内閣改造論評二題

安倍改造内閣/長期政権への布石だが

たくさんの内閣改造・党役員人事をこれまで見てきたが、こんどの安倍改造内閣にはまず驚きが先にきた。筆者のように政治の表も裏もいやになるほど見続けてきた者は、人事の裏に隠されている意味(それは先行きの政局を示唆する貴重なメッセージでもあるのだが)をまず探ろうとする。政治的芸術作品としては一級品である。細部に至るまですべてのことが2020年東京五輪をまたぐ安倍長期政権への布石となっている。

大きな出来事は幹事長交代である。
来年秋の総裁選で無投票再選をめざしている安倍首相にとって、ライバル石破茂がこれ以上力をつけることは避けたかった。二人はほとんど満足な会話ができないほど相性が合わない。互いに嫌いなのだ。しかし無役にして野に放つと反安倍グループを結集しかねない。閣内に取り込んで首相と閣僚という上下関係に置いてしまえば、総裁選出馬どころではなくなるだろうというのが、安倍サイドの読みだった。石破が安保法制化担当相を蹴ったとき、官邸では担当記者たちまでもが「石破を干し上げろ」と息巻いていた。
石破を"落とした"のは安倍の右腕であり、かつ石破とも悪くない「官房長官の菅義偉」(石破陣営)だった。幹事長室へぶらりと立ち寄ったという風情で菅はこう言い放った。「いろいろあるけど、なんだかんだ言ったって次は石破ちゃん、あんたしかいないんだから」。当選回数は9回の石破と6回の菅。年齢がはるかに上の菅の一言に、石破は「組織人として総裁の命に服すのは当然のこと」。菅が提示した地方創生担当相をその場で飲んだ。これについて石破の側近の山本有二は当惑顔でこう述べている。「石破さんは来年の総裁選には出ません。出る気なら(入閣を)受けるはずがない」。周りの議員たちを落胆させたこんどの内閣改造で、石破は戦略の練り直しを迫られている。
谷垣禎一幹事長、二階俊博総務会長。この人事に驚嘆した読者がいれば、その人は日本の政治事情にかなり精通している。
人柄の良さでは谷垣は政界一だろう。その谷垣が総理になれない総裁のままその座から退いた。野党時代の自民党が大きく分裂せずにきたのは、谷垣総裁の人徳によるものだとだれもが認めている。石破のあとを谷垣にすれば党内はまとまる。サプライズ人事で改造全体の評価も高まるかもしれない。そして中国に人脈を持つ谷垣と二階の起用は何よりも中国へ関係改善へのシグナルを送ることになる。
この読みはすべて当たった。二階を起用することで、引退後も政界に影響力を持つ森喜朗、青木幹雄、古賀誠を同時に味方につけてしまった。志帥会(二階派)の事務所は平河町の砂防会館にあり、森、青木、古賀の事務所も同じ建物の中にある。この4者が結託すれば内閣を吹き飛ばしかねないほどの不気味な存在なのだ。

人事はうまくいった。しかし喜んでいるのは安倍周辺と入閣した人たちだけで、怒っている人、怨(うら)んでいる人の数は何倍も多い。
入閣待機組は60人ほどいたが、入ったのは7人。野党時代の3年、安倍政権になって1年8カ月、5年近くも待たされて。またも無念の涙とあっては怒りもわかるような気がする。この怒りは政権に対する不満となって、たまり続けるだろう。何かきっかけがあれば、爆発するかもしれない。対世論ということでは安倍政権はうまく行っているが、党内掌握には問題が残ったということだろう。

では安倍政権、不安はないのか。もちろんある。最大の不安は経済である。
米国の金融緩和政策の終焉(しゅうえん)を織り込み、ドル買い円売りの傾向が続き、ついに1ドル105円台をつけた。円安は日本経済にとって朗報という感覚がまだ残っているが、とんでもない。110円に近づけば日本経済は大混乱に陥る。円安でも輸出は伸びず、エネルギー価格が跳ね上がるだけなのだ。これに広島をはじめとした全国的な洪水被害などによる消費の落ち込みなどを考えると、かなり深刻だ。さればと消費税10%への引き上げを見送ろうとするなら、日本は世界の市場で完全に孤立することになる。アベノミクスも安倍政権の支持率もおそらく、いまがピークなのではないだろうか。(敬称略)

