チャンスを逃すな

チャンスを逃すな

(ニッポン一億総活躍プランの中に)
「幸せになるためには食べてなんぼ」これは日本歯科医師会雑誌に掲載されていた、フレイルを推奨する辻哲夫東京大学特任教授(元厚労事務次官)の対談での一言です。行政の実務家の頂点の経験がある方のこの発言は、歯科界に属する一人として心強く感じると共に、これからの日本の社会全体の変革に新たな歯科医療の展開の必要性を示唆してくれました。そして世界会議2015でのプレゼンテーションを経て、日歯は「オーラルフレイルを予防して、健康寿命を目指しましょう!」との新たな国民運動展開を打ち出しました。
その後大きな動きもなく、私の頭の中から「フレイル」忘れかかろうとした時、政府の資料の中でこの「フレイル」が目に入りました。それは6月2日に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」です。GDP600億円、希望出生率1.8、介護離職ゼロという新たな三つの矢を目標としたこのプランは、単に現在の経済政策という位置づけだけでなく、加速化する少子高齢化の克服を目指す安倍政権の大きな中心的政策です。
その中には具体的な施策として、「高齢者のフレイル段階での進行防止(フレイル対策)のため、地域における介護予防の取り組みを推進するとともに、専門職による栄養、口腔、服薬などの支援を2016年度から実施する。」「後期高齢者医療における保健事業の在り方を検討し、事業の効果検証を行った上で、ガイドラインを作成し、2018年度からフレイル対策の全国展開を図る。」との記載があります。柏プロジェクトのように既に具体的な施策のモデル事業が始まっています。

(戦略的な施策)
フレイルを再び意識するようになった矢先、辻氏と一緒にこのフレイルの旗振り役であり、医師である飯島勝矢氏の講演を聞く機会がありました。
まず驚いたのが、このフレイルは非常に戦略的な施策であることでした。本来の「Frailty」の日本語訳「虚弱」では広まらないと考え、代わって日本老年医学会の認を得て「フレイル」というネーミングは生まれました。その厳密な定義は確立されてはいなくても、世界に先駆けて高齢化となる日本だからこそ可能とした、日本発の「フレイル」です。
また、フレイル予防の栄養(食・口腔機能)、身体活動(運動、社会活動など)、社会参加(就労、余暇活動、ボランティア)三つの柱に一つに歯科が係わることが明確に組み込まれていました。そして健常、プレフレイル、フレイル、要介護の四つのフェーズによるアプローチを栄養(食)から考えると、新たに取り組む歯科領域の各ターゲットが明らかになりました。これからの時代に即した歯科医療の再構築の展望です。こんな夢膨らむプランを歯科界外の方から示唆された経験はありません。

(各施策に横串を刺して一つとして)
その一方、現在の歯科診療には、従来のう蝕、歯周病の治療に加えて、口腔内全般の機能的回復を目指すことが加えられ、「口腔機能低下症」などの病名も考えらえるようになっています。また、医療介護の世界でも広まってきた口腔ケアは、歯科医療全体を口腔健康管理として位置づけ新たな定義と概念を定める動きも出てきました。そして摂食嚥下障害への対応は歯科領域を広げ、フレイルとの係りを更に強いものにする分野にしてくれます。
然るに、これを一つ一つの施策として考えるのではなく、横串を刺して総合的に進める。要は保健事業に留まらず、基金、診療報酬、介護保険なども含めた具体的な施策として、その世界の専門家集団である歯科界が提示できるかに、フレイル、オーラルフレイルの成功はかかっています。
冒頭の対談で辻氏は「歯の治療ということで止まらない幅の広い学問に歯科がまず動いてくださらないと我々は不幸だと思います。」と歯科界にアクションを求め背中を押しています。絶好のチャンスを逃してはなりません。



*デンタルタイムズ21・9月5日号に投稿したコラムです。
by kura0412 | 2016-09-17 12:19 | コラム | Comments(0)