成長戦略が手詰まり状態なら

成長戦略の手詰まり映す「経済政策パッケージ」

2020年夏季五輪の東京開催を勝ち取り、アベノミクスの「第4の矢」だと勢いに乗る首相の安倍晋三。そのカゲで実は手詰まり感が漂うのが「第3の矢」となるべき経済産業省主導の成長戦略だ。安倍が14年4月から消費税率を8%に引き上げる決断に向かう大詰めで、政権内部では不協和音も目立ってきた。

■短期対策と中長期戦略の両にらみ
10日の閣僚懇談会。安倍が副総理・財務相の麻生太郎と経済財政・再生相の甘利明に下した「経済政策パッケージ」策定の指示は一見、分かりにくかった。
「成長の果実を全国津々浦々にお届けするため、成長戦略を含めた施策を、経済政策パッケージとして9月末をメドに取りまとめてもらいたい」「消費税率を引き上げる場合には、経済への影響もあるため十分な対応策が必要だ。景気を腰折れさせてはならない。10月上旬に判断する際には、デフレ脱却・経済再生と財政再建の両立への道筋が確かなものか、しっかりと見極め判断したい」
安倍は前段で「成長」を強調し、成長戦略の肉付けを求めた。
後段では増税の景気下押し圧力に備え、短期的な経済対策の必要性にも触れた。約0.5%まで落ちたといわれる潜在成長率の底上げを目指し、中長期的視点に立つ成長戦略。増税に向けた目の前の経済対策。「二兎(にと)を追う」指示だった。
短期と中長期の両にらみは、14年4月の消費税率8%への引き上げに加え、15年10月の10%への増税まで念頭に置くからだ。
2段階増税は安倍の長期政権戦略と深く絡む。15年9月に自民党総裁選がある。16年夏に参院選が控え、衆参同日選挙も視野に入れる。そこまでどう乗り切るかを見据えた経済財政政策の「道筋」を示したい。それが新パッケージに込める思惑だ。
「首相が増税を決断した事実はない。増税には様々な考え方や意見がある。経済政策パッケージを含め、それらが上がってきた時点で総合的に判断する」官房長官の菅義偉は12日の記者会見で、こう強調した。
政策当局が成長戦略と経済対策を包含した新パッケージを、安倍の意向通りに9月中に忠実に詰めるかどうか。増税の是非は、それも「査定」したうえで最終決断する、とクギを刺した形だ。

首相官邸や甘利が統括する日本経済再生本部では経産官僚の登用が目立ち、発言力を増している。
デフレ脱却を重視し、増税の悪影響を危ぶむ安倍の意を酌む形で、13年度補正予算の大型化や成長戦略の加速の旗を振る経産省。
財務省も最大5兆円規模の補正は覚悟する。ただ、短期と中長期が混線した「火事場便乗型」の財政支出拡大を嫌い、両省のバトルが激化した。
成長戦略は参院選前の6月14日、A4判で94ページもの「日本再興戦略」として閣議決定済みだ。ただ、安倍はこの時、証券市場から踏み込み不足だと厳しい評価を受けた経緯がある。

■目玉法案乏しい臨時国会
場面を6月5日に巻き戻す。
安倍は内外情勢調査会での演説で、成長戦略の概要を自ら明らかにして「『女性の活躍』『世界で勝つ』『民間活力の爆発』。これで成長戦略の3本柱がそろう。
いよいよ、行動の時だ」と即時実行の決意を宣言した。ところが、この演説の最中から日経平均株価が急落し始めた。7日にかけて一時1万2千円台まで下落し、官邸は震え上がった。

安倍は急きょ7日の日本経済新聞のインタビューで「成長戦略はこれで終わりではない」と民間の設備投資を促す法人税減税を新たに表明。秋の臨時国会は「成長戦略実行国会」にすると宣言した。
同日から年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用計画も変更し、国内債券の比率を下げ、国内株式の比率を上げると発表するなど、なりふり構わず手を打った。
成長戦略を秋まで「延長戦」に持ち込み、7月の参院選も勝ちきった格好の安倍。ただ、10月召集の臨時国会に出す成長戦略の関連法案は、今のところ事業再編を促す産業競争力強化法案や「国家戦略特区」を推進するための法案などにとどまり、目玉商品に乏しい。

「民間投資促進のため思い切った税制措置を講じるべきだ。経済を成長軌道に乗せる、起爆力のあるものにしたい。与党、そして政府・財政当局もしっかり危機感を共有し、思い切った政策を進めなければいけない」
9月2日、官邸での産業競争力会議。安倍は設備投資拡大へ「思い切った税制措置」を唱え、「財政当局」と財務省を名指しして対応を迫った。
民間議員で慶大教授の竹中平蔵は「消費税増税の痛みを和らげるため、経済界には賃上げを求める。代わりに企業負担を減らす法人税の実効税率引き下げに踏み込む腹ではないか」と受け止めた。
実効税率下げには「日本のビジネス環境が好転したという分かりやすいシグナルを世界に送る」(竹中)狙いもある。甘利や安倍に近い自民党政調会長代理の塩崎恭久らも論陣を張る。ただ、麻生は「中小企業なら補助金や償却減税の方が即効性がある」と疑問視。党税制調査会にも「消費税を上げて法人税を下げれば、世論の反発を受ける」「恒久的な税収減をどう補うつもりか」と慎重論が根強い。

■財政頼み、規制改革は影薄く
経済再生本部の経産官僚が11日、厚生労働省に足を運んだ。証券市場の活性化もにらみ、公的年金の積立金運用のさらなる見直しで協力を求めるためだった。
ここでも「延長戦」が続く。
専ら他省に切り込む経産省とその後ろ盾の官邸に、ある経団連副会長は「電力の安定供給と料金引き下げこそ、最大の成長戦略だ」と原子力発電所の再稼働などへの取り組みを求める。
安倍が「成長戦略の一丁目一番地」と呼んだ規制改革も影が薄い。
規制改革会議は農地規制の見直し、混合診療の対象範囲の拡大、介護・保育への株式会社の参入拡大を「最優先案件」として詰めを急ぐ。それでも「年内をメドに意見を公表する」段取りが精いっぱいだ。「なぜ財政に頼らない成長戦略が一向に出てこないのか」。財務省から嘆息が漏れてくる。=敬称略

【日経新聞】



もしこの記事にあるように成長戦略が手詰まり状態に陥っているとするならば、医療にも大きなメスが入る可能性が更に強くなるかもしれません。特に特区構想は言ったもの勝ちになるような予感がします。
安倍首相はやるといったことは中途半端には終わらせない政治家です。
by kura0412 | 2013-09-17 15:39 | 経済

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by kura0412