コラムニスト・鞍立常行が日本の歯科界に直言
by kura0412
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ミラー片手に歯科医師の本音
『口腔健康管理とかかりつけ歯科医』

今回の改定を医療全体的にみると三つの注目すべき特徴がありました。一つは伸び続けていた調剤には厳しい結果となったこと。7対1の入院基本料の要件の厳格化。そして改定の中で「かかりつけ」という概念が明確に組みこまれまれました。
「かかりつけ」に関しては医師、薬剤師に加え歯科でも導入されていますが、「かかりつけ歯科医」はあくまでも「保険用語に一つ」というイメージがあります。しかしながら医科、薬科ではこの「かかりつけ」を軸に医療体制の新しいイメージを描きつつ、今後の政策を積み重ねる意気込みを感じます。そこにあるのは、地域包括ケアの推進がベースにあっての考えです。例えば、今回の改定では紹介状のない大病院の初診・再診料自己負担は大幅なアップとなりました。また、調剤の方ではかかりつけ薬剤師指導料算定をきっかけに、患者とのコミニュケーションを密に図ろうとする試みを目指します。
一方、医療政策として改定と対をなす基金は、歯科医療の環境整備にも益々重要な意味を持ちます。ただ、今回改定の中でも可能性の秘めた項目としていくつか点数化は見られましたが、基金が改定とリンクすることなく、独立しての事業になっている印象は拭えません。限られた予算の中でのやり繰りです。W改定に向けての改定と基金との相乗効果を目指す為の戦略と、それに沿った事業の立案が必要となってきます。
包括ケアを視野に入れての「かかりつけ歯科医」でポイントとなるのが口腔ケアです。その有用性は医科からも視線が注がれています。然るに、口腔ケアという言葉が、ブラッシングのみの狭義に捉えられている現状があり、本来の口腔ケアの意味する嚥下機能も含めた口腔全体を管理する視点の広がりが不足しています。その観点からみると、今回日本歯科医学会が「口腔健康管理」と称した新たな口腔ケアの概念の提唱は機知を得た提案です。摂食機能療法などを加えた従来の歯科治療を「口腔機能管理」、歯石除去、PTCなど歯科衛生士の実施するエリアを「口腔衛生管理」、そして一般の方が実施する口腔清拭、食事介助などを「口腔ケア(狭義)」として、この三点を総じて「口腔健康管理」としました。
広義の口腔ケアとして定義する考えは、真の意味での「かかりつけ歯科医」が目指す所です。既にW改定に向けての作業が進む中で、この概念を一日も早く歯科界内部で意見の確認をしながら、国民への認知を広めなければなりません。
日医はかかりつけ医機能研修制度を創設し、独自の「かかりつけ医」というものを推し進めようしています。そしてその講習の中に「かかりつけ医の摂食嚥下障害」のメニューも組み込まれています。また、地域包括ケアに向けた「かかりつけ連携手帳」の作成に着手し、そのスピードは目を見張るものがあります。『かかりつけ歯科医』、『口腔健康管理』、『摂食嚥下障害』のキーワードは、地域包括ケアの中で育ちそうな芽であることは間違いありません。残す課題は、地域包括ケアを主導する日医、地区医師会との更なる連携の強化と事業実現に向けてのスピードを加速させることです。




