3本の柱で医療の新しい形を目指す

「安易に大病院に行かない」ことを推進する診療報酬改定の意味

4月から病院や診療所など医療機関に支払う治療や薬代の値段が決まった。厚労省の諮問機関、中央社会保険医療協議会(中医協)は、2月10日、診療報酬を決めて厚労相に答申した。
診療報酬は2年ごとに改定する。政府は2016年度の予算編成過程の昨年末に、全体で前回の2014年度改定より0.84%の引き下げを決めた。薬価はマイナス1.33%で、医師の技術料などの診療料は0.49%プラスとした。中医協はこの範囲に収まるように各単価を設定した。
基本的な考え方は、病院での早期退院を促し、在宅での医療を充実させよういうことだ。介護保険のスローガンである「地域包括ケアシステム」を実現させる大きな要素である「医療と介護の連携」を推進する。
団塊世代が7~8年後にはすべて後期高齢者となり、医療の需要が一段と膨らむのは必至。受診する患者の多数は高齢者という視点に立ち、「治す医療」から「生活を支える医療」へと医療機関の役割を根底から転換させる方向性を強めたのが今回の報酬改訂だろう。

「治す医療」とは徹底した治療一筋の考え方。これを縮小し、慢性病と共生しながら暮らす高齢者には、日々の「生活を支える医療」が重要であり、それを「医療機関の役割分担」と分かり難い表現で説明している。
(1)病床削減を視野に入れた「脱病院」策、
(2)在宅医療の浸透、
(3)認知症ケアの推進――この3本の柱で医療の新しい形を目指そうとした。

高度医療を担う大病院は専門的な診療に特化させる
まず、病院の位置づけであるが、「2025年までに20万床削減」という既定の方針に沿って、軽症の患者が高度医療を担う大病院になるべく来ないようなとても分かりやすい新制度を導入した。追加料金とも言うべき制度だ。
近隣の診療所のなどの紹介状を持たないで患者が大病院で診察を受けると、診察料や初診料とは別に誰もが5000円以上の支払いを求められるようにした。歯科の場合は3000円以上だ。再診の際にも、2500円(歯科は1500円)を請求する。
これまでも都心部の病院では、紹介状がないと3000~5000円を患者から請求していたが、これを全国で義務付けにした。対象となる病院は、高度医療を提供する「特定機能病院」と500床以上の大病院。全国で約240ヵ所である。
国民に地域の診療所への診察を促し、大病院は専門的な診療に特化させ、結果として病床削減へつなげようという狙いである。
看護師などが手厚く配置されている重度者向けの病棟の定義も変えた。従来は重度者が全入院者の15%以上としていたのを25%にハードルを上げた。これもベッド数の減少につながる。

また、病院での長期入院は好ましくないという考えから、退院奨励策も加えた。退院支援の専従職員を確保し、地域の診療所や介護施設、ケアマネジャーなどと連携して在宅医療への態勢を作ると、退院時支援加算として6000円を新たな報酬として設けた。
入院7日以内に患者や家族と面会するなど早期退院の姿勢を見せれば最大1万2000円の加算が付く。
一方で、比較的軽症の入院患者が多い病院の報酬は減らしていく。

訪問診療に特化した診療所が陽の目を見る
こうして、病院の「縮小」に拍車を駆けながら、退院してきた、あるいは病院に行かない患者の受け皿として在宅医療を前面に登場させた。その拡充を図ろうと、手厚い報酬を導入している。
象徴的なのが、在宅専門診療所の容認である。
患者を迎え入れる外来診療をしない。訪問診療に特化した診療所が初めて堂々と陽の目をみる。というのも、すでに、玄関周りの雰囲気から外来患者が入りづらい診療所はある。医師が多くの訪問診療患者を回っているため、外来に手が回らないためだ。だが、制度上は正面から外来を断ることはできない。
そのため、「後ろめたさ」を感じていた訪問診療特化型の診療所にとっては今回の新基準は朗報である。
ただし、いくつかの条件が付いた。その中に「外来診療が必要な患者が訪れた場合に対応できるよう、地域医師会(歯科医療機関にあっては地域歯科医師会)から協力の同意を得ている、又は地域内に協力医療機関を2ヵ所以上確保していること」とある。
訪問診療にほぼ専念しているある診療所の医師は「医師会はあくまで単なる業界団体に過ぎない。入会するもしないも医師の自由な判断次第。それなのに医師会との連携を条件にするとは…」と疑問の声を挙げる。
医師や医師会の多くは「外来を手掛けない医師は医療者として問題。
地域住民の生活を支えるには、外来が欠かせない」という思いが強い。その一方で、高齢者施設には家族との縁を絶たれた孤独な入居者がおり、医療の手を差し伸べてくれるのは遠くかやってくる訪問医師だけという状況がある。その医師たちは「家族と一緒に外来に来られる高齢者は幸せ」と打ち明ける。

