看取りの手順

意外と知らない看取りの手順

死亡の確認は、日本では医師と歯科医師だけに許された仕事です。その割にその方法を学ぶ機会は少なく、現場で先輩医師の振る舞いを見てまねたり、必要なことは独学したりしてやってきました。同じような医師は少なくないのではないかと思います。ここでは、最低限必要な手順と、私がしている工夫を紹介したいと思います。

事前準備をぬかりなく
患者さんの病室もしくは自宅に行く前に、まず簡単に病歴を復習します。病気の経過をひと通り頭に入れておかないと、家族との会話がかみ合わなかったりするからです。特に、当直などで初対面の患者さんの死亡確認をするときには、家族が患者さんの死を受け入れられているかどうかも含めて、カルテの記録を読んだり、担当の病棟看護師や在宅であれば訪問看護師に聞くなどして必ず確認するようにしています。
医師が死亡確認を依頼されるタイミングには、患者さんの息がまだ続いていて「そろそろ呼吸が止まりそうだ」と呼ばれる場合と、既に呼吸が止まっている場合とがあります。

「そろそろ呼吸が止まりそう」というときは
看取りの主役は家族です。最後の大切な時間を邪魔しないように、医療者は少し離れて本人の様子を観察します。多くの場合は呼吸が先に停止し、心臓の拍動はそれより数分遅れて止まります。心拍は、心電図モニターが付いていると止まったことが分かりますが、身体所見で止まったことを確認するのにはコツがいります。最も見やすいのは「頸動脈の動き」です。皮膚表面の動きを接線方向で見ると微弱な拍動も分かりやすいので、自分から遠い側の首の皮膚を見るようにします。呼吸停止から5 分以上拍動が続くことはよくあり、「心臓が頑張っています」と話して、動きが見えなくなるまで待つようにしています。
脳幹部の機能が停止したことは、一般的には対光反射の消失で確認します。睫毛反射の消失で代用することもあります。呼吸と心拍が止まったばかりのときは、対光反射は残っていることもあります。その場合、厳密には死の三兆候(瞳孔反応停止、呼吸停止、心停止)がそろっていないことになるので、少し間をおいてから再確認するのが原則です。また、死亡確認をしてよいタイミングに至ったかどうかを判断する際には、家族の準備が整っているかどうかの確認も重要です。間違っても、泣きすがる家族を引き離して確認してはいけません。ご遺体にすがって存分に泣いてもらう時間は、家族が悲しみを乗り越え、これからの人生を前向きに歩んでもらうためのプロセスとして大事です。
家族がそろうまで確認を待ってほしいという家族もいて、待てる範囲で待つようにしています。最近では少なくなりましたが、中には、家族が到着するまで心臓マッサージでも人工呼吸でも何でもして生かしておいてほしいという家族もいます。しかしそれは、どうやっても命が終わる場面では「家族のためだけ」にする処置であり、患者さん本人のためにはならないことなので、臨終に間に合いそうにない家族にはその旨を電話で説明し、静かに到着を待ちます。

死亡確認の実際と注意点
実際の死亡確認では、
◎ 胸部の聴診で呼吸と心拍が停止していること
◎ 視診で頸動脈の拍動が停止していること
◎ ペンライトで対光反射が消失していること
を確認するのが、最低限の手順です。頸動脈や橈骨動脈の触診をする場合もあります。

いずれの場合も、生きている兆候がすべて見られなくなってから、ゆっくり死亡を確認するというのがポイントです。最後の呼吸間隔は1分を超えてくることもあります。死亡確認をしてから呼吸が現れたり、モニター上に明らかな波形が現れたりすると、「死亡診断もまともにできない医者」という目で見られかねません。モニターの波形があっても心拍は停止している場合もありますが、家族がその波形を見ている中で、医師がモニターの電源をあっさり切って死亡確認すると、見切り発車されたような気分になるようです。
アンビューバッグを使って人工呼吸をした場合は、死亡後に胃に入った空気が出てきて、声のように聞こえることがあります。呼吸が止まって数分で、皮膚がピクピクする線維束性収縮が見られることもあります。これらは死亡後に起こっておかしくないことですから、家族にはそのように説明します。死亡を確認したら、そのことをはっきり家族に告げます。死亡時刻を気にする家族は多いので、できるだけ正確な時計をもとに、確認した時刻と死亡した旨を伝えます。このときの言い方は医師によってさまざまですが、私は「○時○分、死亡したことを確認しました」と言うことが多いです。
以上が死亡確認の手順です。
この後、落ち着いてから、闘病の経過を知っている患者さんや家族の場合には「本当に良く頑張りました。ご本人が一番頑張ったけれど、ご家族も良く頑張ったと思います。お疲れさまでした」と付け加えることもあります。

家族の「グリーフケア」にも配慮
死亡確認をしたら、死亡診断書を作成します。
死亡診断書は死亡統計の材料にもなるので、できるだけ病態を反映した病名を記入するようにします。紹介状や伝聞による手術の情報は、カッコ(  )に入れて書くことになっています。一番下の欄には、診断書作成日と医療機関名、そして医師名を書きます。自筆の署名があれば捺印はいらないことになっていますが、後で「『印』というところにハンコが押してない」と言ってくる家族がいることと、押印した方が格好いいような気がして、私は捺印しています。死亡診断書の作成に当たっては、くれぐれも間違いがないように気をつけます。特に患者さんの氏名は、カルテと健康保険証に記載されている漢字が違っている場合もあり、家族に確かめて書いた方が確実です。
患者さんが死亡すると、家族は遺族になります。緩和ケアでは家族もケアの対象と考えるので、遺族に対するケアも欠かせません。死亡確認をして死後の処置をして送り出したら、仕事は終わりという医療機関も多いと思いますが、遺族のケアについても簡単に触れておきます。

愛和病院では、チャプレン(病院付き牧師)の司会で「お別れ会」という小さな会を開いています。ご遺体を中心に家族とスタッフが囲むように座り、礼拝のような形式で患者さんの人生と闘病生活を振り返り、本人と家族とスタッフの労をねぎらい、お別れします。一つの区切りの儀式ですが、遺族の気持ちを整理したり、後悔を納得に変えていくのに大きく役立っているように思います。
 遺族のケアのことを「グリーフケア」と呼びます。家族を失ったことによるダメージは、人によって全く違います。ほとんどの人は次第に元の生活に戻れますが、大きく沈んで何年も引きずる人もいます。沈んでいる人にとっては、「あなたを気にかけている人がいますよ」ということが伝わると、生きるのが少し楽になります。手紙を送ったり、お悔やみ訪問をしたり、遺族が集まる会を開いたりなど、さまざまな方法で遺族の気持ちが沈んだままにならないようにケアをしています。

【日経メディカル・平方 眞】



冒頭にあるように歯科医師も死亡診断書が書けます。
by kura0412 | 2017-01-10 10:49 | 医療全般 | Comments(0)

コラムニスト・鞍立常行が日本の歯科界に直言
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