『食べる=生きる』

地方消滅で日本の少子化高齢化に対して大きな警笛を鳴らした日本創成会議が「高齢者の終末医療を考える」と称したシンポジュウムを先日開催しました。その議論を聞くに、地方消滅と終末医療?そんな一見結びつかない二つが、これからの日本の大きな課題となっています。それと共に、改めて人の死という死生観を医療分野の一角に位置する歯科医師として、見つめ直す時期が今あるものと感じます。
高齢化になって、いわゆる寝たきり老人に対していろいろな考え方が示され、特に胃瘻の是非については大きな意見が分かれるところです。欧米においては日本で常習化している高齢者、寝たきり老人への適応が少ないとのこと。この点に関しては中医協でも前回の改定では、嚥下検査の有無によって評価を変えるという対応がなされ、また今回の改定での議論では、その経過の調査結果も示されています。しかしその一方、この問題が話題になって、胃瘻によって日常生活が暮らせるレベルになる患者さんまで拒否するような実例があり、医療現場その対応に苦慮する場面が多々見られる話も聞きます。
この問題は、医療、介護費増大から語られることが多かったのですが、タブー視されていた死に対する考え方が社会問題の遡上に挙がっていることは、大きな時代の変化として捉えられます。そして、食べることは従来から歯科界も提唱するように、単に延命だけが目的ではありません。生きていることの喜びを感じる、人間としての尊厳に係わる重要な日常生活の一つなのです。
医療関係者以外でも「食べる=生きる」を唱える人がいます。「食べることは、呼吸と等しく、いのちの仕組みに組み込まれているもの。」とは、料理研究家・辰巳芳子氏が唱えている私の好きな一文です。そして欧米での判断基準となる「食べる」ことの有無が延命治療の是非判断の基準となる考え方は、経済問題を抜きにしてもその専門家集団である歯科界の属するものが改めて真摯に議論し、一つの考え方を社会に示す責務があると考えます。
然るに、だかからといって歯科界が社会の先頭に立って、自らが死生観の変更を訴える必要はありません。これは社会全体で既にうごめく潮流であり、歯科界はあくまでもこの分野に特化した専門家として食べることの重要性、必要性を改めて世に唱え、それを臨床の場で実践を積み重ねれば良いのです。果たしてこれをも医科が歯科から奪い取り、領域拡大を目指すのでしょうか。
この死生観の議論の推移を見守ると共に、食べることへの支援を更に強める為に、摂食嚥下への歯科領域からの積極的なアプローチが必要となってきています。何故ならば、咀嚼と嚥下は対となって多くの結果を導き出すことが立証され、食べることを特化した専門家としての医療人としては、現状のままでは取り組みが不十分だからです。歯科医療は新たなる視点をもって社会に貢献する時代の到来です。あとはそれを導き、フォローする具体的な政策を積みかさねることです。歯科医療は真の意味での生きる喜びを支援する世界を導きます。



『飲み込みは大丈夫ですか』

基金における事業が一つのきっかけとなって、在宅診療、医療連携が新たな展開に進み始めています。それぞれの医療環境の実情を踏まえて、地域独自の取り組むこの基金を利しての新たな事業は、診療報酬と対になるこれからの歯科医療全体へ大きく波及する政策です。そしてこの基金は、来年度において今年度予算規模に介護関係が上乗せされる計画となっており、医療介護の垣根を越えた地域包括ケアシステム構築としての発想が必要となっています。
歯科における在宅診療の中心は、従来の診療所における診療の延長としての義歯調整から始まり、口腔ケアの対応へと進んでいます。口腔ケアの効果は、既に誤嚥性肺炎予防という観点から医科の関係者は元より介護関係者にも認知されています。それに加えてここきてスポットライトが浴びているのが、今回の基金でもいくつかの地域で事業が計画される摂食嚥下の分野です。
しかしながら、介護保険の認定審査項目にも「えん下」という項目がありながら、実際に摂食嚥下の対応は、一部の大学病院、リハビリテーション、耳鼻科があって積極に取り組んでいる病院以外、殆ど対応出来ていないのが介護、医療の世界の現状です。その理由は簡単です。採算が合わないからです。特に歯科においては無報酬に等しい状態です。
 嚥下の対応は、適応が少ない耳鼻科領域の手術以外その改善方法の中心は訓練、姿勢の改善、食形態変更のアドバイスなどで薬の処方もありません。検査も歯科では保険算定が認められていない内視鏡・造影検査と問診を中心としたスクーリングテストです。近年、摂食機能療法が歯科でも算定可能となりましたが、それは鼻腔栄養、胃瘻増設患者に限定されており、重度になる前の本来対応が必要な患者さんには算定出来ません。
そしてもう一つこの分野を歯科が推し進めるハードルとなるのが、隣接する医科の反応です。現在、摂食嚥下リハビリテーションは歯科医師を中心としたアプローチと耳鼻科、あるいはリハビリテーション科の医師を中心としたアプローチの二つがあります。本来ならば他の疾患でもあるように医科が歯科は口腔内のみと突っぱねるところですが、儲からない中で耳鼻科医の成り手が減少し忙しく手が回りません。それと共に、「摂食・嚥下リハビリテーション学会」の「・」がなくなり「摂食嚥下リハビリテーション学会」に名称を変えたように、嚥下と摂食、咀嚼は一連の動作であり、咀嚼のプロである歯科医師を係わりから排除することは出来ません。咀嚼して嚥下することによって食べることが出来るのです。
もし、嚥下を歯科の領域と社会から認知されれば、歯科診療所が「食べる」ことの社会ステーションと成り得ます。口から食べることへの支援が生きる為、生活を支える源であることが歯科診療所から発信が可能と成ります。したがって報酬的評価は低くても、嚥下に問題ある人が歯科診療所に相談することへの広がり目指し、その実現に向かっての政策を積み重ねる必要があります。先ずは先生方が診療所で「飲み込みは大丈夫ですか」の一言を問える環境作りがその第一歩です。