外来に来る患者よりはるかに身体的に重度な、あるいは認知症の症状が重い高齢者が訪問医師を待ち受けている。在宅療養支援診療所の制度が訪問診療を支える。訪問診療医が16キロの制限距離内の孤独な高齢者の住まいを回っている。
こうした新しい需要に応えている。「患者を待つだけ」の外来とは大きな違いがある。外来不要の訪問診療が制度で保障されたことで、在宅医療が勢いを増しそうだ。
在宅医療の対象を増やす加算も行われた。「特定施設入居時等医学総合管理料」の対象を特別養護老人ホームと特定施設などから、グループホームやサービス付き高齢者向け住宅、それに有料老人ホームにも広げた。
在宅医療には、ターミナルケア加算やがん医療など各種の看取り加算も設けて、在宅生活を最期まで見届ける医療を推進する。

認知症の人には新しい報酬体系が
認知症の人には別格の新しい報酬体系が外来診療で始まることになった。「認知症地域包括診療料」である。前回の報酬改定時に設けた「地域包括診療料」をもう一段発展させたものだ。
地域包括診療料は、高齢者に多い糖尿病と高血圧症、脂質異常症それに認知症の4つの慢性疾患のうち2つ以上の疾患がある患者に対して「主治医」となることが条件。さらに、ほかの医療機関での受信状況の把握を始め、療養指導、服薬管理、健康管理、介護保険対応などを行なえば、得られる報酬である。
月間の包括報酬は1万5000円とかなりの高額。医師3人以上の在宅療養支援診療所か200床未満の在宅療養支援病院に所属していることが前提である。
これによって、慢性疾患を抱える高齢者に日常的に接して、心身の状況を診ながら迅速に対応させようという狙いである。他の医療機関の受診状況を把握するのは、日本の医療の「常識」を超えた先駆的な試みである。症状が悪化する前の健康管理は通常、診療とはされないが、それも加えた。複数の医療機関からの薬のすべてを把握して一元管理するのも医療界では見られなかったこと。画期的な報酬制度と言えるだろう。
こうして本人の全体を把握し、日常的に対応していくことこそが「地域包括ケア」の真意であり、成されるべきこと。それ故に、報酬の名称に「地域包括」が被された。

「地域包括」という言葉は、介護保険制度の中から生み出された「地域包括ケア」に由来する。それもあってか、この「地域包括診療料」創設に対して医療界からの抵抗は強かったと言われる。突破したのが当時の厚労省の担当課長。「老健局にも在籍したことがあり、介護の実態も知悉している」と語る「強者」だからできたこと、と評価された。
この新制度を活用して今回は認知症ケアに組み入れた。上記の4疾患のうち認知症だけを抜き出して、もう一つの疾患があれば認知症者はすべて対象となるようにした。報酬は月一回で1万5150円。
前の制度の条件に手を加え、医師は3人以上から2人以上と緩和した。せっかくの前向きな制度であるにもかかわらず、2014年7月までに112施設にしか活用されず不振のため、後押しを図ることにした。
実は、この地域包括診療という考え方は、欧米で普及している「家庭医」に通じるものだ。特定の臓器にだけ特化して診療するのが日本の医療制度。それに対して、内科や外科、皮膚科、精神科などあらゆる科目に精通した家庭医が住民の症状を診るのが多くの欧米諸国。患者の全体像を把握でき、日常的な対応で予防まで手掛ける。
日本でも、ほぼ同様な業務を期待される「総合診療専門医」のレールが敷かれつつあり、2020年度には表舞台に登場すると言われている。「総合」的な見地から特定の診療科目に捕らわれずに診療する専門医である。
また、認知症については、認知症ケア加算を新設した。認知症に詳しい専任常勤医と看護師、社会福祉士などが「認知症ケアチーム」を作り、週一回のカンファレンスを開くことが条件だ。同チームは、在宅復帰に備えた介護サービスなどを話し合い退院後の支援を検討する。

