『現代世代だけが支える社会保証制度は、見直すべきだ』

「現代世代だけが支える社会保証制度は、見直すべきだ」
森田朗・社会保障・人口問題研究所所長に聞く

日経ビジネス本誌9月14日号特集「あなたに迫る 老後ミゼラブル」では、高齢者が急増し、社会全体の対応が追い付かない中、普通の社会人が転落しかねない日本社会の実態に迫った。未曾有の高齢化が進む中で今後、現役世代はどう生き抜いていけばいいのか。森田朗・国立社会保障・人口問題研究所長に話を聞いた。

森田さんはここのところ、かなり悲観的な予測に基づいた提言をされています。

森田:国立社会保障・人口問題研究所は、客観的な事実から将来をどう読み取れるかについて分析しています。一般的な成長率の予測などに関して言うと、非常に楽観的な予測で語られることが多いですね。暗い将来は考えたくないというお気持ちでそうなるのだと思うんです。
ですので将来をあくまで楽観的に見るんですが、これが、必ずしも現実に即した議論をしていないと思うわけです。
私が言い始めて最近はほかの人も使っていますが、政策が「エビデンスベースド(evidence-based、客観的根拠に基づく)」ではなくて「願望投影型」になっているということなのです。

願望投影型の政策がもたらす国難

願望投影型?

森田:こうありたいという形から逆算していくやり方です。例えば、財政赤字を減らしてプライマリーバランスを黒字化するのを2020年に実現しようとすれば、経済成長率を逆算して3%を見込む。これが典型的なケースです。
今の地方創生の政策も、かくありたいという「思い」が政策に投影されている。衰退した地方の自治体がかつてのように繁栄したいと願い、国から補助金を出してもらって人を呼び寄せ、人口を増やそうと考えています。しかし人口の原理からいうと、大量に海外から移民でもない限り、人口は長期間増えません。
例えば今年20歳の人は125万人ぐらいです。どこかの自治体がこの20歳の人口を増やしたら、別のどこかでその分減るだけの話で、ゼロサムゲームなのです。
東京にはたくさん若者がいるから引き戻そうという議論も出ていますが、そうしたら東京の若い人たちも、これからどんどん減っていくことになります。

確かに最近、首都圏の高齢化が注目され始めています。例えば首都圏の特別養護老人ホームなどの施設整備が、高齢者人口の増えていく規模から考えるといずれ追いつかなくなる。一方で、高齢化はそのペースを超えるスピードで進んでいくと。

森田:私はそのことを数年前から言っているのですが、生まれた時の同世代の数というのは増えることはなく、だんだん減っていきます。当たり前の話ですが。
昔は途中で次第に亡くなり、人口構造が文字通りピラミッド型になったのですが、今は高齢になるまであまり亡くならないから、毎年生まれる子供が少なくなればなるほど、人口ピラミッドの底辺、つまり若年層がすぼんだツボ型になってきます。
2060年に一番多い世代は86歳です。早くたくさん亡くなるか、亡くならないかで推計には中位と低位と高位とあるのですけれど、中位推計で86歳の女性が71万人もいる一方、同じ中位推計で新しく生まれてくる女の子が23万人しかいないという状況です。

45年後ですね。45年後で86歳というと、第2次ベビーブーム世代にあたります。

森田:この間に1人の女性が産む子供の数が増えたとしても、母集団の実数がここまで少なくなってくると、人口は一体どこまで減ってしまうのか、という話です。産む世代の女性の数自体が半分になれば、短期的に増やすのはまず無理でしょう。
出生率がずっと下がってから安定し、その後はうまくすれば上がってくると言うけれど、それは30年~40年先の話になりかねない。なかなか政策的にコントロールできないのが実情です。

確かに現代は以前より結婚しないし、子供を産みません。一方で寿命は延びています。少子化はどんどん進む一方で、人間は、一体何歳まで生きられるようになるんですか。

森田:100歳以上が、2060年ごろになると60万人以上になる感じです。だから鳥取県の人口程度の人数、100歳以上がいることになります。
一方で全人口ですが、現在、1年間の人口減少が30万人程度で、今後急速に増えます。現在でも、2年程度で鳥取県1つ分ぐらいの人口が減っていく計算になります。鳥取県の人口が60万人を切っていますからね。