『この道しかなかった中で』

この原稿を書いている今、衆議院選挙の結果は分かっていません。しかし事前の各マスコミみれば自民党圧勝予測です。選挙は投票箱が閉められるまで何が起こるか分かりませんが、少なくても安倍退陣はなく、任期2年を残しての安倍首相の解散の決断は見事成功となりそうです。
メディアは大義ない解散と騒ぎましたが、今回の安倍首相の解散目的は明確です。日本の経済再生を目指し、自らが提唱したアベノミクスの敢行の為の長期政権への道を切り開くことです。無論、長期政権となってもアベノミクス成功の確定はありません。しかし野党からは、アベノミクスに代わって日本経済再生を可能とする具体的な対案は示されませんでした。マニフェストに踊らされて政権交代を選択したことを悔やむ多くの有権者は、その提示なしで現在の野党にもう投票することは出来ません。また第三極への期待感も、離れたりよりを戻したりの腰の落ち着きのなさを感じ、一時のブームに終わりそうです。となると自民党のキャッチフレーズ「この道しかない」、安倍政権に託すしか今回の選挙では有権者に選択肢がなかったことになります。では長期政権となるこれからの政治情勢を踏まえて、歯科界はどう安倍政権と向き合わなければいけないのでしょうか。
今回の総選挙でのマスコミの世論調査では、有権者は社会保障に対しては経済再生と並び非常に関心をもっていましたが、その政策論戦は殆ど成されませんでした。特に自民党が示した政策は、医療に関してはないも等しいような扱いです。唯一あったのが、既にスタートしている社会保障改革のプログラム法案のスケジュールに則って進めるということです。但しこのプログラム法案の対となす消費税増税が延期となったわけですので、そのスケジュールの変更は必要になってきました。恐らく16年度改定に対しては、これを理由に財務省から厳しい対応を迫られるのは必至です。
この現実の意味するものは、現行の医療制度、水準を是とする考え方がベースにあります。消費税増税、経済再生となって税収が増えたとしても、けっして医療の大幅な拡充が成されるわけではありません。それどころか、もし経済再生と成らなければ医療費はそぎ落とされる可能性もあります。これからは少子高齢化、財政再建を踏まえて、いかにレベルを落とすことなく現行の医療を保つことへの模索が始まります。しかしながら理不尽な政策に対して、責任ある医療人として対応することは当然であり、大きな改善が必要な歯科と、既に一定の医療経営環境を維持している医科とでは立ち位置が異なります。先ずはこの点への内外の理解を求めることがスタートとなります。
選挙終わるのを待って各種医療政策への対応が加速的に進みます。幸いにして政治の世界では現在の歯科医療の現状は理解されつつあり、一つ一つの政策毎の対応スタンスが求められています。果たしてこの道しかなかった中で、歯科界はどう歩みを進めるべきなのでしょうか。歯科界の政策対応能力と政治力の真価が問われています。




