日本の歯科界を診る(ブログ版)


コラムニスト・鞍立常行が日本の歯科界に直言
by kura0412
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「供給過剰とされる歯科医を有効に活用し」

稼げる「医療特区」構築せよ :川渕孝一東京医科歯科大学教授

<ポイント>
○前政権「再生戦略」が描く医療は単なる作文
○医療産業成長も財源の大半は国民負担依存
○医療の成長戦略は財政再建と同時に履行を

「病院に昔のような外来窓口はなく、早期疾病発見プログラムに契約している各家庭に設置したバーチャル診察室がその機能を担っている」
これは小生が文科省科学技術政策研究所の委託を受けてまとめた30年後(2040年ごろ)の日本の医療の姿だ。しかし、こんな夢物語をどれだけ描いても誰も信じてくれない。というのも、2020年までの経済成長の見取り図として民主党政権が昨年まとめた「日本再生戦略」が単なる作文だったからだ。
政府の肝煎りでスタートした「医療ツーリズム」も、海外からの受け入れ患者数は11年4~11月で約1日1件と低調だ(野村総合研究所の調査)。日本政策投資銀行が推計した2020年度の医療ツーリズム市場規模も1681億円と、同年の推計国民医療費47兆円の0.36%しかない。
そこで現在の安倍晋三政権は、アベノミクスの「第三の矢」として6月中旬に成長戦略をまとめるという。だが、医療分野成長の必須要件と考えられる「混合診療」(保険診療と保険外診療の併用)について「制限はやむを得ない」という11年10月の最高裁判決を受け、解禁が政治的タブーとなった。おそらく規制緩和や税制優遇措置と抱き合わせで「医療特区構想」が打ち出されることだろう。

そうした中で参考になるのが、今から18年前の阪神大震災を受けて立ち上がった「神戸医療産業都市」の経験だ。現在はスパコンセンターや、PFI(民間資金を活用した社会資本整備)による市民病院(病床数700床)ができて箱物は一応出そろったが、iPS細胞の臨床応用などこれからが正念場である。事実、神戸市の復興状況は必ずしも芳しくない。震災前年の1994年と比べて2006~08年の数値を見ると、商業販売額は69%、コンテナ貨物取扱量は82%と低水準にとどまっている。
通常、臨床研究は病因・病態の解析と、新医療知識の診断・治療への応用からなるが、応用が一番難しいとされる。日本の医師に臨床試験の知識が不足していることが多いのに加えて、臨床研究を支援する人材が養成されていないからだ。さらに臨床研究には相当の資金を要する。神戸でもお金が尽きて中途断念する医療関連ベンチャーが多い。
そこで米国では国立衛生研究所(NIH=1887年設立)が魅力的な研究プロジェクトに一定の資金援助をしている。実はわが国の旧文部省も1990年代、臨床研究をやりやすくするためのセンター構想を練っていたが頓挫。これからようやく技術開発の司令塔「日本版NIH」を創設するわが国とは大違いだ。

では医療特区の経済効果はどうだろう。神戸市の試算によれば、医療産業都市への企業進出による固定資産税や、雇用増による個人市民税を加味した市の税収増は10年度で35億円。これに対して、施設の維持管理費など11年度の市の支出総額は34億円なのでようやく収支トントンだ。
とはいえ、市内への経済波及効果は10年度で1041億円。前回05年度調査から2.5倍に増えた。推計の基となる進出企業数は同年度の75社から2.7倍の203社に増加。大手企業や研究機関の進出が目立ち、雇用者は3倍以上の8545人となった。
関西圏全域では2223億円の経済効果があったと推計したが、この中には、神戸市内に設置された理化学研究所のスーパーコンピューター「京」や、兵庫県西播磨にある放射光施設Spring―8の効果は含まれていない。
こうした神戸の試みに触発されてか、東日本大震災で被災した東北地区にも「医療クラスター」を創設しようとする動きがある。だが、復興財源をばらまく余裕はもうわが国にない。

1983年以降「国民医療費の伸び率を国民所得の伸び率の範囲内にとどめる」という第二臨調の最終答申を受けて、国は医療費適正化を開始したが、その効むなしくバブル崩壊後も国民医療費は伸び続けている。83年度を起点に2010年度の国内総生産(GDP)は1.7倍しか伸びていないが、国民医療費は2.6倍にもなっているのだ。
換言すれば「失われた20年」やリーマン・ショックなど何のその。伸び率こそ若干鈍化したものの、歯科を除けば医療は名実ともに成長産業なのだ。確かにこの間、一定の雇用を生み出し、医療機関もある程度は税金を納めている。だが、財源の大半を国民負担に依存しているとなると、医療費が増え続けることを手放しでは喜べない。
さらにそれだけでは足りず、国債、つまり後世へのツケで帳尻を合わせているありさまだ。また「お客」である患者や不健康な人が増えることをよしとするビジネスが隆盛となる社会も何かしっくりしない。やはり医療は社会共通資本として国民の健康寿命の伸長と、労働力の再生産に貢献するのが本筋だろう。

