「iPS普及へ決意の転換 」

iPS普及へ決意の転換
山中教授が備蓄を公益法人に移管 研究と分離、安定供給狙う

京都大学iPS細胞研究所長の山中伸弥教授は再生医療用のiPS細胞の備蓄事業を、非営利の公益法人に移管する案を明らかにした。治療用細胞を製造・出荷する事業は研究と明らかに異なる。山中教授は事業の「公共性」を保つため大学で担うことにこだわってきたが、分離によって初めて再生医療の本格普及と産業化の基盤が整う。
「大きな決断ですね」。2018年12月、山中教授は文部科学省の作業部会で公益法人化を提案後、こう問われると「いや、まだこれからです」と言いながらも、吹っ切れた様子だった。

公共性を重視
多くの人の治療に使えるようiPS細胞を備蓄しておく京大の「iPS細胞ストック」事業に、山中教授は執念を燃やしてきた。根底にあるのが「iPS細胞による治療をできるだけ早く、多くの患者に届けたい」という強い思いだ。
iPS細胞は体のあらゆる細胞や組織に育つので、けがや病気で傷んだ臓器の働きを補う再生医療への応用が期待されている。ただ、患者本人からその都度作っていたのでは時間と費用がかかりすぎ、使いづらい。
そこで、拒絶反応を起こしにくい特殊な免疫タイプの人の血液からiPS細胞を作り、あらかじめ備蓄しておくのがiPS細胞ストックだ。再生医療普及の突破口になると期待される一方、京大が一手に担うのは無理があるとの声も以前から出ていた。17年、試薬容器のラベルはり違いがあったことが発覚し再生医療の臨床研究に遅れが出ると、批判は増えた。
「餅は餅屋。細胞製造は専門企業に任せ、山中先生は研究に集中してはどうか」。研究仲間からも公然とこんな声があがった。iPS細胞を生産・供給する米セルラー・ダイナミクス・インターナショナル(CDI)を傘下にもつ富士フイルムやスイスの細胞製造受託企業ロンザは、商機とみて接触してきた。
ところが、山中教授は自らストック事業の総責任者に就き、iPS細胞ストックは「公共インフラ」であり営利目的の企業に任せるべきではないと持論を展開した。CDIを通してiPS細胞の重要な製法特許を握る富士フイルムからライセンス料をふっかけられるのではないかと、疑心暗鬼になった。
iPS細胞ストックの事業費は、文科省が12年度から10年間に1100億円の拠出を決めた再生医療関連予算から出ており、年間10億円程度をあてている。残すところ約3年。そこで打ち止めになれば、ストックに依存する他大学などの再生医療計画は頓挫しかねず治療の普及が遠のく。
細胞の供給体制が中途半端なままでは国際競争も戦えない。山中教授は再生医療の事業化を急ぐ英国の旧知の研究者や、古くからの友人でもある世耕弘成経済産業相などにも打開策を相談したようだ。そして行き着いたのが公的な性格を帯びつつ民間の資金を入れて運営できる公益法人だ。
組織を京大から切り離せば、職員を期限付き雇用の不安定な状態から、公益法人の正職員という安定した地位に改善できる。人材確保や組織づくりの自由度も増す。iPS細胞研と緊密な連携を続けることで、最新の研究成果を活用できる。
官民の資金で研究と本格的な治療応用との橋渡しをする組織としては、英国の「細胞・遺伝子治療カタパルト」やカナダの「再生医療商業化センター」がある。組織の巨大化や高額設備の導入で費用が膨らむなど必ずしも順風満帆とはいえないが、京大にとってよいモデルになったようだ。

引き抜き激しく
もちろん、これですべて解決とはいかない。大手製薬企業などが再生医療研究を本格化し、人材の引き抜き合戦は激しい。それに負けない高額報酬を出すのは難しく、優秀な人材をつなぎとめられるかは不透明だ。施設・設備の維持管理や更新の費用もかさむ。
細胞の作製技術は急速に進化しており、備蓄細胞のニーズが予想通り増えるかはっきりしない。ただ、日本発の優れたiPS細胞技術を治療に最大限使うことに異を唱える人はいない。国はいま一度、長期的な再生医療の普及戦略を定め、山中教授の決断が無駄にならないようにすべきだ。

(日経新聞)



ケチな考えをもつ私なら一攫千金の夢を見るところですが山中先生は人間的なレベルが違います。自らの研究を具現化し、更に世界に広め普及させる一念でのこの動きだろうと推測します。
by kura0412 | 2019-01-17 10:43 | 医療全般

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