舌に注目

舌の筋力を維持すれば全身の衰えを防げる!?
会話や歌、さきイカの咀嚼で老化を防止

同じ口の中にありながら、歯に比べると舌を意識することは少ないように思う。歯は毎日せっせと磨くのが普通なのに、舌を磨いている人はあまり見かけない(専用のブラシも市販されているのに)。
舌は味覚を感じる器官だが、それだけではない。例えば言葉を喋るとき、舌は重要だ。英語の「TH」が代表的だが、日本語にも舌がなかったら発音できない子音がいくつもある。そうなると、他人とコミュニケーションを取るのは難しくなるだろう。さらに、「舌がないと、ものを食べることもできなくなります」と指摘するのは日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック(東京都小金井市)院長の菊谷武さんだ。

舌がないとものを食べられない
いや、味が分からなくなるのは分かりますよ。でも歯さえしっかりしていれば、ものを食べることはできるんじゃないですか?
「歯があっても、舌がないと噛めません。舌が歯の上に食べ物を乗せてくれるから、噛むことができるんです」と菊谷さん。
1回噛むと、食べ物が歯の周りにはみ出す。それを舌が再び歯の上に乗せてくれるから、私たちはモグモグと咀嚼(そしゃく)することができる。また、目に見えている舌は全体の3分の2で、残りは食道の上まで続いている。食物を飲み込むときには、この部分が動いて食物を押し込むように食道に送り込むという。
つまり、舌がなければ食べることも話すことも極めて難しくなるということだ。あまり目立たないが、舌は生きていく上で欠かせない重要な器官なのだ。

舌の力と全身の筋力は関係していた
菊谷さんも加わった厚生労働省の疫学調査に、「虚弱・サルコペニアモデルを踏まえた高齢者食生活支援の枠組みと包括的介護予防プログラムの考案および検証を目的とした調査研究」(通称「柏スタディ」)というものがある。この調査は、2012~14年にかけて、柏市在住の65~94歳の高齢者2044人が参加した、体力と生活能力の関係を調べた大規模な調査だ。その結果、興味深い事実が分かった。
「膝を伸ばす力や握力などが弱い人は舌圧(ぜつあつ、舌の筋力)も弱かったんです。舌も骨格筋のひとつですから、考えてみれば当然なんですが、舌の力と全身の筋力が関係していることが明らかになりました」(菊谷さん)
ちなみに舌の筋力は舌圧測定器という機械を使って調べられる。ボール状になったセンサーを口に入れ、舌で押しつぶすようにして舌の筋力を測るのだ。
通常の成人男性は40キロパスカル(圧力の単位)前後だが、一般に年を取ると舌圧は落ちていき、65歳以上の高齢者は30キロパスカル近くに下がる。「30を切ったら要注意で、20を切ると食べ物を飲み込みにくくなる『嚥下(えんげ)障害』を起こすようになります」と菊谷さん。
運動の習慣がないと、歳を取るにつれて筋肉が減っていく。筋力が基準以下に減った状態をサルコペニア(筋肉減弱症)と呼ぶが、サルコペニアの人は舌圧も低かった(下図)。

筋肉が少ない人は舌の力も弱い
舌の力が弱くなると、咀嚼力、つまり食べ物を細かく噛み砕く力も落ちる。咀嚼力には歯の数が大きく影響するが、柏スタディに参加した高齢者の中に28本以上歯があった人が377人いた。その中で比べてみると、咀嚼力が低い人は舌圧も低かったという。
「舌の力が弱くなると咀嚼力も落ちるので、若い頃のように肉を食べられなくなる。その結果、たんぱく質が不足がちになってサルコペニアが進行する。筋肉が減ると基礎代謝も下がり、ますます食欲がなくなる、という悪循環に陥ります」と菊谷さんは説明する。
逆に舌の力を維持できれば咀嚼力も維持できる。咀嚼力があれば、硬い肉もモリモリ食べてたんぱく質を十分補給できるので、サルコペニアの防止につながる。筋肉が多いと基礎代謝が高くなって食欲もわく。よく食べることで、咀嚼力と舌の力が維持される――というナイスな循環が起こり、全身のアンチエイジングにつながっていく。

外に出かけて人と会うことも大切
舌も骨格筋のひとつである以上、歳を取れば衰えてくるのは仕方がない。歯が悪くて柔らかいものばかり食べていたり、人と話さない生活をしていたりすると、さらに舌の力は衰えていく。一般に舌の筋力は男性のほうが衰えやすいらしく、「女性の低下が抑えられているのは、お喋りだからかもしれません」と菊谷さん。
すると、アナウンサーやお笑い芸人など、喋りのプロは舌の力も強いのだろうか?
テレビ番組でお笑い芸人の舌圧を調べた菊谷さんによると、「さすがに舌圧が低い人はいませんでしたが、特別強いということもありませんでした」という。よく話すことで舌の力は維持できるが、手足の筋肉のように鍛えればどんどん強くなる、というものでもないらしい。舌に必要以上の筋力はいらないということだろう。

では、舌の力をキープするにはどうしたらいいのだろう。菊谷さんに具体的なトレーニング法を聞いた。
(1)歯を維持する
前に触れたように、ものを食べるのは舌と歯の共同作業。歯がなければ舌も活躍できないし、噛む回数が多いほど舌もたくさん動くことになる。貴重な歯を失わないように心がけて、少なくなってきたら早めに入れ歯などを入れてもらって対応しよう。

(2)人とお喋りをする
舌が働くのは食べるときと話すとき。他の筋肉と一緒で、使わなければ衰える。高齢になると仕事もリタイアして人と話す機会が減ってくる。意識的に人と会うようにしよう。人と話す機会が多い人は、自然と口の健康に気を使うようになるので、それもプラスになる。

(3)早口言葉とカラオケ
早口言葉は舌を鍛えるのに最適。また、カラオケもいい。どちらも「一生懸命やる」ことが大切で、自然と舌の筋力が高まるという。

(4)さきいかトレーニング
さきいかを1本口にくわえる。舌を使って、まず右の奥歯で1回噛む。次に左の奥歯に運んで1回噛む。左右10回ずつやる。終わったら飲み込んでもいいし、無理に飲み込まずに捨てても構わない。朝、昼、晩と1日3セット行う。舌圧を高めることに加え、舌をたくみに動かすトレーニングにもなる。

前に触れたように、舌の力が維持できるとサルコペニアの防止につながり、老化の進行を抑えられる。また、「咀嚼力が落ちると人と一緒に食事を楽しめなくなり、社会性にも影響する。舌圧や咀嚼力の低下は寝たきりへの第一歩ですよ」と菊谷さんは締めくくった。

【日経Gooday】




舌を歯科が取り扱うことには耳鼻科からの意見はありません。全身的な影響も含めて、領域拡大という点においても新しい着目点です。
by kura0412 | 2016-05-17 08:52 | 歯科 | Comments(0)