社会保障抑制の数値明記せず、財務・厚労省調整

社会保障抑制の数値明記せず 新財政健全化計画で財務・厚労省調整
財政規律緩む懸念

新たな財政健全化計画を巡り、財務省と厚生労働省は2019~21年度の3年間の社会保障費の伸びを抑える「目安」に具体的な数値を明記しない方向で最終調整に入った。16~18年度は計1.5兆円が目安だった。一時的に75歳以上の人口の増加ペースが鈍るため、18年度までの3年間よりも伸びを抑えられるとの認識は共有したものの、数値目標の見送りにより、財政健全化の柱である社会保障費の抑制が甘くなる懸念が強まってきた。

政府は6月に閣議決定する経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に財政健全化計画を盛る。国と地方を合わせた基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化する目標時期を25年度とする方向だ。18年度の社会保障費は予算総額の3分の1を占める約33兆円。目標達成には今後も膨らむ社会保障費を抑制する改革が本丸になる。
現行の財政健全化計画では、16~18年度は「高齢化による増加分に相当する伸び」として3年間で計1.5兆円程度に抑える目安を設けた。抑制幅はシナリオ通りに進み、高齢化に伴う自然増が年6000億円を超えるなか、歳出の見直しで社会保障費の伸びは年5000億円程度に抑えた。
財務省と厚労省は5月の大型連休明けから、19~21年度の社会保障費の目安を巡る協議を本格化させた。焦点となったのは、医療費などが膨らむ75歳以上の後期高齢者の人口の伸びと、その影響をどうみるかだ。
とくに、20~21年度の2年間は、第2次世界大戦直後に生まれた人が75歳となるため、一時的に後期高齢者の仲間入りをする人口の伸びが鈍るという特殊要因がある。逆に22年度以降は戦後のベビーブームの団塊の世代が後期高齢者となり始め、75歳を迎える人口の伸びが加速し、社会保障費の増加ペースも速まる。

財務省は、75歳を迎える人口が鈍る20~21年度の2年間は、年1千億円規模で社会保障費の伸びを圧縮できると主張した。18年度までの3年間に設けた計1.5兆円の目安を踏襲するだけでは、かえって財政規律が緩むと懸念。高齢化に伴う伸びの範囲に歳出増を収める方針の堅持を求めた。
これに対し、厚労省は19年度以降の3年間も計1.5兆円を目安にすべきだと要求した。その一方で、団塊の世代が後期高齢者となり始める22年度以降を見据え、医療費や介護費の膨張が加速する事態に備えた改革を続けるべきだという財務省の主張は容認した。
結局、具体的な数値の設定では折り合えなかった。
政府内では目安を巡る具体的な文言を詰めているが、新たな健全化計画でも社会保障費の伸びについては、高齢化の影響で避けることのできない範囲内に抑える方針を堅持することで調整している。賃金や物価の上昇を想定した年金の「賃金・物価スライド」も上振れの要因として認める。

目安を巡る表現が曖昧になるほど、今後の予算編成の過程で火種になる。
19年には統一地方選や参院選を控え、年末の19年度予算編成では歳出圧力が強まって財政規律が緩むとの懸念は強い。歳出改革や実施時期をまとめた工程表をどこまで具体的に示すことができるかも課題だ。後期高齢者が医療機関の窓口で支払う自己負担の割合を現在の1割から2割に引き上げる案など、具体策が今後の焦点となる。

(日経新聞)
by kura0412 | 2018-05-17 09:32 | 医療政策全般

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