するとこれから、人口が少なかった頃の日本へと戻っていくのでしょうか。過去の人口はどのぐらいでしたか。

森田:明治時代で3000万人台でした。今の3分の1以下だったんです。人口は、長期的なトレンドとして、いずれにせよ右肩下がりになると考えられます。しかし我々日本人が社会の在り方を考える時に、それにふさわしいプログラムを持ってない。
右肩上がりがベースラインだという発想で、さっき言った願望投影ではないけれど、人口は増えるはず、増やさねばいかんという気持ちが先に立って色々とお金を使っているのが現状ということです。
市町村合併も、農村部の人口が減ってくるから合併しようという話でしたが、国全体が増える見込みはないので、都市と農村で限られた人口を、どう配分するかという問題になっている。今のような首都圏集中状態では、小さな自治体では、基本的な行政サービスが成り立たなくなるところも出てきています。これは、お金がないというのがまず先ですが。

東京に集まる「独身の女性」

若い人が地方に移住したら、出生率も多少は上がっていくのですか。

森田:それはそういう……願望はあるでしょうね(笑)。例えば、2014年の1人の女性が生涯に産む子供の平均数を表す合計特殊出生率(TFR)ですが、東京は1.15で非常に低い。一方で沖縄は1975年以来全国1位でずっと高い(1.86)し、ほかの地方にも宮崎県、島根県など高いところはある。
しかしそもそも、東京は結婚をしていない人が多い。その点を調整して分析してみると、実態は東京も地方もそれほど変わらないのです。
もっと言いますと、独身の女性がたくさん東京に集まってきているのでしょう。それならば、東京の環境を改善して、東京に集まってきた若い女性が東京で子供を産むようにした方が、子供の数は全体として増えるのかもしれません。しかしそうすると、今度は地方が大変になってしまいますね。
東京都の場合、1950年代から1960年ぐらいまでは一斉に人が流入したんですけれど、それ以後1990年代の半ばまでは転出者の方が多いのです。ただ、生まれてくる子供が多かったからほぼプラスマイナスがフラットでした。
その後また入ってくる人の方が多くなって、人口が増えていますけれど、これも間もなくピークになって下がります。東京から出ていく場合は、どこへ出ていったのか?

東京の郊外でしょうか。

森田:そうです。ここは人口がもう増えっ放しだったのです。ということは、東京に入りきれなくなって郊外へ移って来た「団塊の世代」の人たちが、これから高齢化してくるのです。
高齢化「率」でいうと実感がわかないのですが、「数」でいうと東京、神奈川、千葉、埼玉の首都圏だけでも全部足し合わせるとすごい人数になる。その事態をどうしますかという話です。
東京都はお金があるから、伊豆方面などの入所者が減ってきた施設に行ってもらう、あるいは自分たちで施設を建てたり、地元の施設を援助したり買い取ったりする形で場所を確保できるのかもしれませんが、首都圏全体で必要な施設やサービスを確保するのは難しい。
そこでもう1つの発想は、米国発のCCRC(Continuing Care Retirement Community)というコミュニティです。CCRCは現在、石川県金沢市、栃木県那須塩原市などに既にあります。
高齢者の人たちが地方に住んで、そこでコミュニティを作る試みです。寝たきりになって施設に行くのではなく、50代の後半~60代ぐらいの早めにリタイアした人たちが元気な時に移って、元気なうちに新しい生活を始める。病院などケア施設も整っているので、介護が必要になればそこで介護を受ける。
介護が必要になってから地方に行くのでは、「うば捨て山」になってしまう。そうではなく、介護が必要になる前に、余力がある人たちが移るのです。
米国の場合には地方で、経営が苦しくなった大学などとタイアップして、キャンパスの中に施設をつくると同時に大学の講義を聴けるようにしたり、介護のサービスを付けたりする場所もある。日本もそういう施設を増やしましょうという話が進められています。

元気なうちの地方移住は、職業探しがネック

ということは、早めに、40代~50代でそうしたコミュニティへの移住というのが本当はベストですか。

森田:それも1つの選択肢です。ただし生活をどうするか。CCRCは、生活費のある部分は年金が手当てできる前提で、今までの蓄えと、地方のささやかな収入源があればほどほどの生活ができるという設定です。
しかし40代では年金はもらえませんので、移住先でしっかりとした稼げる仕事がないと当然ながら成り立ちません。