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『「国会版社会保障制度改革国民会議」最終とりまとめ』

「国会版社会保障制度改革国民会議」最終とりまとめ
国会版社会保障制度改革国民会議

1.はじめに
国会版社会保障制度改革国民会議は、政府に設置された社会保障制度改革国民会議における議論が主に消費税引き上げに伴う財源の適切な使いみちに関するものになっていることに鑑み、より中長期的・全体的な視点から、我が国の社会保障や財政のあり方等について検討するため、党派を超えた多くの議員の参加を得て創設されたものである。
当会議は、社会保障制度改革は国民の暮らしに直結することはもちろん、我が国財政への影響も甚大であり、党派の主義主張や政治的対立を超え、将来世代にも責任をもった形で合意を図っていかねばならない、との考えのもと議論を進め、4月24日には中間提言を政府に提出した。
その後、更に議論を継続、深め、この度、最終報告を以下のとおり取りまとめた。

2.改革の三原則
これまでの議論を踏まえ、社会保障制度改革を進める上では、以下の原則に沿うことが不可欠であると考えている。

①国民がガバナンスできる、わかりやすく簡素な制度に
現行制度は、度重なる制度改定による条件の細分化等の結果、詳細化・複雑化を極めており、受益者であり負担者でもある国民が理解しがたいものに変容してきている。国会においても、報酬改定における改定率や個別項目の反映には関心を払うものの、複雑化した社会保障制度の全体像を解明することは容易にはできなくなっている。
国民にとって安心の拠り所であり、負担も求められる制度だからこそ、負担と給付の関係を可視化できる、わかりやすく簡素な制度であることが求められる。加えて、国民が十分に理解・納得の上で判断しうるよう、情報の公開、共有も進めなければならない。

②将来世代にも責任を果たせる持続可能な制度に
今般、消費税引き上げに向け三党の合意を見たが、主として高齢者向け社会保障分野に関する当面の財源が手当てできたにすぎない。我が国の財政の現状や少子高齢化の進展等を踏まえれば、年金、医療、介護ばかりでなく、若年者雇用や子育て支援を含む社会保障制度全体の持続可能性を中長期で見込めなければならない。 
そのためには、a)税・保険料収入の安定的確保、b)野放図な歳出拡大の抑制、真に必要とされる分野への絞込みによる歳出の適切な管理、が不可欠である。
いまこそ、国民の理解を得て、負担の先送りの連鎖を断ち切らねばならない。その際、国民は、単に金銭的負担を負うばかりではなく、自らがその当事者として社会保障制度に積極的に関与するものでなければならない。

③国民(受益者であり負担者)サイドからの改革が不可欠
これまでの社会保障制度改革の議論は、制度毎の縦割りの個別論にかたより、全体論として検討されることは少なかった。確かに年金と生活保護、医療と介護、年金と医療等、各々の制度は独立しているが、受益者である国民からすれば、一体として考えるべきものである。実際、制度間の整合性、狭間の問題も生じている。
更に、年金や医療における制度間及び制度内の負担格差問題も深刻となっており、その是正への本格的な着手が求められる。国民から見れば、税であれ、社会保険料であれ、負担は負担であり、今後は一体的な議論が不可欠である。

3.制度横断的に解決すべき課題
 上記「改革の三原則」に基づき、年金、医療、介護、若者対策などの各制度について検討する前提として、以下の制度横断的課題を解決する必要がある。
①ナショナルミニマム水準の適正化
現在、ナショナルミニマムについては、基本的に、イ)就労可能な人々に対する最低賃金制度、ロ)引退世代に対する基礎年金制度、ハ)あらゆる人々に対する生活保護制度が存在している。我が国の場合、最低賃金が生活保護とほぼ近接し、一部都道府県では生活保護水準が最低賃金を上回る状況も存在している。そして、基礎年金水準は、これらの水準を下回る状況にある。
この結果、就労や保険料納付に対するインセンティブが阻害されており、ナショナルミニマムについては、a)勤労による最低賃金、b)現役時代の保険料納付結果としての基礎年金、c)生活保護の順序で、ナショナルミニマムの水準を適正化していくべきである。