参考にしたい英国、オランダのケース
病院ではなく、自宅を含めた地域での療養生活へ誘導を図ろうとする厚労省の意図が鮮明に出てきたのが今回の報酬体系。ただ、目指す方向にある理想のプランが国民には見え難い。ニンジンを鼻先に吊るして特定の走路を巡らせようとしていることは了解できる。では、ゴールにはどのような仕組みが描かれているのだろうか。
その一つの答えが欧州、それもオランダや英国の医療システムにありそうだ。英国はNHS(国民保健サービス)制度があり、医療費が全て税金でまかなわれるから論外かというと、そうでもない。医師と患者、住民との関わり方は注目していいだろう。医療と介護の連携という面では、英国の一歩先を行くのがオランダ。両国に共通するのは家庭医が主役として機能している点である。
地域の家庭医が住民の日々の生活を見守り、支えている。とりわけオランダでは医師だけでなく看護師、薬剤師、栄養士、助産師、リハビリ職、介護職などの専門職の連携が意識され、多職種協働が実践されつつある。医療と福祉(介護)の連携でもある。これは、日本の地域包括ケアの担い手とそのまま重なる構造と言えるだろう。
その意味では、新設の認知症地域包括医診療料や前回設けられた地域包括診療料、地域包括ケア病棟など一連の「地域包括」を取り込んだ診療科目が、その先兵の役割を担っても不思議ではない。

では、英国やオランダの医療の基本構造はというと、家庭医をベースにした三角形を描くとよく分かる。家庭医に登録する住民は3000人前後。国民はすべて近隣の診療所かその家庭医に登録しなければならない。急な事故などを除き、あらゆる病気は1次医療機関である登録先の家庭医でまず診てもらう。大病院に自由に赴いて診察を受けることはできない。
家庭医が手術や入院が必要と判断すれば、患者は家庭医の紹介先の2次医療機関である病院に行く。そこでも対応が難しい難病などであれば、3次医療機関の大学病院などに通う。ほとんどの患者は1次医療で済んでしまう。その比率は90%近いと言われる。
つまり、日本では当たり前のような「フリーアクセス」が認められていない。フリーアクセスとは、患者がどこの医療機関でも自由に勝手に診察を受けることができる制度。少ない財源で効率的な医療システムを希求すれば、フリーアクセスを制約せざるを得ないのは火を見るより明らか。
3年前の「社会保障制度改革国民会議」でも同様の論議があり、「フリーアクセスから、必要な時に必要なアクセスができるように変えねば」と報告書に盛られた。「ゲートキーパー(門番)機能を備えたかかかりつけ医が必要」とも書き込まれた。
同会議の論議の中では、フリーアクセスを制約させる手立てとして、診療所からの紹介状を持たない大病院患者に「罰金」として5000円を請求することが語られた。実は今回の5000円以上を大病院が徴収できることとした決定は、この論議を引き継いでいる。
つまり、「病院から地域・在宅へ」という大命題を掲げた新診療報酬体系の目指す先には、「フリーアクセスの廃止」が描かれて当然だろう。地域医療を担う家庭医、日本版では「総合診療専門医」の全国的な浸透が欠かせないのは自明の理。だが、フリーアクセスを認めていては利用者(患者)の流れを変えることは難しい。病院の縮小均衡を目指すには、「病院信仰」を断ち切らねばならない。そのためには、自由に勝手に行くことのできるアクセスを遮断するのが近道だろう。
こうして、登録制の家庭医が地域ごとに整えられれば、社会保障制度改革国民会議で強調された「ご当地医療」が実現し、それは即ち、地域包括ケアの「医療連携」そのものになるはずである。逆に言えば、フリーアクセスを野放しにしている限り、生活圏域内(中学校圏域)で完結させるはずの地域包括ケアは遠のくばかりである。

