『トランプ氏「ゴルフ外交」に秘めた意外な熟慮』

トランプ氏「ゴルフ外交」に秘めた意外な熟慮
ああ見えても「マメな人」一流のおもてなし術

ドナルド・トランプ米大統領と安倍晋三首相が2つのゴルフ場をハシゴして繰り広げた熱い「ゴルフ外交」は、メディアをシャットアウト。ゴルフ場という広大なアウトドアスペースをすっかり“密室化”していた。そのせいか、逆に「のぞいてやる!」という気持ちを周囲に抱かせたのかもしれない。
ある女性記者は「ゴルフ外交」の最初の舞台となった「トランプ・ナショナルGC・ジュピター」で、メディアの“控室”的な場所となったクラブハウスのベースメント(地下室)を撮影し、SNSのインスタグラムにアップ。両首脳のゴルフの様子がメディアから撮影されたり見られたりしないよう、あらかじめ黒いプラスチックですべての窓が覆われている不気味な室内が映し出されていた。

密室と化したコースで行われた「ゴルフ外交」
だが、メディアの控室ではなく、「ゴルフ外交」のシーンの一部をこっそり撮影した人物もいたもよう。南ア出身の元世界ナンバー1選手で、この日のラウンドに同伴したアーニー・エルスとトランプ大統領がクラブハウス前で立ち話をしている写真がインスタグラムにアップされ、そこにはスウェーデン語で「ドキドキの1日が始まります」と書かれていた。もちろん、その写真は瞬く間にSNS上で拡散された。
さらには、昨年、安倍首相がニューヨークまで馳せ参じ、トランプ大統領が就任する前にプレゼントしたあの「黄金のドライバー」を、実際にトランプ大統領が練習場で振っている写真までSNS上にアップされていた。
この写真、本当にゴルフ外交の日のものなのかどうかは不明だが、少なくとも写真の中のトランプ大統領の服装は当日と同じようである。あの50万円の本間ゴルフ製ドライバーをトランプ大統領が安倍首相の目の前で実際に使って「ゴルフ外交」を行ったのだとすれば、そうした気遣いは、この私が過去に何度か試合会場で接して垣間見てきた“マメなトランプ”らしいなあ、とうなずける。
私が、トランプ大統領をマメな人だと思うその理由は、大統領になる以前に、こんなところを見てきたからだ。
一例として印象深いのは、2015年のキャデラック選手権。自分のプレーにいらだったロリー・マキロイ(北アイルランド)がアイアンを池に投げ入れたが、その夜、トランプ大統領はすぐさまダイバーを雇って池の底から拾わせ、翌日、そのアイアンをマキロイに返すという迅速な対応をした。

筆者が見た、マメで気さくなトランプ大統領
また、トランプ大統領が所有するゴルフコースで開催されていたキャデラック選手権では、毎年、自身が試合会場に足を運んでいた。メディアセンターにもボランティアテントにも大会関係者のテントにもやってきて、ちゃんとあいさつをして回っていた。幾度かトランプ大統領の近くで取材していた外国人メディアである筆者の顔や存在も覚えているらしく、敬礼のようなジェスチャーを送ってくれて、メディアセンターなどで会えばあいさつもしてくれた。
トランプ大統領の名が冠されたゴルフクラブは世界17カ所にあるとされている。米国内にはワシントンDCにもニューヨーク近郊のニュージャージー州にもトランプ所有コースはある。それなのに今回のゴルフ外交の舞台は、なぜ、わざわざ移動してまで、フロリダだったのか。
それは、ゴルフ場ビジネスにおいて王者になることを切望し始めたかつてのトランプ大統領が、初めて所有したゴルフコース、それが今回、「ハシゴ」で行われたゴルフ外交の2つ目の舞台となったフロリダ州の「トランプ・インターナショナル・ゴルフクラブ・ウエストパームビーチ」だからである。
開場は1999年で、トランプ大統領にとってゴルフ場ビジネスの出発点だった。「トランプ」と「ゴルフ場」とくれば、「ウエストパームビーチ」。そんな連想ゲームが成立するほど、このウエストパームビーチはトランプにとっては“ホーム”のような場所なのだ。
だが、トランプ大統領が今回、まず安倍首相を招いたのは、その「トランプ・インターナショナル・ゴルフクラブ・ウエストパームビーチ」ではなく、別のもう1つのコースである「トランプ・ナショナル・ゴルフクラブ・ジュピター」だった。そこで18ホールをプレーしたあと、続いて「トランプ・インターナショナル・ゴルフクラブ・ウエストパームビーチ」へ移動して、さらに9ホールを回った。

