日本の歯科界を診る(ブログ版)


コラムニスト・鞍立常行が日本の歯科界に直言
by kura0412
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「歯科研修における医科麻酔」

歯科研修における医科麻酔
平岡敦・弁護士

1.千葉県がんセンターに対する捜査
本年(平成23年)2月18日,千葉県警が,医師法違反容疑で,千葉県がんセンターに対する捜索差押えを行った。報道によると,センターの歯科医師が,医師にしか認められていない部位への麻酔(医科麻酔)を行ったとのことである。歯科医師による医科麻酔は,研修目的でのみ行うことが認められているが,この歯科医師は研修の指針で定められている手続きを取っていなかった,ということである。これに対して,センターは,研修の指針に従って研修を行っており,問題はない,としている。
報道されている範囲では,曖昧な部分がかなりあるが,果たしてこの歯科医師による医科麻酔は,法に触れる行為なのであろうか。

2.歯科医師の麻酔科研修
歯科医師も日常,麻酔を使うが,その多くは局所麻酔である。しかし,局所麻酔ではあっても,歯科治療中の麻酔事故は数多く起きている。そこで,歯科医師も麻酔管理の技能を身につける必要があることから,医科麻酔を学ぶ麻酔科研修が行われているのである。
しかし,医師法17条は,「医師でなければ、医業をなしてはならない。」と定めている。医科麻酔も「医業」に含まれるので,「医師」ではない歯科医師には,医科麻酔は行えないのが原則である。医師法17条には罰則規定(31条)もあり,違反すると最高で懲役3年,罰金100万円に処せられる。したがって、歯科医師の麻酔科研修が「違法」でないとされるのは,例外的なことであり,何らかの違法性が阻却される事由がなければならない。
どのような場合に歯科医師の麻酔科研修が違法でないとされるのかについては,厚労省が平成14年に定めた「歯科医師の医科麻酔科研修のガイドライン」が参考となる。このガイドラインは,平成19年に三井記念病院で起きた事件をきっかけに,平成21年に改訂された。三井記念病院事件の際に設置された特別調査委員会の外部委員であった鈴木利廣弁護士・明治大学法科大学院教授は,「ガイドラインの法的位置づけについて」という報告書を出している。その中で鈴木教授は,ガイドラインを「医師法17条違反の違法性を阻却するための厳格な要件」であるとしつつ,同時に,三つの要件を挙げている(ガイドラインと三つの要件の関係は,明らかにされていない)。三つの要件とは,①目的の正当性(研修目的),②安全確保のための方法の正当性,③患者の同意である。

3.犯罪への該当性を判断する基準
考えるに,医師法17条が医業を行える者を医師に限定したのは,医業が侵襲を伴うものであることから,それを例外的に行える者を,高度の医学教育を受けて,技能を有する者に限定する趣旨であると思われる。したがって、医師法17条の例外に該当するか否かの判断は,厳格に行われるべきものであろう。
そう考えると,前述の鈴木教授が挙げている①目的の正当性,②安全確保のための方法の正当性,③患者の同意という要件は,違法性阻却のための要件としては,妥当なものであると思われる。ガイドラインの位置づけは,①や②が確保されていることを裏付ける間接的な事実又は証拠とすべきではなかろうか。

4.千葉県がんセンターのケース
千葉県がんセンターのケースは,報道では,前述の①から③の要件を満たしていたのか否かが,はっきりとしない。ただ,ガイドラインで規定されている登録や報告がなされていなかったのではないか,という疑いがあることだけが分かっている。おそらく,単にガイドラインに準拠していなかったというだけでは,犯罪成立とすることはできないように思う。研修の実態を見て,歯科医師によりなされていた医科麻酔が,①研修目的の範囲にとどまるものなのか,②ガイドラインに規定されている安全確保のための基準に合致していたのか,③患者の同意を得ていたのか,を慎重に見極めるべきであろう。
報道によると,センターには,麻酔科専門医1名,麻酔科医員2名,十数人のパート医がいたということである。これに対し,センターで麻酔科研修を行っていた歯科医師は4名とのことである。ガイドラインによると,麻酔科研修の研修指導医は,麻酔科指導医,専門医又は認定医でなければならないとされている。そして,たとえば,麻酔導入・覚醒,気管挿管・抜管,麻酔中の薬物投与,術後疼痛管理などは,研修指導医の指導・監督及び介助のもとに行わなければならないとされている。「介助」とは,「歯科医師の行為が実質的に機械的な作業とみなし得る程度まで研修指導者が管理・支配することをいう」とされている。したがって、センターの人的体制で,現実に,このような基準に合致した指導が行えたのか否かが問題となるのではないだろうか。
日本の医療現場は麻酔医が恒常的に不足しているという。想像に過ぎないが,研修に来た歯科医師が麻酔医の代替として活用されているような実態があったとしたら,それは憂慮すべきことであろう。しかし,もし仮にそのような事態があったとしても,それは麻酔医不足という政策的なミスが背景にあり,必ずしも歯科医師自身の自発的意思により医師法17条違反行為がなされていたとは限らない,という疑いを持つべきであろう。したがって、今回の事件で短絡的に当該の歯科医師を起訴することには反対である。