【DIAMOND online】




歯科においてもこの3本柱(病床削減は直接関係ないので歯科は2本柱)の考えに沿って改定が進められたようです。しかしながら、実際はどうなるのでしょうか。
by kura0412 | 2016-02-18 15:51 | 医療政策全般 | Comments(0)


コラムニスト・鞍立常行が日本の歯科界に直言


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ミラー片手に歯科医師の本音

『口腔健康管理とかかりつけ歯科医』

今回の改定を医療全体的にみると三つの注目すべき特徴がありました。一つは伸び続けていた調剤には厳しい結果となったこと。7対1の入院基本料の要件の厳格化。そして改定の中で「かかりつけ」という概念が明確に組みこまれまれました。
「かかりつけ」に関しては医師、薬剤師に加え歯科でも導入されていますが、「かかりつけ歯科医」はあくまでも「保険用語に一つ」というイメージがあります。しかしながら医科、薬科ではこの「かかりつけ」を軸に医療体制の新しいイメージを描きつつ、今後の政策を積み重ねる意気込みを感じます。そこにあるのは、地域包括ケアの推進がベースにあっての考えです。例えば、今回の改定では紹介状のない大病院の初診・再診料自己負担は大幅なアップとなりました。また、調剤の方ではかかりつけ薬剤師指導料算定をきっかけに、患者とのコミニュケーションを密に図ろうとする試みを目指します。
一方、医療政策として改定と対をなす基金は、歯科医療の環境整備にも益々重要な意味を持ちます。ただ、今回改定の中でも可能性の秘めた項目としていくつか点数化は見られましたが、基金が改定とリンクすることなく、独立しての事業になっている印象は拭えません。限られた予算の中でのやり繰りです。W改定に向けての改定と基金との相乗効果を目指す為の戦略と、それに沿った事業の立案が必要となってきます。
包括ケアを視野に入れての「かかりつけ歯科医」でポイントとなるのが口腔ケアです。その有用性は医科からも視線が注がれています。然るに、口腔ケアという言葉が、ブラッシングのみの狭義に捉えられている現状があり、本来の口腔ケアの意味する嚥下機能も含めた口腔全体を管理する視点の広がりが不足しています。その観点からみると、今回日本歯科医学会が「口腔健康管理」と称した新たな口腔ケアの概念の提唱は機知を得た提案です。摂食機能療法などを加えた従来の歯科治療を「口腔機能管理」、歯石除去、PTCなど歯科衛生士の実施するエリアを「口腔衛生管理」、そして一般の方が実施する口腔清拭、食事介助などを「口腔ケア(狭義)」として、この三点を総じて「口腔健康管理」としました。
広義の口腔ケアとして定義する考えは、真の意味での「かかりつけ歯科医」が目指す所です。既にW改定に向けての作業が進む中で、この概念を一日も早く歯科界内部で意見の確認をしながら、国民への認知を広めなければなりません。
日医はかかりつけ医機能研修制度を創設し、独自の「かかりつけ医」というものを推し進めようしています。そしてその講習の中に「かかりつけ医の摂食嚥下障害」のメニューも組み込まれています。また、地域包括ケアに向けた「かかりつけ連携手帳」の作成に着手し、そのスピードは目を見張るものがあります。『かかりつけ歯科医』、『口腔健康管理』、『摂食嚥下障害』のキーワードは、地域包括ケアの中で育ちそうな芽であることは間違いありません。残す課題は、地域包括ケアを主導する日医、地区医師会との更なる連携の強化と事業実現に向けてのスピードを加速させることです。