②社会保障制度における「所得」概念の統一
現在、社会保障制度における「所得」概念はバラバラの状況にある。例えば、医療においては、国保の場合、収入から公的年金等控除や専従者控除、さらには住民税の基礎控除などが差し引かれて課税標準となるが、組合健保や協会けんぽでは「収入」そのものが課税標準となっている。このことは、年金においても同様であり、こうした「所得」概念の差異は、国民の間の不公平感を助長するのみならず、制度内、制度間の改革を困難にする要因ともなっており、できる限り是正していく必要がある。
また、「高所得者」、「低所得者」を議論する際の所得概念についても、不動産所得や金融所得を含めた総所得、包括所得の概念の導入を図っていく必要がある。

4.年金制度について
(1)年金財政の持続可能性確保
年金制度において喫緊の課題は、少子高齢化が進むもとでの、年金財政の持続可能性確保である。これは、いかなる制度体系を選択しようとも、避けて通ることができない課題であり、言い換えれば、800兆円規模とされる暗黙の年金債務を明確に認識したうえで、長期間にわたり世代をまたいでその償還を進めていく必要があるが、その前提として、以下に取り組むべきである。
①第2回財政検証の保守的前提での前倒し実施
年金財政の持続可能性確保の議論の基礎となるのが、財政検証であり、2014年に予定されている第2回財政検証は、極力前倒しで実施されるべきである。
また、そこで用いられる経済前提は、実現値が前提を下回った場合、財政負担を負うのは将来世代となることを考えれば、政府の中期財政プログラムとは明確に一線を画し、保守的に置かれなければならない。
更に、今後の財政検証においては、中期的には、例えば米国における社会保険会計のように、まず、会計基準を定め、その基準に則って、政府が推計作業を行うことを検討すべきである。加えて、政府の推計結果の信頼性を評価する監査組織を国会に置くことが望まれる。

②マクロ経済スライド発動をはじめ負担と給付の見直し
財政検証結果を踏まえ、年金法では求められていないものの、将来世代への負担ツケ送りをこれ以上拡大しないよう、マクロ経済スライド発動をはじめとし、負担と給付の見直しに取り組み、2014年に必要な法制上の措置をとる必要がある。
その際、マクロ経済スライド発動による高齢者の貧困率上昇も懸念されるため、最低保障が期待される基礎年金については、別途、財源の手当てを予め想定しておくと共に、これを踏まえ、制度体系のあり方を充分に議論しておくことが求められる。

③支給開始年齢の引上げ
我が国の平均寿命は、年金制度創設時の平均寿命を遥かに上回り、男性で約80歳、女性で約86歳に達している。年金の支給開始年齢の引上げは不可避であり、早期に決断し、緩やかに引上げを実施していく必要がある。
その際必ず問題となるのが定年年齢延長であるが、そもそも年金は想定以上の長生きのリスクに対応するものであり、定年後の稼得能力の喪失リスクを全てカバーするものではなく、支給開始年齢と定年年齢は切り離して考えるべきものである。また、定年年齢は企業社会との関連で規定されているものであり、個人としては「定年なし」を前提に、年金の支給開始時期を見据えながら個々人がそれぞれ生涯設計を自由に構成できる社会作りを進める必要がある。
なお、生涯現役世代を展望して、高所得者に対する年金支給の一部調整について、マイナンバー制度の定着などを通じた金融資産等の把握の進展状況なども見据えながら検討する必要がある。

