日本の歯科界を診る(ブログ版)


コラムニスト・鞍立常行が日本の歯科界に直言
by kura0412
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『崩壊が始まっている歯科医療 将来、治療を受けられなくなる地区はどこ? 』

崩壊が始まっている歯科医療 将来、治療を受けられなくなる地区はどこ?

世界に誇れる日本の国民皆保険。歯科医院に行けば当然のごとく保険証を窓口に出し、治療を受ける。予防から義歯、歯周病まで保険治療で出来る範囲は広い。一部の治療(インプラント、セラミックの被せ物など)を除き、患者は均等に高度な歯科医療を受けることができる。保険証1枚あれば安心して受けられる日本の医療。しかし今、歯科ではこの国民皆保険は崩れようとしている。いや、もう一部は崩れている。

実態に合わない歯科治療費
国民皆保険を崩す最も大きな原因が低歯科診療報酬だ。
ほとんどの歯科医の収入は診療報酬によって決まる。治療費の値段だ。患者は診察後、治療費の一部(1~3割分)を窓口で支払う。この窓口負担と保険者の合算が歯科医院の収入となる(自費を除く)。日本はこの歯科診療報酬が極端に低い。
例えば、毎月、歯のクリーニングをした場合、日本ではおよそ700~2400円ほどの治療費だが、米国のニューヨーク州では11400~14760円かかる。抜歯(簡単なもの)は、日本が260~780円なのに対して、ニューヨーク州では18240~27600円だ。毎月の保険料を支払っても日本の歯科治療費は著しく安い。また、日本は口腔に関する相談料は基本的に無料だが、米国では10000円ほどかかる。
当院に来院する米国在住の日本人の患者は、歯の治療をするためだけに帰国する。国民保険は所有していないが、米国の保険に加入して治療費を支払うより、日本で歯科診療報酬の全額を実費で払っても治療費が安くなるからだ。
よく窓口で歯科の治療費が高いと訴える人がいるが、これは医科と比較した認識から出ている。歯科医療費が高く感じるのは、1人あたりの治療時間が長く(医科平均9.5分、歯科平均22.7分)、同時に複数の処置をするためだ。ちなみに医科1分あたりの治療費は歯科の2.8倍だ。総医療費が上がっている中、歯科の総医療費の割合は2001年8.5%から2016年には7.0%まで下がり続けている。歯科治療費は医療費全体から比べてみても高くない。
治療費が安いため成功率が下がる治療もある。その最たるものが歯の根の治療(根幹治療)だ。根管治療は歯科治療のメインの一つであり、一般歯科開業医のこの治療に占めるウエイトは高い。
通常、前歯1本の根管治療をした場合、歯科医院の収入はおよそ4600円だ。
根管治療の技術は飛躍的に進歩しており、使い捨ての器具が多数ある。その材料費だけでも5000円以上かかり、備え付けの器具は200~1000万円と高額なものが多い。
日本の歯科医師は最新治療をするには自腹を切るしかないが、そんな余裕がある歯科医はほとんどいない。旧態依然とした昔の治療しかできない歯科医が多数いる。古い技術しか持てない日本の歯科医師の根管治療の成功率は低く、先進国の90%に対して、日本は50%と低下する。
低歯科診療報酬は歯科医師の貧困を産む。全国では5人に1人が年収250万円以下だ。物価水準が高い東京都でも、32%が年収500万円以下だ。
歯科医師の貧困は赤字となる歯科治療をしなくなる傾向がある。
赤字治療を極力減らし、少しでも収益を良くするためだ。前述の根管治療を筆頭に歯科治療には赤字治療部門がたくさんある。そのため国民保険では正しい治療を受けられない患者もでてきているのが現状だ。
日本で歯科医師が多すぎるというのは本当か?

日本は本当に歯科医師過剰だろうか?
国際的には、OECD諸国の平均は63.6人であり、日本は先進国と比較しても22%ほど多く、OECD諸国中7位と上位だ。政府の人口10万人あたり50人の歯科医が妥当とすると、現状では日本は数値上、過剰ということになる。
しかし結論からいうと、日本は歯科医師過剰国ではない。なぜならこの数値はあくまで全体の数値であって、地域差が考慮されていないからだ。
ここでいう地域差とは、市区町村における歯科医師数の割合である。歯科は疾患によって患者が流動的になることが少ない。簡単に治る虫歯の治療や毎月のクリーニングに、わざわざ遠くの大学病院に行く患者はわずかだ。口腔癌や難しい親知らずの抜歯などで、生活圏の違う医療機関を受診する患者は全体の1割にも満たない。したがって歯科治療を受診する上で指標となるのは日本全体の歯科医師数ではなく、市区町村レベルの歯科医師数の割合となる。

金儲け主義に走らざるを得ない歯科医師たち
関東地区を例にとると、関東地区で一番歯科医師が多い地区は東京都千代田区だ。人口10万人あたりの歯科医師数は3087.6人となり、日本の平均の38倍以上の歯科医師がいる。
これらの地区では、歯科医師は生き残るため様々な過剰サービスを実地している。他院から患者を奪うため、初診患者を紹介したら、自院独自のポイントをつけ優遇したり、若いママさんたちの患者獲得のためベビーシッターを雇用したり、治療中にリフレクトソロジーするなど、本来の歯科治療から逸脱し、歯科医師法に抵触する疑いのあるようなサービスまでが横行している。
このサービスを維持するためには、歯科の低歯科診療報酬では賄えない。そのため、歯科医師は保険治療を敬遠し自費治療に患者を誘導しようと躍起になる。当然前述のような根管治療など極力避けるようになる。この流れは本来の正当な歯科治療を歪めている。
歯科大がある地区では今後さらにサービス過剰となると推測できる。歯科医師が年々増加しているからだ。サービスは市場原理が働く。そのため資金力がある大手の歯科医院が出現し、小口の小歯科医院は淘汰される可能性がある。大手歯科医院はさらなるサービスを展開するだろう。サービス先行となった場合、保険治療は金にならないため蔑ろにさりかねない。都心の住民は金がないと歯科医師に嫌われ満足な治療を受けられなくなるかもしれない。