『食べる=生きる』

地方消滅で日本の少子化高齢化に対して大きな警笛を鳴らした日本創成会議が「高齢者の終末医療を考える」と称したシンポジュウムを先日開催しました。その議論を聞くに、地方消滅と終末医療?そんな一見結びつかない二つが、これからの日本の大きな課題となっています。それと共に、改めて人の死という死生観を医療分野の一角に位置する歯科医師として、見つめ直す時期が今あるものと感じます。
高齢化になって、いわゆる寝たきり老人に対していろいろな考え方が示され、特に胃瘻の是非については大きな意見が分かれるところです。欧米においては日本で常習化している高齢者、寝たきり老人への適応が少ないとのこと。この点に関しては中医協でも前回の改定では、嚥下検査の有無によって評価を変えるという対応がなされ、また今回の改定での議論では、その経過の調査結果も示されています。しかしその一方、この問題が話題になって、胃瘻によって日常生活が暮らせるレベルになる患者さんまで拒否するような実例があり、医療現場その対応に苦慮する場面が多々見られる話も聞きます。
この問題は、医療、介護費増大から語られることが多かったのですが、タブー視されていた死に対する考え方が社会問題の遡上に挙がっていることは、大きな時代の変化として捉えられます。そして、食べることは従来から歯科界も提唱するように、単に延命だけが目的ではありません。生きていることの喜びを感じる、人間としての尊厳に係わる重要な日常生活の一つなのです。
医療関係者以外でも「食べる=生きる」を唱える人がいます。「食べることは、呼吸と等しく、いのちの仕組みに組み込まれているもの。」とは、料理研究家・辰巳芳子氏が唱えている私の好きな一文です。そして欧米での判断基準となる「食べる」ことの有無が延命治療の是非判断の基準となる考え方は、経済問題を抜きにしてもその専門家集団である歯科界の属するものが改めて真摯に議論し、一つの考え方を社会に示す責務があると考えます。
然るに、だかからといって歯科界が社会の先頭に立って、自らが死生観の変更を訴える必要はありません。これは社会全体で既にうごめく潮流であり、歯科界はあくまでもこの分野に特化した専門家として食べることの重要性、必要性を改めて世に唱え、それを臨床の場で実践を積み重ねれば良いのです。果たしてこれをも医科が歯科から奪い取り、領域拡大を目指すのでしょうか。
この死生観の議論の推移を見守ると共に、食べることへの支援を更に強める為に、摂食嚥下への歯科領域からの積極的なアプローチが必要となってきています。何故ならば、咀嚼と嚥下は対となって多くの結果を導き出すことが立証され、食べることを特化した専門家としての医療人としては、現状のままでは取り組みが不十分だからです。歯科医療は新たなる視点をもって社会に貢献する時代の到来です。あとはそれを導き、フォローする具体的な政策を積みかさねることです。歯科医療は真の意味での生きる喜びを支援する世界を導きます。



『飲み込みは大丈夫ですか』

基金における事業が一つのきっかけとなって、在宅診療、医療連携が新たな展開に進み始めています。それぞれの医療環境の実情を踏まえて、地域独自の取り組むこの基金を利しての新たな事業は、診療報酬と対になるこれからの歯科医療全体へ大きく波及する政策です。そしてこの基金は、来年度において今年度予算規模に介護関係が上乗せされる計画となっており、医療介護の垣根を越えた地域包括ケアシステム構築としての発想が必要となっています。
歯科における在宅診療の中心は、従来の診療所における診療の延長としての義歯調整から始まり、口腔ケアの対応へと進んでいます。口腔ケアの効果は、既に誤嚥性肺炎予防という観点から医科の関係者は元より介護関係者にも認知されています。それに加えてここきてスポットライトが浴びているのが、今回の基金でもいくつかの地域で事業が計画される摂食嚥下の分野です。
しかしながら、介護保険の認定審査項目にも「えん下」という項目がありながら、実際に摂食嚥下の対応は、一部の大学病院、リハビリテーション、耳鼻科があって積極に取り組んでいる病院以外、殆ど対応出来ていないのが介護、医療の世界の現状です。その理由は簡単です。採算が合わないからです。特に歯科においては無報酬に等しい状態です。
 嚥下の対応は、適応が少ない耳鼻科領域の手術以外その改善方法の中心は訓練、姿勢の改善、食形態変更のアドバイスなどで薬の処方もありません。検査も歯科では保険算定が認められていない内視鏡・造影検査と問診を中心としたスクーリングテストです。近年、摂食機能療法が歯科でも算定可能となりましたが、それは鼻腔栄養、胃瘻増設患者に限定されており、重度になる前の本来対応が必要な患者さんには算定出来ません。
そしてもう一つこの分野を歯科が推し進めるハードルとなるのが、隣接する医科の反応です。現在、摂食嚥下リハビリテーションは歯科医師を中心としたアプローチと耳鼻科、あるいはリハビリテーション科の医師を中心としたアプローチの二つがあります。本来ならば他の疾患でもあるように医科が歯科は口腔内のみと突っぱねるところですが、儲からない中で耳鼻科医の成り手が減少し忙しく手が回りません。それと共に、「摂食・嚥下リハビリテーション学会」の「・」がなくなり「摂食嚥下リハビリテーション学会」に名称を変えたように、嚥下と摂食、咀嚼は一連の動作であり、咀嚼のプロである歯科医師を係わりから排除することは出来ません。咀嚼して嚥下することによって食べることが出来るのです。
もし、嚥下を歯科の領域と社会から認知されれば、歯科診療所が「食べる」ことの社会ステーションと成り得ます。口から食べることへの支援が生きる為、生活を支える源であることが歯科診療所から発信が可能と成ります。したがって報酬的評価は低くても、嚥下に問題ある人が歯科診療所に相談することへの広がり目指し、その実現に向かっての政策を積み重ねる必要があります。先ずは先生方が診療所で「飲み込みは大丈夫ですか」の一言を問える環境作りがその第一歩です。