(2)年金制度体系の在り方
①現行制度を所与とせず制度体系の議論を推進
現行制度は、厚生、共済、国民各年金制度に基礎年金を接ぎ木するかのような形になっており、複雑かつ分かりにくいものとなっている。加えて、マクロ経済スライドが発動されれば、基礎年金も対象となることから、その給付水準は、「基礎」の名に国民が寄せる期待から一段と乖離していくこととなる。
そこで、年金制度に本来期待される諸機能、すなわち、a)従前所得保障機能、b)最低保障機能、c)強制貯蓄機能などの面から、改めて基礎年金と報酬比例年金がそれらに応えるものとなっているか否か点検し、現行制度を所与とすることなく、年金制度体系見直しの議論が積極的に進められなければならない。
なお、そうした見直しの際、基礎年金と生活保護、公的な報酬比例部分と私的年金は、その機能が近接することから、一体的に俎上に載せられることが必要である。

②被用者年金一元化の一段の推進
今回の社会保障・税一体改革において、厚生年金と共済年金の一元化は進展をみたものの、なお、積立金が従前どおり、各事務組織によって個別に運用されるなど、完全な一元化とは言い難い。今回の一元化法にとどまらず、一段の一元化を推進すべきである。

5.医療制度、介護制度について
(1)短期的改革
①先ずは、70~74歳の自己負担を現行法に定める本来水準に戻すこと
社会保障・税一体改革大綱(平成24年2月17日閣議決定)において、70 歳以上75 歳未満の方の患者負担について世代間の公平を図る観点から、見直しを検討するとされたにも関わらず、段階的引き上げにも着手できなかったところである。
これは、将来世代にツケを先送りする判断であり、早急に法の定める水準への是正が不可欠である。尚、本是正に際しては、医療のみならず年金等も含め、高齢者の生活保障のあり方を全体として改めて検討する必要がある。
②介護保険の自己負担を引き上げること
介護保険については、他の社会保険制度に比して新しい制度であることから、これまで制度定着のためのサービス拡大に重点が置かれてきた面が見られる。しかしながら、既に制度創設から10年以上が経過しており、今後は、負担と給付のバランスをしっかりと図っていく必要がある。
この観点から、先ずは、在宅介護に比べて負担と給付の水準に乖離が見られる施設介護について、自己負担を2割に引き上げるべきである。その上で、引上げ分によって得られる財源を使って、在宅サービスや居宅系サービスの充実を図っていく必要がある。
また、既に医療においては3割負担にまで引上げが進められていることを踏まえ、高所得者の介護サービス利用については自己負担2割への引上げを進めるべきである。
 
(2)中期的改革
①地域に根ざし安心して医療・介護を受けられる地域包括ケア体制の確立を
患者、その家族の視点から考えた場合、医療・介護等は一体として受けられるよう、地域包括ケア体制の確立が必要である。
その前提として、a)地域における医療、介護等事業者のネットワーク化、b)患者の立場に立ち、地域の医療・介護を守る主体(市民も含めたNPO等)、c)財源面では、地域に必要なケア体制を確立するため、その原資となる管理料(定額、従来の出来高制ではなく、地域において包括ケアを担う責任に対する報酬)等が必要とされる。なお、患者の視点から考えた地域包括ケア制度を支える担い手として、地域に密着し、医療・介護の最初の入り口機能を担う総合診療医の確立が不可欠である。
併せて、地域において疾病管理をより進める観点から、総合診療医はもちろんのこと当該分野に知見を持つ看護師等(疾病管理看護師、保健師等)の積極的活用を進める必要がある。
なお、医療専門職集団として、地域医師会において、イ)かかりつけ医を育て・支援する機能、ロ)他職種連携のコーディネーター機能、ハ)病診連携のコーディネーター機能、ニ)初期救急の運営機能などを果たすことが望まれる。

②全国民へのライト(適切な)アクセスの保障
フリーアクセスに加えて更にライトなアクセスを保証する。フリーアクセスは、患者が自由に医療機関を選択できるものの、その一方で、患者やその家族にとっては、適切な医療機関を選ぶことは容易なことではなく、不安を抱えつつ、口コミ、マスコミ情報に頼り、医療機関探しに苦労するというのが実態である。
「運よくいいお医者さんに巡り会えた」という人とそうではない人とがいてはならず、全ての国民が適切な医療にアクセスできなければならない。
それが、われわれが目指す、ライト(適切な)アクセスの全国民への保障であり、そのために、上記の総合診療医の充実を図る必要がある。
 