なぜ、そんな順番でコースのハシゴをしたのかを考えてみた。
「ウエストパームビーチ」は前述のようにトランプ大統領にとってのゴルフ場ビジネスにおけるホームであり、ルーツでもある場所。一方、「ジュピター」のほうは、トランプ大統領がゴルフビジネスとのかかわりを深め始めてから手に入れたコースで、開場は2002年。コース設計は帝王ジャック・ニクラス。クラブハウスや他施設も「ウエストパームビーチ」より近代的で豪華。コースの戦略性やおカネの掛け方も格段に高い。
つまり、トランプ大統領にしてみれば、「ジュピター」は自慢の「新作」で、それをぜひとも安倍首相に見せたいし、世間にもその存在をアピールしたかった。だが、わがルーツ、わがホームである「ウエストパームビーチ」もやっぱり見せたかったのではないかと想像できる。
さらに想像を膨らませれば、「ジュピター」は帝王ニクラスの設計ゆえに、戦略性が高い難コースだ。「ウエストパームビーチ」のほうもチャンピオンシップコースの18ホールは難しいのだが、「トランプ9」と名付けられた9ホールはエグゼクティブ向けの易しいコース。

コースと同伴者選びに見るトランプ大統領の狙い
難しい「ジュピター」でお疲れになった安倍首相を少しいい気分にさせ、おもてなしするために、「ウエストパームビーチ」へハシゴしたのではないか。それもまた“マメなトランプ”の気遣いだったと考えると納得がいく。
さらにいえば、18ホールだけでは「足りない」と感じるほど、トランプ大統領と安倍首相の間に連帯感や仲間意識が芽生え、「もう1軒行こうぜ」という感じでハシゴでゴルフをする流れになったとも考えられる。
米国の大統領には代々ゴルフ好きが多く、在任中にウイルソン大統領は1200ラウンド、アイゼンハワー大統領は800ラウンド、オバマ大統領は300ラウンドしたという数字が出ているが、トランプ大統領も負けず劣らずのゴルフ好き。いや、その熱狂ぶりは群を抜いている。
その熱狂ぶりを理解し、一緒に熱狂してくれる相手として、安倍首相は「この人こそ」と思われたのではないか。だからこそのハシゴだったのではないか。そんなふうにも考えられる。
それにしても、日米首脳のゴルフ外交に呼ばれたプロゴルファーが、なぜ南アのアーニー・エルスだったのかが、とても気になった。フロリダを本拠にするプロゴルファーは山ほどいる。ジュピターやウエストパームビーチ一帯にはタイガー・ウッズをはじめとする一流選手、有名選手の豪邸が立ち並び、エルス以外にも候補となりうる選手は多数いたはずだ。
しかも「Make America Great Again!(アメリカを再び偉大な国に)」と叫ぶトランプ大統領が、このゴルフ外交に同伴させたのが、なぜアメリカ人ではなく、南ア出身のエルスだったのかを考えてみた。

私なりの答えはこうだった。
エルスの長男ベンくんは、幼い頃に自閉症と診断された。以来、エルスは自閉症の人々のためのチャリティ活動に精を出し、自閉症に対するさまざまな医学的研究・開発のための財団も設立している。
ここ数年、エルスはチャリティ目的のゴルフトーナメントを独自に開催し続けており、そのチャリティゴルフをスポンサードしている1人がトランプ大統領なのだ。
トランプ大統領とエルスの間には、そんな友人関係がそもそもあった。「ああ見えて」案外、人情や友情に厚く、優しい気遣いもする彼らしさが、今回のエルス起用につながったのだろう。
「起用」といえば、「トランプ・インターナショナル・ウエストパームビーチ」は、1999年開場後、2006年から8年間、米LPGAのADT選手権の舞台にもなった本格的なチャンピオンシップコースだが、そのコース設計者はジム・ファジオだ。

トランプ大統領が相手を「評価」するポイント
トム・ファジオなら知っているけど――。多くのゴルフファンがそう思うだろう。そう、ゴルフコースの設計家として世界的に有名で、誰もが認める巨匠なのはトム・ファジオだ。ジム・ファジオはトム・ファジオの兄だが、1990年代の彼はコース設計家としては無名だった。
「ウエストパームビーチ」は、無名だったジム・ファジオが生涯で初めて設計した本格的なコース。なぜ、当時のトランプ大統領は実績も名声もなかったジム・ファジオをあえて自身の初の所有コースの設計家に起用したのか。
そこには興味深い話がある。1990年代のある日、トランプ大統領はコース設計家などのゴルフ場の専門家数名を集め、あるゴルフ場の感想を求めた。トランプ所縁のコースなのだろうと思ったのか、誰もが「すばらしいコースですね!」と美辞麗句を並べたが、ジム・ファジオだけは「ひどい状態だ」と本音をズバリ。
どうやらトランプ大統領は形式や常識や実績ではなく、「王様は裸です」とはっきり言える人材を好み、信頼するようで、だからこそジム・ファジオをいきなり起用したのだろう。
だからこそ、今回のゴルフ外交で、安倍首相はトランプ大統領にどんな本音を言ったのかが、とても気になる。ハシゴもしたのだから、安倍首相とトランプ大統領の間にもお世辞ばかりではなく、お互いに辛口で冗談交じりのプレー批評だって交わし合うような仲間意識ができたのかもしれない。

【舩越 園子・東洋経済ONLINE】
by kura0412 | 2017-02-14 10:40 | 政治 | Comments(0)

コラムニスト・鞍立常行が日本の歯科界に直言
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30