『この道しかなかった中で』

この原稿を書いている今、衆議院選挙の結果は分かっていません。しかし事前の各マスコミみれば自民党圧勝予測です。選挙は投票箱が閉められるまで何が起こるか分かりませんが、少なくても安倍退陣はなく、任期2年を残しての安倍首相の解散の決断は見事成功となりそうです。
メディアは大義ない解散と騒ぎましたが、今回の安倍首相の解散目的は明確です。日本の経済再生を目指し、自らが提唱したアベノミクスの敢行の為の長期政権への道を切り開くことです。無論、長期政権となってもアベノミクス成功の確定はありません。しかし野党からは、アベノミクスに代わって日本経済再生を可能とする具体的な対案は示されませんでした。マニフェストに踊らされて政権交代を選択したことを悔やむ多くの有権者は、その提示なしで現在の野党にもう投票することは出来ません。また第三極への期待感も、離れたりよりを戻したりの腰の落ち着きのなさを感じ、一時のブームに終わりそうです。となると自民党のキャッチフレーズ「この道しかない」、安倍政権に託すしか今回の選挙では有権者に選択肢がなかったことになります。では長期政権となるこれからの政治情勢を踏まえて、歯科界はどう安倍政権と向き合わなければいけないのでしょうか。
今回の総選挙でのマスコミの世論調査では、有権者は社会保障に対しては経済再生と並び非常に関心をもっていましたが、その政策論戦は殆ど成されませんでした。特に自民党が示した政策は、医療に関してはないも等しいような扱いです。唯一あったのが、既にスタートしている社会保障改革のプログラム法案のスケジュールに則って進めるということです。但しこのプログラム法案の対となす消費税増税が延期となったわけですので、そのスケジュールの変更は必要になってきました。恐らく16年度改定に対しては、これを理由に財務省から厳しい対応を迫られるのは必至です。
この現実の意味するものは、現行の医療制度、水準を是とする考え方がベースにあります。消費税増税、経済再生となって税収が増えたとしても、けっして医療の大幅な拡充が成されるわけではありません。それどころか、もし経済再生と成らなければ医療費はそぎ落とされる可能性もあります。これからは少子高齢化、財政再建を踏まえて、いかにレベルを落とすことなく現行の医療を保つことへの模索が始まります。しかしながら理不尽な政策に対して、責任ある医療人として対応することは当然であり、大きな改善が必要な歯科と、既に一定の医療経営環境を維持している医科とでは立ち位置が異なります。先ずはこの点への内外の理解を求めることがスタートとなります。
選挙終わるのを待って各種医療政策への対応が加速的に進みます。幸いにして政治の世界では現在の歯科医療の現状は理解されつつあり、一つ一つの政策毎の対応スタンスが求められています。果たしてこの道しかなかった中で、歯科界はどう歩みを進めるべきなのでしょうか。歯科界の政策対応能力と政治力の真価が問われています。




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