③地域に根ざした予防・先制医療の充実
上述の地域における包括ケアにおいては、予防・先制医療の視点を重視しつつ、予防・健康増進、健診・検診の充実を通じた生活習慣病対策、慢性疾患対策を図っていく必要がある。その際、予防・先制医療についても、診療報酬体系の中で適切な評価・支払がなされるよう、取り組んでいく必要がある。
なお、その前提として、各地域における疾病構造の把握及び分析結果の共有が必要である。その際、国保のみならず協会けんぽや組合健保も含め、保険者横断的であることが望まれる。

④生涯保健事業の体系化
乳幼児期、就学期、就労期、高齢期それぞれの保健事業は、現在、根拠法や実施主体、所管省庁・部局がバラバラになっているが、前述の予防・先制医療の充実に資するよう、これを統一化し、生涯保健事業として体系化することにより、国民一人ひとりの生涯を通じた保健情報が一元的に管理・利用できる体制を整備すべきである。

⑤出来高制に基づく報酬体系の抜本見直し
現状の出来高制を主とする報酬体系は、医療や介護提供者等のサービス増大や設備投資へのインセンティブを与え、地域全体や国全体で見た場合、過剰な投資が行われる結果となっており、財政的な視点を離れても抜本見直しが不可欠である。
その際、診療・介護行為を全国一律に誘導するのではなく、各地域でそれぞれに工夫して質の向上と費用の節約を両立できるよう、報酬体系の決定プロセスを地域に委ねていく方向を目指すべきである。
新薬の保険適用等についても、医療財政への影響も想定しながら、基礎的な医療と先進的なものとのすみ分けを進めることも必要と思われる。

⑥医療計画、介護計画等のずれの修正
現在、医療計画は都道府県、介護計画は市町村でそれぞれ策定され、改定時期も一致しておらず、医療・介護等の一体的運用の障害となっている。同様に高齢者住宅計画の作成は都道府県、地域保健福祉計画の策定は市町村とバラバラの状態である。今後、広域、基礎自治体、各々の特性を活かしながら、それぞれが連携して、地域の課題に向き合い、計画を策定し、地域での実践を進める運用が求められる。

⑦保険者機能の再編、見直し
医療保険者は、組合健保、協会けんぽ、共済、国保、後期高齢者医療制度など多種で多数存在している。しかも、国保の保険者である市町村は大小様々で、1人当たり保険料に約4.5倍の差が見られるなど、負担水準の市町村格差も著しい。
また、国保は、自営業者と農林漁業者のための制度という当初の性格から、非正規雇用者と年金受給者の制度に変質してきており、現役世代にとっての保険料負担は重く、保険料滞納も深刻となっている。従来の地域単位と職域単位に分けた連帯のあり方を根本から見直し、高齢者医療制度を含めて保険者の再編を地域単位化、その上での広域化をベースに進めていくべきである。
また、保険者再編に併せて、国、広域自治体、基礎自治体、企業、そして国民自身の責任のあり方、その関係がいかにあるべきか、根本の議論を改めてしておくことも求められる。

(3)保険財政の持続可能性確保・歳出の圧縮・コントロール等
上記保険者再編にかかわらず、健康保険・介護保険に関しても、長期財政推計を実施する必要がある。その際、後期高齢者支援金、前期高齢者納付金について明示した上で、引き続き各保険者が負担していけるのかどうかも含め検証し、財政的持続可能性を一段と高める改革が必要である。なお、終末期における医療のあり方について、今後議論を深めていく必要がある。

6.若い世代の就労・子育て支援
(1)社会保険料負担の抑制
社会保険料負担の抑制は、即効性の期待出来る若年世代の支援策である。社会保険料は、いまや50兆円超に達するわが国最大の「租税」であり、その課税ベースは、主に現役世代の賃金となっている。家計にとっては、所得税よりも対象世帯がより広く、単一料率であることから、低所得層にはとりわけ重い負担となっている。企業にとっても、赤字でも負担が発生し、雇用コストの押上げ要因ともなっている。
社会保険料には、自助の精神を内包するなどのメリットがあるものの、若い世代及び企業活動にとってのデメリットはもはや無視できず、社会保障給付の効率化を通じて負担抑制を図るとともに、社会保険料の累進化及び税体系を含めた社会保障財源の最適化を目指す議論が不可欠である。