う~ん、これからも社会保障を支え続ける現役世代にはあまり救いがありませんね…。

森田:高齢社会の最大の要因は、医療の進歩によって、高齢で病気になっても長生きできるようになったことです。ただし完全には治らない。治すのではなく、病気をコントロールしていく。

医療費、介護費、年金が連動して増幅
ということはずっと医療費が掛かり続けるわけです。心身に支障が出てきたら介護が必要になりますし、生存中は年金を受け取ることができる。これらが高齢化によって連動して増加することが社会保障の負担増として、近年、問題にされているのです。
不必要な延命治療の是非や健康寿命を延ばそうという考え方なども、そうしたところから出てきている議論だと思いますが、最善の医療技術を尽くせば死なないのなら、その限りで長生きをすべきだというのが、これまでのわが国の考え方です。

では、どうすればよいのでしょう。

森田:とても難しい問題ですが、現在の年金や医療制度は非常に複雑な仕組みです。私は、この制度を改革して、できるだけムダを減らし効率化する。その努力にまず取り組むべきだと思います。
それとともに、人生とはどういうものか、とくにその終末の在り方について、近年の医療技術の急速な進歩なども踏まえたうえで、国民全体で深く議論し、価値観、考え方自体を見直す必要があるのではないでしょうか。
さらに、それでも発生する大きな負担について、その担い方も変えるべきと思っています。今は、若い世代の人たちの肩に、巨額の負担を負わせているのですから。

30年後に生まれる子供たちにツケ

実際、金融資産を最も保有しているのは高齢世代で、巨額の預貯金を残したまま亡くなるケースも多いと聞きます。

森田:中には、生命保険も掛けていたのを忘れたような人がそのまま亡くなっていくわけです。一方でそういう人たちの社会保障を、若い世代に負担させている。
既に18歳以上の人たちは選挙権がありますが、今は0歳どころか、まだ生まれていないマイナス20歳、マイナス30歳の人にまでつけを回している。これはいつまで持つんですか、という話になってくる。
そういう文脈で言えば、高齢者福祉に関してはもう、できる限り世代内での再配分で解決すべきでしょう。若い人には、可能な限り借金を回さない。そういう仕組みでいかないと、持続可能にならない。
例えば、東京・港区あたりに200坪ぐらいの土地を持っていて、ほかに収入のない一人暮らしの高齢者の人が年金をもらっているとする。年金で収入が月数万円だったら、これは低所得者層に位置付けられるわけですが、こういう低所得者層ならば不動産を売りなさいという仕組みにするとか。
普通の人が貧しくなったら、不動産を売ることを考えるでしょう。売ったらいっぺんにリッチになりますが、逆にそうしない限りはずっと、いろいろな負担が軽くなってしまう。

マイナンバーの活用が解決策の1つ

そもそも資産状況を把握できていないからそういうことが起こっているのですね。

森田:そういうことです。マイナンバーが導入されたとしても、収入、フローの把握はできますけれど、資産を捕捉しようと思ったら、民間の金融機関、銀行の口座に番号を入れて、名寄せをして、きちっと資産を掌握しなければいけません。
格差を研究しているフランス人経済学者のトマ・ピケティではありませんが、日本では高齢の「持てる者」に資産課税をすることも考えなければならないかもしれません。
課税の原則からは資産課税はあまりよくないと、昔の経済学は教えていたようです。しかし、現状では負担できる人に負担してもらうことを考えるべきでしょう。

すると、資産課税などを通じて同世代内で再配分という結論が、一番理にかなっていると森田さんはお考えなんですね。

森田:そうです。世代内再配分が必要なのであって、世代間の再配分をこれ以上増やすのはやめようということです。そうでないと、若い人がかわいそうどころか、もう社会が持続できなくなるでしょうから。
そう遠からずこの世からいなくなってしまう人はいいのかもしれませんけれど、まだこれから先30年、40年、この日本で生き社会を支えなければならない人は本当に大変です。30年後、40年後にそれがさらに悲惨なことになりかねない。

そうなる前に、まずはマイナンバーをきちんと導入すべきと。

森田:マイナンバーを導入しても、すぐに問題が解決するわけではありません。しかし、水面下の見えない部分をしっかり可視化して、客観的に把握することが大事です。それができて初めて、公正で効率的でしかも透明度の高い社会保障が可能になると思います。

【日経ビジネス】
by kura0412 | 2015-09-14 17:48 | 医療政策全般 | Comments(0)

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