者の見立ては、早々と成功したが完全な成功にはほど遠い、というものだ。 (By Martin Wolf)

【Financial Times 】



もしアベノミクスが成功しなればば、経済だけでなく政治も大混乱となります。
by kura0412 | 2013-12-19 15:06 | 経済 | Comments(0)

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