(2)勤労インセンティブ税制導入に向けた環境整備
賃金の底上げ策として最低賃金制度があり、「最低賃金でフルタイム働けば貧困ラインからは抜け出せる」ことが基本であるが、企業にとっては最低賃金引上げは雇用コスト押上げ要因となり、逆に労働需要を抑制するなどデメリットも指摘されている。そこで、最低賃金に米国のEITC(Earned Income Tax Credit)のような勤労税額控除(給付付き)を組み合わせることにより、企業の雇用コストを押し上げることなく、自助努力を促すインセンティブを導入しトランポリン型社会保障制度として、実質的な賃金の底上げを図ることを検討すべきである。
なお、税額控除制度導入には、a)国と地方横断的、省庁横断的な制度設計の議論、b)より正確な所得捕捉をはじめ制度を支える行政インフラ整備が不可欠である。このため、金融資産をも対象とするマイナンバー制度の着実な実現など、政治の責任のもと推進していかなければならない。
税額控除制度が定着すれば、人的資本向上への寄与が期待される教育税額控除やベビーシッター代等を控除する児童税額控除など、利用範囲拡大を進める。

(3)民間資源活用による一段の子育て支援
国の統計上の待機児童にとどまらず、100万人規模ともされる潜在的待機児童解消をめざした保育所整備が求められる。その際、公費負担には限りもあり、かつ、スピードも求められることから、極力既にある民間の資源が活かされるべきである。

7.社会保障制度改革推進体制の整備
(1)省庁再編を含めた社会保障制度に関する行政機能の再編
 現在の厚労省の所掌範囲は過度に広範囲に及んでおり、事実上、一人の大臣では対応が困難な状況となっている。このため、先ずは、厚労省から旧労働省関連部局を切り離し、社会保障省(仮称)として再編すべきである。その上で、省内の縦割りを是正するため、例えば、医政局と老健局の統合、社会援護局の一部と年金局の統合による生活支援局(仮称)の設置などを行うべきである。
更に、我が国の裁量的経費の約半分が社会保障支出であることも踏まえると、社会保障制度の企画立案には財政的視野を含め高度・総合的能力が不可欠であり、社会保障の在り方に関する企画立案機能を厚労省から抜出し、内閣府に社会保障制度の企画立案を担当する部局を新たに設けるべきである。

(2)国会に超党派の協議会の設定を
社会保障制度改革は、その影響が長期にわたるほか、厳しい財政制約がある中で超高齢社会を迎える我が国においては、給付・負担両面において国民に厳しい選択を迫らざるを得ないことから、超党派による取り組みが不可欠である。
この点、昨年の税と社会保障の一体改革をめぐる三党合意は画期的な前進であり、この成果を継続するため、国会に各党の党首及び政策責任者からなる社会保障制度改革協議会を設置することを法定化すべきである。
この際、社会保障制度改革について、政党間で合意できること、各々の政党の特色や主張を活かした政策の違いを予め明らかにする等、国民から見て社会保障制度改革の論点を常に理解できる、また、政策面での合意および実行が速やかに行えるよう、各党の協力も不可欠である。

8.その他
政府・与野党は、社会保障制度改革推進法等、三党合意の結果を踏まえつつ、2013年度中に、上記3.から5.の取り組みを推進するための「プログラム法」の制定や「改革工程表」の作成を行い、2015年度までにさらに必要な法制上の措置を講ずるものとする。
(以 上)

【河野太郎衆議院議員ブログ】




混合診療推進については記載はないようです。
しかしながら、8月に定められるとされている三党合意ですら不透明なだけに実現となると非常に難しい感じです。
by kura0412 | 2013-07-08 18:46 | 政治 | Comments(0)