『野田さんはケジメがなくなった』

野田さんはケジメがなくなった

ケジメという言葉は、なぜか片かなで書きたくなる。好みの問題かもしれないが、漢字ならどんな字になるのか、辞書を引いてみると、漢字はないらしい。
それはともかく、最近の政界をみていて、一つ感じることは、ケジメが甚だあいまいになった。ケジメをつけるべきところはつけておかないと、あとがみんなおかしくなる。ところが、つけようとしないで、割合平気に流れているのではないか。

昔の話になるが、一九八九年だから二十三年前のことだが、海部俊樹さんが首相に就いた、昭和生まれの初めての首相だった。実力でなったのではなく、時のキングメーカー、金丸信さんのご指名といわれ、みんながそんな目でみていたのだ。
当時、やはり金丸さんのご指名で小沢一郎さんが四十七歳の若さで自民党幹事長に就任し、
「担ぐ御輿は、軽くてパーなヤツが一番いい」
と漏らしたとかで、新聞のゴシップ記事にもなった。海部さんを蔑視した発言であることはいうまでもなく、誰もが知っていた話だから、いまさら紹介するまでもない。
問題はその先である。
海部さんは名誉を傷つけられながら黙っていたのか。当時は、表向きなんの動きもなかった。ところが、二〇〇九年の衆院選で落選(愛知九区)したあと出版した『政治とカネ−海部俊樹回顧録』(新潮新書・二〇一〇年刊)のなかで、海部さんなりのケジメをつけていたことがわかったのである。こう記している。
〈私に関する小沢発言のなかで、最も有名なのはこれ(「軽くてパー」発言)だろう。人づてに聞いた私は、彼に直接訊いた。
「言ったのかい?」
すると彼は、しゃあしゃあと、
「言った憶えは断じてない。記事を書いた記者を呼びつけましょう」
と凄んでみせた。
もちろん、私はそんなことはしなかったし、要は、首相と幹事長の間柄として、腹に溜めたままにしておきたくなかっただけのことだ。真相はどうでもいい。上に立つ者は、それくらいは飲み込んでしまわないといけない。……〉
小沢さんに問いただしたことをその時に公表したほうがもっとよかっただろうが、まあ、それはいい。私は読んで内心救われた気がした。海部さんは黙っていなかったのだ、と。

さて、昨今である。
一つは尖閣諸島の国有化だ。私は国有化は判断ミスだと思っている。なぜ野田佳彦首相がそんな決断をしたのか、ずっと解せなかった。
ところが、十月十二日、前原誠司国家戦略相がBS朝日の番組で、内幕を明かし、翌朝各紙の囲み記事になったので、読まれた方も多いだろう。
それによると、野田首相は国有化決定の前、石原慎太郎東京都知事と秘密会談をしたが、
「石原さんは『(中国との)戦争も辞せず』みたいな話をして、首相はあきれた。国として所有しないと、都に渡したら大変なことになると考えたのだ」
と前原さんは述べたという。
石原発言が国有化という強硬策の理由だったというのである。しかし、これもおかしな話だ。都が戦争できるはずもなく、あきれるのはいいとして、自衛隊最高指揮官の野田さんが石原発言にたじろぐことはまったくない。
そういう趣旨のことを十三日の民放テレビで私が述べたら、同席した議員が、
「前原さんの話は(野田・石原会談の)同席者からの伝聞で、正確かどうかわからない」
と言う。
そうかもしれない。それならなおさら、野田さんは国民に対して真相を述べ、ケジメをつけなければならない。国有化は日中を揺るがす大騒動に発展し、あちこちに実害が発生しているのだ。決定責任者があいまいにしたまま沈黙することは許されないと思う。

◇原発ゼロ、復興予算流用 「近いうちに」どうする?
もう一つ、消費増税をめぐる対応でも同じことが言える。
これは新聞のコラムにも書いたことだが、みんなの党の江田憲司幹事長が『財務省のマインドコントロール』(幻冬舎・三月三十日刊)という本を出し、
〈財務省にしてみれば、野田という政策も行政経験もない政治家を操ることなど、赤子の手をひねるよりたやすい。……〉
などと書いた。野田さんはパペット(操り人形)だというのである。
言いたい者には言わせておけ、ということかもしれない。しかし、学者や評論家、テレビ・コメンテーターの発言ならともかく、公党の首脳が活字でばっさり切り捨てたのだ。野田さんは反論するなり、撤回を求めるなり、きちんと対応してケジメをつけないと、国民の側は、ひょっとしてそうなのかな、と思ってしまう。
たまたま気づいたことを二つあげたが、似たようなことがあちこちに転がっているのではないか。
〈二〇三〇年代に原発稼働ゼロを目指す〉という政府方針も、方々から矛盾点を指摘されたまま漂流している。復興予算の流用問題に至っては、話にならない。いまごろになって、野田さんに、

「厳しく絞り込む」
なんて言われても、誰も信用する気になれないのだ。
なぜこんなメチャクチャなことになったのか、というもとのところから、最高責任者の野田さんは謙虚に振り返り、ケジメをつけていかなければ、政権は確実に失速する。
さらにつけ加えるなら、「近いうちに」発言だ。世間のはやり言葉になってしまった。野田さんがこれにどうケジメをつけるのか、大げさでなく全国民が注視している。
「(消費増税法が)成立した暁には、近いうちに国民に信を問う」
と民・自・公三党首で合意したのは八月八日、すでに二カ月半が過ぎている。野田さんは、
「忘れたわけではない」
と言っているそうだが、このままあいまいな態度を続ければ、〈ケジメなき首相〉という失格の烙印を押される。海部さんを見習ったほうがいい。

【岩見隆夫・サンデー時評】




このままで進むと党内外から野田降ろしがうごきだすかもしれません。
by kura0412 | 2012-10-25 11:06 | 政治 | Comments(0)