健保の破綻回避には「外国人」受け入れが必須

5年間で最大34万人の外国人人材を受け入れ
安倍晋三内閣は外国人労働者の受け入れ拡大を目指す出入国管理法改正案を2018年臨時国会に提出、本格的な議論が始まった。新設する「特定技能1号」「特定技能2号」の資格で、5年間で最大34万人の外国人材を受け入れるとしている。安倍首相はあくまで「移民政策ではない」として期間終了後は帰国させることが前提だとしているが、職場で常に多くの外国人が働くことが当たり前になっていくに違いない。
それでも新資格だけでは人手不足を賄うことは難しい。政府の試算では2019年度に不足する労働者は61万~62万人で、新資格で受け入れるのは3万3000~4万7000人としている。今まで労働者受け入れの「便法」として使われてきた「技能実習制度」や「留学生」を今後も大量に使い続けるのか、それとも新資格の枠を広げていくのか、注目されるところだ。
働く外国人が当たり前に社会に存在するようになる中で、様々な社会のセーフティーネットにどう外国人労働者を受け入れていくのかが、大きな課題になっていく。労災や失業に備えた労働保険や、年金、健康保険、生活保護といった枠組みだ。「しょせん出稼ぎなのだから、無保険で構わない」「日本のセーフティーネットを使わせるのはおかしい」といった声が存在するのは、安倍首相が「移民ではない」と言い張っていることが大きい。実際に、そうしたセーフティーネットの外側にいる外国人を増やせば、社会不安の種になり、先進各国が経験してきた「社会の分断」を生むことになる。
そんな中で、早急に対応が必要なのが、健康保険の制度設計の見直しだ。

会社員が対象の健康保険は現在、加入者本人に扶養される3親等内の親族にも適用される仕組みになっている。家族が日本国内に住んでいるか、海外に住んでいるかは関係ない。この仕組みをそのまま放置すれば、外国人労働者の母国にいる親族らが日本の健康保険でカバーされることになる。
報道によると、実際に、こうした親族らが母国や日本で医療を受けて健康保険を利用する事例が相次いでいるとされる。政府は2019年の通常国会に健康保険法改正案を提出し、保険加入者が扶養する親族が保険の適用を受けるためには、日本国内に居住していることを要件とすることなどを検討している。

健康保険組合の42%が赤字決算に
もちろん、不正利用を防ぐのが狙いだが、そうなると、日本人で海外に居住している留学中の子弟などをどうカバーしていくのかなど、制度設計に工夫が必要になる。本来、健康保険制度は、収入に応じて保険料を支払っている人とその扶養親族らが、等しく医療を受けられることが前提になっている。外国籍だからといって仕組みから排除していけば、保険そのものが成り立たなくなっていく。
そうでなくても健康保険の仕組みは窮地に立たされている。日本の健康保険制度の一翼を担ってきた大企業などの健康保険組合の解散が相次いでいるのだ。
世の中の関心を呼んだのは、加入者16万4000人の日生協健康保険組合と、加入者51万人の人材派遣健康保険組合が解散を決めたこと。人材派遣健保は国内3位の規模だ。そうした主要健保までが解散に追い込まれているのは、保険財政が急速に悪化しているのが理由だ。
健康保険組合連合会が2018年9月25日にまとめた1394組合の2017年度の収支状況によると、42%に当たる580組合が赤字決算だった。健康保険組合は、加入している社員の保険料で、社員やOBの医療費を賄うのが建前だが、国の制度で導入された、高齢者の医療費を賄うために拠出する「支援金」の負担が年々増加しているのだ。2017年度決算での全組合の「支援金」合計額は3兆5265億円と前年度に比べて7%も増えた。保険料の収入合計は8兆843億円なので、何と半分近い44%が支援金に回っている計算になる。
厚生労働省がまとめた2017年度の「概算医療費」は42兆2000億円と前年度比2.3%増え、過去最大となった。概算医療費は労災や全額自費の医療費を含んでいない速報値で、総額である「国民医療費」の98%に相当する。
概算医療費の増加が続く最大の要因は、75歳以上の医療費が大きく伸びていること。2017年度は4.4%も増加し、75歳未満の1.0%の伸びを大きく上回った。
これは、高齢者の数が増えているためばかりではない。高齢者ひとり当たりの医療費で見ても75歳以上は大きく増えている。2017年度は94万2000円と、前年度の93万円に比べて1万2000円も増えた。ちなみに75歳未満は22万1000円だ。75歳以上の高齢者が使う医療費が現役世代など若年層に重くのしかかっている。しかも、働く現役世代の人口はどんどん減っているので、そうなると若年層ひとり当たりの健康保険料負担はどんどん大きくなっていく。
同じ職場環境にある社員で組合を作り、その保険料で組合員の医療費を賄う健保組合の「相互扶助」の仕組みは、まさに保険の原理を使った効率的な仕組みだった。保険料は加入する社員と会社が折半で負担、企業が成長を続けていれば、若い健康な社員がたくさん入るため、医療費の負担も分散される格好になってきた。世界がうらやむ国民皆保険が成り立つ上で、企業の健保組合の果たした役割は大きい。

このままでは「国民皆保険」が瓦解しかねない
それが高齢者医療制度で「支援金」の負担が年々大きくなり、健保組合の財政は一気に赤字となった。赤字から脱するためには、保険料を引き上げるしかないが、それも限界に近づいている。健保組合が解散すれば、国の仕組みである国民健康保険(国保)や、中小企業などを対象とする「協会けんぽ」に加入することになる。これも自立運営が建前だが、財政は厳しく毎年1兆円以上の国庫補助などを受けている。
協会けんぽの保険料率はおおむね標準報酬月額の10%(労使合算)前後になっている。また、国保は保険料が高いことでも知られ、保険料が払えずに「無保険」状態に陥る人もたくさんいる。
このままでは「国民皆保険」が瓦解することになりかねない。上昇し続ける医療費を抑制することも重要だが、保険を構成する人口構造が、逆ピラミッドになってしまえば、仕組みそのものが成り立たない。負担する人よりもらう人が増えれば相互扶助は限界なのだ。
1つは健康保険財政を支えてくれる、若くて健康な働き手を増やしていくことが、国民皆保険を永続的な仕組みとする上でも不可欠だ。ズバリ、外国人労働者を積極的に受け入れ、その上で、彼らにきっちり保険料を負担してもらうことが必要なのである。日本の社会保障制度、セーフティーネットを支える一員になってもらうということだ。
ともすると、不正をして利益だけを得ようとするフリーライダー(タダ乗り)にばかり目が向きがちだ。だが、多くのまじめな外国人労働者は、きちんと税金を払い、社会保険料を負担して、日本社会の一員としての義務を果たそうとしている。
いや、日本社会の一員として、きちんと義務を果たしてもらう仕組みを整え、その恩恵として質の高い医療を受けられるようにしなければならない。外国人労働者を単なる労働力とだけ考えるのではなく、社会を構成する一員、生活者として受け入れる仕組みを早急に整えなければならない。
健康保険だけでなく、年金制度も同じだ。日本人でも米国勤務が一定以上の期間に及んだ人なら、米国から年金をもらっているという人も少なくない。日本できちんと働き、厚生年金を掛けた外国人には年金が支払われる仕組みを整えなければ、日本で長期にわたって働こうという外国人も出てこない。外国人受け入れ拡大を機に、社会保障制度を抜本から見直す必要がありそうだ。

(磯山友幸・日経ビジネス)



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