だとすれば、医療の成長戦略は「第四の矢」たるべき財政再建と同時に履行すべきだ。人類史上未曽有の少子・高齢社会を迎えるわが国にあって、医療の財源確保がより一層困難になることが予想される。今度こそ一定の時間軸に沿った実現可能な行程表が求められる。そこで提案したいのが少し専門的だが次の「八策」だ。
(1)短期的には、まず、政府の助成を受けてすでに存在する医療情報システムを活用し、ICT(情報通信技術)化を促進するとともに、施設医療中心から「在宅シフト」を加速する規制緩和を行う。
(2)地域格差の著しいわが国にあって、疾患ごとに適正な入院日数を地域別に算出するとともに、各都道府県の地域医療計画にその5W1Hを付記することを義務付ける。
(3)人口に比べて病床数の多い医療機関の再編を達成すべく、「規模の経済」に加えて「範囲の経済」の考え方に立ち、保健・医療・介護を一体化する複合体・グループ化を奨励する。
(4)中期的には一般企業の生産方式を参考にコスト管理を徹底して、医療費増を伴ってきた「増収モデル」を、コスト削減による「増益モデル」に転換する。
(5)供給過剰とされる歯科医を有効に活用し、歯科医師と医師が連携して患者の食事指導をして、胃に穴を開けてチューブで栄養を送る胃ろうをできるだけ避ける「脱胃ろう化」を進める。(6)現行の薬価制度を努力する者(製薬業界、医師や医療機関、卸・保険薬局、そして保険者や患者)が報われる仕組みに改編することで、安価な後発医薬品(ジェネリック)の普及を促進し、医療用成分を一般用医薬品に転用する「スイッチOTC」化を進める。
(7)そして長期的には、完治しない慢性疾患の増加が予想されることから、現行の診療報酬制度を抜本的に見直し、1人の患者・利用者の生涯医療費を一気通貫で把握できるような支払い方式に転換する。そうすれば、疾病を予防する保健事業などに経済的インセンティブ(誘因)が働くのではないか。
(8)さらに諸外国では一般的になっている費用対効果分析の手法を活用した保険給付のルール化も肝要だ。これは社会保障・税の一体改革で議論することになっているが、最終的に後期高齢者は医療保険の対象となる「要医療」と、介護保険で賄う「要介護」の峻別(しゅんべつ)が困難なので、高齢者医療制度と介護保険制度の統合も検討してはどうか。

どれもお金をかけないで実行できる「成長戦略+財政再建策」だ。国の借金も約1000兆円となる。民(たみ)の知恵と資金を活用し、日本のお家芸のモノ作りにしなやかなインフラ輸出としたたかな知財戦略を付加できるか。ぜひ「外貨を稼げる真の医療特区」を構築してほしい。

【日経新聞】
by kura0412 | 2013-05-22 16:29 | 医療政策全般 | Comments(0)
ミラーを片手に歯科医師の本音
回想

本紙閉刊に伴いこのコラムも今回で最後となります。平成10年9月から19年間、筆が進まない時もありましたが、締め切りを遅らせることもなく、また大きなトラブルもなく終えることにある意味安堵しております。ただその中で一度だけで校正まで終えながら書き直したことがありました。それはあの「日歯連事件」と称された事件が勃発した時でした。
あの時は一人の開業医でしかない私が、社会事件になるほどの大事件に対して実名で書くことに躊躇しましたが、事件に対していろいろな観点から憤りを感じ、もし問題となれば歯科医師を辞める覚悟をもって書きました。この事件によって日本の歯科界に大きな変化があったことは多くの先生方が感じられたことです。今思えばその内容は別として、あの時書き綴っておいたことが、その後連載を続けられた源になっていたかもしれません。
然るに風化しつつあるあの事件の本質は何だったのか。その手法に対しては司法判断が下った結果が示されていますが、事件の根本には、現在も続く歯科医療に対する公的評価の低さを何とか打開しようと考え方がありました。この点を誰もが分かっているのに言葉に出ていません。但し結果的には中医協委員が1名減員、事件後の懲罰的な18年度改定となり、歯科界の思いとは反対の流れを作ってしまいました。特に改定では、それまでの改定時で、技術料を引き下げながら作った僅かな財源を「かかりつけ歯科医」初再診料に振り分けながらも、「かかりつけ歯科医」を一気に消し去られたことによって、保険点数全体が縮小したと共に、時代の流れである「かかりつけ歯科医」という名称、概念をも否定されることになってしまいました。そして事件によって植え付けられた歯科界の負のイメージは現在も引きずっています。
日本の歯科界は今、大きな分岐点に差し掛かかり、新しい息吹が入る機運も高まっています。但し、この負のイメージを引きずったままでは大きな壁が存在します。あの事件は終わったのでなく、まだ背負っており、それを回顧することで歯科界の課題を改めて見出すことが必要です。
残念ながら現在、日歯、日歯連盟共に入会者、特に若い先生の入会が減少しています。事件の影響、また、入会することへの利点を見出せず、医療環境向上寄与への期待が薄らいでいるからです。個人で個々の臨床現場での対応出来ても、政策を変えるには一つの塊にでなければパワーが発揮できないだけに、この問題は歯科界発展の最大の課題です。その為には、過去の問題となった出来事を背景も含めて改めて見直し、そして新しい目標を示す。それも抽象的でなく、具体的な分かりやすい政策を提示することで歯科界の展望が分かることで推進力の働きとなります。
最後に、本コラムを続けなければ会うことの出来なかった全国の先生方と交流できたことは、私の歯科医師人生としての財産となりました。そして、好き気ままに綴ることを甘受して頂き、連載を許して頂いた歯科時報新社・吉田泰行社長に感謝を述べ終わります。ありがとうございました。
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