『日本老年学会が高齢者の定義見直しに関する声明』

日本老年学会が高齢者の定義見直しに関する声明
今年度内に正式発表

日本では高齢者を多くの先進国同様「65歳以上」と定義している。日本で行われてきた各種調査研究から,高齢者の生物学的年齢の「若返り」が進んでいるとの知見を踏まえ,日本老年学会は日本老年医学会と共同で今年度内をめどに高齢者の定義見直しに関する声明を取りまとめる。本日(6月12日)の第29回日本老年学会総会合同大会(同日〜6月14日,横浜市,会長=東京都健康長寿センター理事長・井藤英喜氏)のシンポジウムで,日本老年学会理事長の甲斐一郎氏が明らかにした。

「現在の高齢者は10~20年前に比べて5~10歳は若返っている」
日本では,現在65~74歳を「前期高齢者」,75~89歳を「後期高齢者」,90歳以上を「超高齢者」と定義している。日本の人口構造が劇的に変わる中,1990年には1人の高齢者を5.1人の生産人口(20~64歳)で支えていたところが現在(2012年)は2.4人,2060年には1.2人で支えるようになると予測。増える「高齢者」の実態を分析し,社会状況の変化に応じた在り方の見直しが喫緊の課題となっている。

日本老年学会は「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ」(WG,座長:甲斐氏,日本老年医学会理事長・大内尉義氏)を設置。大内氏はシンポジウムの中で「高齢者の定義見直しには,ネガティブなイメージの“高齢者”を社会の支え手としてモチベーションを持った存在と捉えポジティブなイメージに変える意義の他,社会の支え手を増やし,明るく活気のある高齢社会を築くといった意義もある」と説明。一方,高齢者の社会参画を進めるに当たり「高齢者の身体能力の改善は未来永劫続くのか」「社会保障政策への影響」といった点についても議論や検討が必要との見解を示した。
WGでは,高齢者の定義見直しの基礎資料となる国民の意識調査や疾病構造,身体・心理・社会機能の変化に関する検討を重ねてきた。現時点で示された声明の要旨は次の通り。声明の内容は昨日の同学会理事会で了承され,今年度末をめどに最終的な取りまとめが行われる見通し。

日本老年学会からの声明
最新の科学データでは,高齢者の身体機能や知的能力は年々若返る傾向にあり,現在の高齢者は10~20年前に比べて5~10歳は若返っていると想定される。個人差はあるものの,高齢者には十分,社会活動を営む能力がある人もおり,このような人々が就労やボランティア活動など社会参加できる社会をつくることが今後の超高齢社会を活力あるものにするために大切である。

国民の意識調査による高齢者は「70歳」
シンポジウムではWGの委員らが,これまでの検討で得られた知見を紹介した。荒井秀典氏(国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター長)によると,昨年(2014年)12月に実施された内閣府の高齢者に関する意識調査では「70歳から」を高齢者と自覚,あるいはその年齢に達していなくてもそう捉える人が増加。過去17年間の同調査結果の推移を見ると「何歳からを高齢者とすべきか」の年齢が上昇していたことが分かった。

慢性疾患による受療率,死亡率の解析から「生物学的年齢の低下が示唆」
秋下雅弘氏(東京大学附属病院老年病科教授)らは,患者調査などの解析を実施。65~79歳の年齢層の脳血管疾患や骨折,肺炎といった慢性疾患の受療率が1995年から徐々に低下しており,受療率低下に影響するこれらの疾患による死亡率や要介護認定率も同様に低下していたと報告した。同氏は「高齢者の健康状態の改善,そして疾患によっては患者層がより高齢期に移行していることから5~10歳の生物学的年齢の低下が示唆される」と考察した。

高齢者の「若返り」で生活機能評価も変化
東京都老人総合研究所の「中年からの老化予防・総合的長期追跡研究(TMIG-LISA)」や国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NIL-LSA)といった各種検討から,歩行速度や血液検査所見などで示される高齢者の健康度や身体機能は過去にくらべ顕著に高まっている,と指摘したのは鈴木隆雄氏(国立長寿医療研究センター研究所)。こうした変化を受け,1986年に開発された高齢者の生活機能の評価ツール「老健式活動能力指標」は最近見直された。同指標と同氏らが2013年に開発した「新活動能力指標(JST版)」の評価項目を比べると,過去と現在の高齢者の能力の差は一目瞭然だ。新しい評価スケールには,項目が増えただけでなく,DVDプレーヤーの操作や携帯のメールや,詐欺やひったくりに関する質問も盛り込まれている。いずれも時代を反映する項目だが,同氏によるとすべて妥当性の評価を経て組み込まれている。

心理的機能や歯数の評価からも,老化の遅れ示す変化
この他,NILS-LSAなどの解析結果から「最近の70歳代はかつての50~60歳代に匹敵するほど,心理的な老化の発現が遅くなっている」(内藤佳津雄氏,日本大学文理学部心理学科教授)との成績や,「咀嚼機能に必要な20本の歯数を維持する年齢は徐々に向上し,昭和時代の65歳の歯数は今や80歳前後に相当する。歯数を前提にすれば高齢者の定義は変わる」(那須郁夫氏,日本大学松歯学部教授)などの知見も報告された。

若返った高齢者は「生涯現役」であるべきか
高齢者の「若返り」のエビデンスが次々と示され,明るく活気ある高齢社会への機運が盛り上がりそうな中「“元気で長生きの高齢者”が社会参画し続けるべきか」にあえて疑問を投げかけたのは,古谷野亘氏(聖学院大学人間福祉学部教授)。以前は「老人」だった言葉が「高齢者」に取って替わり,年齢による線引きを導入せざるを得なくなったと指摘した。身体・認知機能の加齢変化を遅らせる意義に異論はないものの,例えば高齢者の就業継続が若年者の就業や高齢者自身の生き方の多様性などに与える影響も考慮すべきとの問題を提起。「社会生活の加齢変化は,遅らせるのが望ましいとは限らない」との考えを示した。

【MT Pro】


予てから私も早期に見直す必要があると考えていました。那須先生の報告は非常に興味深いものがあります。この結果は、医療だけでなく社会全般に大きな影響を及ぼしそうです。
by kura0412 | 2015-06-16 09:16 | 医療全般 | Comments(0)