将来、歯科治療を受けられなくなる地区はどこか?
さらに歯科医師偏在により、深刻な問題が起きる可能性がある地域が出現する。人口が多いが歯科医師数が少ない地区だ。歯科医師は人口が多い地区に集まる傾向がある。人口が多いのに歯科医師数が少ない地区は要注意だ。関東を例にとると、首都圏を含む関東では、人口20万人以上の政令、中核都市、東京特別区が51地区ある。そのうちおよそ半数の25地区が全国平均を下回っている。顕著な地区としては、埼玉県川口市(人口55万8千人)の61.5人、神奈川県相模原市中央区(人口26万人)の53.7人など、OECD諸国の平均より低い。
ここの地区の住民は、通院する歯科医院が多少混んでいる印象があるかもしれないが、歯科医師が不足し、満足に治療を受けられないということはないだろう。しかし、今の状態が続くのは20年後までである。それ以降は政府の歯科医師抑制策が功を奏し、20年後をピークに歯科医師数は減少するからだ。
政府は人口10万人あたり50人を目標に掲げている。達成された場合、現在の歯科医師数より38%少なくなる。現在と今後を比べるには単純ではないだろうが、現在の人口比率で計算すると、川口市は人口あたりの歯科医師数は38.1人、相模原市中央区は33.3人となる。1955年の人口あたりの歯科医師数34.8人と近い値だ。
昔と比べ歯科治療は緻密化、細分化している。精度が高くなった分、1人あたりの歯科治療は長くなっている。1955年当時のような多くの患者を診ることは不可能だ。
歯科医師が政策通り減少すれば、歯科の治療を満足に受けられず、これらの地区から大量の歯科医療難民が発生する可能性がある。もしくは時代に逆行し、雑で荒い歯科治療が横行するだろう。また歯科医師側から受診抑制をかけてくるかもしれない。いずれにしても不利益を被るのは地域住人だ。
現在の日本は、一部の超過密な歯科医師地区によって日本全体の平均をボトムアップしているのに過ぎない。偏在を無くさない限り、歯科医師過剰地区も、不足地区も良い結果は得られない。国民保険で正しい治療を受けるようにするためには、歯科医師の偏在解消が第一だ。

【橋村 威慶:HEALTH PRESS・MRIC医療ガバナンス学会HP】




この指摘に加えて、歯科医療費全体の総額を増やすことも必要です。
by kura0412 | 2016-02-09 09:55 | 歯科 | Comments(0)
ミラーを片手に歯科医師の本音
回想

本紙閉刊に伴いこのコラムも今回で最後となります。平成10年9月から19年間、筆が進まない時もありましたが、締め切りを遅らせることもなく、また大きなトラブルもなく終えることにある意味安堵しております。ただその中で一度だけで校正まで終えながら書き直したことがありました。それはあの「日歯連事件」と称された事件が勃発した時でした。
あの時は一人の開業医でしかない私が、社会事件になるほどの大事件に対して実名で書くことに躊躇しましたが、事件に対していろいろな観点から憤りを感じ、もし問題となれば歯科医師を辞める覚悟をもって書きました。この事件によって日本の歯科界に大きな変化があったことは多くの先生方が感じられたことです。今思えばその内容は別として、あの時書き綴っておいたことが、その後連載を続けられた源になっていたかもしれません。
然るに風化しつつあるあの事件の本質は何だったのか。その手法に対しては司法判断が下った結果が示されていますが、事件の根本には、現在も続く歯科医療に対する公的評価の低さを何とか打開しようと考え方がありました。この点を誰もが分かっているのに言葉に出ていません。但し結果的には中医協委員が1名減員、事件後の懲罰的な18年度改定となり、歯科界の思いとは反対の流れを作ってしまいました。特に改定では、それまでの改定時で、技術料を引き下げながら作った僅かな財源を「かかりつけ歯科医」初再診料に振り分けながらも、「かかりつけ歯科医」を一気に消し去られたことによって、保険点数全体が縮小したと共に、時代の流れである「かかりつけ歯科医」という名称、概念をも否定されることになってしまいました。そして事件によって植え付けられた歯科界の負のイメージは現在も引きずっています。
日本の歯科界は今、大きな分岐点に差し掛かかり、新しい息吹が入る機運も高まっています。但し、この負のイメージを引きずったままでは大きな壁が存在します。あの事件は終わったのでなく、まだ背負っており、それを回顧することで歯科界の課題を改めて見出すことが必要です。
残念ながら現在、日歯、日歯連盟共に入会者、特に若い先生の入会が減少しています。事件の影響、また、入会することへの利点を見出せず、医療環境向上寄与への期待が薄らいでいるからです。個人で個々の臨床現場での対応出来ても、政策を変えるには一つの塊にでなければパワーが発揮できないだけに、この問題は歯科界発展の最大の課題です。その為には、過去の問題となった出来事を背景も含めて改めて見直し、そして新しい目標を示す。それも抽象的でなく、具体的な分かりやすい政策を提示することで歯科界の展望が分かることで推進力の働きとなります。
最後に、本コラムを続けなければ会うことの出来なかった全国の先生方と交流できたことは、私の歯科医師人生としての財産となりました。そして、好き気ままに綴ることを甘受して頂き、連載を許して頂いた歯科時報新社・吉田泰行社長に感謝を述べ終わります。ありがとうございました。
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