【田勢康弘・愛しき日本】




安倍首相の改造内閣、党内人事は「優れモノ」

9月3日の内閣改造・自民党役員人事直後に実施されたマスコミ各社の世論調査は興味深い。『毎日新聞』(9月3~4日実施)の内閣支持率は前回比プラスマイナス0の47%、共同通信(同)が前回比プラス5.1ポイントの54.9%、『読売新聞』(同)は前回比13ポイント増の64%、そして『日本経済新聞』(同)が前回比11ポイント増の60%である。

それなりに好感をもって迎えられた新内閣
内閣支持率の世論調査では、安倍晋三政権発足以降の傾向として『朝日新聞』、『毎日新聞』、時事通信は低めの数字が出て、『読売新聞』、『日本経済新聞』、『産経新聞』が高めの数字が出る。安倍政権へのスタンスの違いと言えよう。
8日に発表されるNHKの調査結果は恐らく共同通信調査に近いものになり、『朝日』のそれは『毎日』調査のように50%をクリアしないのではないか。
長年、永田町ウォッチングをしてきた筆者の相場観で言えば、内閣支持率の実相は50%台半ばから後半というところだろう。谷垣禎一前法相を自民党幹事長に起用したサプライズ人事、石破茂前幹事長が地方創生相で入閣、そして小渕優子経済産業相ら過去最多の女性閣僚5人ーーなどが国民にそれなりに好感を持って迎えられたということではないか。
だが、プロ筋の見方は少し違う。
自民党の新執行部は高村正彦副総裁(当選11回・無派閥)、谷垣幹事長(11回・谷垣グループ)、二階俊博総務会長(10回・二階派)、稲田朋美政調会長(3回・町村派)、茂木敏充選対委員長(7回・額賀派)といった陣立てである。
自民党内ではリベラルで知られ、消費税再増税論者である谷垣氏を、総裁を支える幹事長に起用したことは安倍氏のウィングが左に広がったということだ。これによって安倍政権が「中道保守」に転じたとは言わないが、少なくとも欧米のメディアが安倍政権を「超保守」とか「極右」と批判してきたことをかわすことができる。
加えて、可能性は低いが、仮に安倍首相が12月の消費税再増税決断を見送るにしても、谷垣幹事長は従わざるを得ない。
二階総務会長人事も巧妙である。安倍首相と麻生太郎副総理・財務相は旧経世会(竹下派)の流れを汲む二階氏とは肌合が違うとされたが、敢えて党三役に起用したのは、同氏が山口那津男代表や北側一雄ら公明党幹部と太いパイプを有していることと、中国共産党指導部へのアクセスを持っていることを配慮したためだ。
一方、安倍首相の保守思想に共鳴する稲田政調会長については、党内に不満と妬みを巻き起こしたが、「保守の星」として小渕経済産業相と競わせて育てていくという意向の現われである。

自民党内人事も含めて、プロから見れば「優れモノ」
一言でいえば、2期6年の長期政権を意識した自民党執行部人事であり、内閣改造であった。
安倍官邸の最優先課題は、来年9月の自民党総裁選で無投票・再選されることである。そのために、石破茂前幹事長を地方創生相として閣内に封じ込め、谷垣前法相を幹事長に取り込んだのだ。たとえ反安倍勢力が石破、谷垣両氏を「ポスト安倍」の受け皿に据えようとしても、来年9月までは身動きできない。
党内第2派閥の額賀派(平成研究会)に今なお影響力を持つ青木幹雄元官房長官にとって、同派から小渕経済産業相と竹下亘復興相、そして茂木選対委員長が誕生したのは「満額回答」と言えるだろう。
だが、ここにも巧妙な罠が隠されている。原発再稼働である。10日にも原子力規制委員会は九州電力川内原発に対し「再稼働合格」を通知する。小渕経産相は来年1月頃の再稼働を前に、今後全国の電力各社の原発所在地を訪ね、地元自治体首長や住民に再稼働を説得しなければならない。しんどい仕事を負わされたのだ。
このようにプロの目から見ると、今回の内閣改造と自民党役員人事は“優れモノ”なのだ。安倍首相を侮ってはならない。新聞各紙(4日付朝刊)の解説を読むと、衆院解散・総選挙の可能性は遠のいたという点で一致していた。が、筆者は依然として年内の、しかも早期の衆院解散はあり得るとの見方を変えていない。

【歳川隆雄・ニュースの深層】
by kura0412 | 2014-09-08 16:42 | 政治 | Comments(0)

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