【先見創意の会】
http://senkensoi.net/column/2011/03/08232-



以前あったようなこの種の事件とは異なっているかもしれません。
by kura0412 | 2011-03-09 14:28 | 歯科 | Comments(1)
Commented by Blackjack at 2011-04-17 21:35 x
こんな、たかだか条件違反程度のクソみたいな軽微な事で監査、告発なら!厚労省の小役人どもは日常的に逮捕されるだろう(笑)と言う感じです!まだまだ日本の医療だけは、北朝鮮と変わらない密室主義・封建時代そのもの!患者の利益なんてモノよりも既得権役に終始する厚労省(チンピラ)のやりそうなチンケな言いがかり!明治時代じゃあるまいし!指導だ、監査だ、高点数だ、医者は放っておくと悪さするから医療監視だ!とても先進国の医療界とは思えない。
ミラーを片手に歯科医師の本音
回想

本紙閉刊に伴いこのコラムも今回で最後となります。平成10年9月から19年間、筆が進まない時もありましたが、締め切りを遅らせることもなく、また大きなトラブルもなく終えることにある意味安堵しております。ただその中で一度だけで校正まで終えながら書き直したことがありました。それはあの「日歯連事件」と称された事件が勃発した時でした。
あの時は一人の開業医でしかない私が、社会事件になるほどの大事件に対して実名で書くことに躊躇しましたが、事件に対していろいろな観点から憤りを感じ、もし問題となれば歯科医師を辞める覚悟をもって書きました。この事件によって日本の歯科界に大きな変化があったことは多くの先生方が感じられたことです。今思えばその内容は別として、あの時書き綴っておいたことが、その後連載を続けられた源になっていたかもしれません。
然るに風化しつつあるあの事件の本質は何だったのか。その手法に対しては司法判断が下った結果が示されていますが、事件の根本には、現在も続く歯科医療に対する公的評価の低さを何とか打開しようと考え方がありました。この点を誰もが分かっているのに言葉に出ていません。但し結果的には中医協委員が1名減員、事件後の懲罰的な18年度改定となり、歯科界の思いとは反対の流れを作ってしまいました。特に改定では、それまでの改定時で、技術料を引き下げながら作った僅かな財源を「かかりつけ歯科医」初再診料に振り分けながらも、「かかりつけ歯科医」を一気に消し去られたことによって、保険点数全体が縮小したと共に、時代の流れである「かかりつけ歯科医」という名称、概念をも否定されることになってしまいました。そして事件によって植え付けられた歯科界の負のイメージは現在も引きずっています。
日本の歯科界は今、大きな分岐点に差し掛かかり、新しい息吹が入る機運も高まっています。但し、この負のイメージを引きずったままでは大きな壁が存在します。あの事件は終わったのでなく、まだ背負っており、それを回顧することで歯科界の課題を改めて見出すことが必要です。
残念ながら現在、日歯、日歯連盟共に入会者、特に若い先生の入会が減少しています。事件の影響、また、入会することへの利点を見出せず、医療環境向上寄与への期待が薄らいでいるからです。個人で個々の臨床現場での対応出来ても、政策を変えるには一つの塊にでなければパワーが発揮できないだけに、この問題は歯科界発展の最大の課題です。その為には、過去の問題となった出来事を背景も含めて改めて見直し、そして新しい目標を示す。それも抽象的でなく、具体的な分かりやすい政策を提示することで歯科界の展望が分かることで推進力の働きとなります。
最後に、本コラムを続けなければ会うことの出来なかった全国の先生方と交流できたことは、私の歯科医師人生としての財産となりました。そして、好き気ままに綴ることを甘受して頂き、連載を許して頂いた歯科時報新社・吉田泰行社長に感謝を述べ終わります。ありがとうございました。
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